九龍妖魔學園紀

『「実際にゲームに登場するアイテムを使って小話を書いてみよう」なMyお題に基づくプチ話 皆主編』

晩秋と言うよりも、初冬、と言った方が相応しかったその日の夜、葉佩九龍は、やけに嬉しそうに皆守甲太郎を誘った。

《遺跡》に潜りに行こう、と。

「九ちゃん? 今夜はやけにご機嫌だな」

うきうきとした気分を滲ませ、うきうきとした足取りで、九龍が『夜遊び』に出掛けるのは何時ものことだが、それにしても、と、目一杯機嫌良さそうな彼の風情が気になって、寮を抜け出し、墓地へと向かう道すがら、甲太郎は思わず尋ねた。

「やっぱし? 俺、機嫌良さそうに見える? ふっふっふー!」

今の彼が浮かれているのに気付かない者は殆どいないだろうが、まるで、己の機嫌の良さを指摘してきた甲太郎を褒めるような声を出しつつ、肩から下げたAUGをぶん回しながら、九龍は胸を張り、威張ってみせて。

「……少なくとも、今のお前が落ち込んでるように見える奴はいないだろうな。……で?」

こいつは、今日も絶好調馬鹿だ、と甲太郎は溜息を零した。

「いやー、実はさー。この間、セクハラ校務員な境さんに貰った、変なモップあるっしょ?」

が、めげることなく九龍は、弾むような声音で『ご機嫌』な理由を語り出す。

「あの、どうしようもなく貧相なモップだろ? 挙げ句、どういう訳か、見てるだけで不快になってくるモップ」

「うん。何で、境さんがあんな物くれたのか判んないけど、折角だからって、あれ担いで潜ったら、何でか、一緒だった皆の機嫌が猛烈悪くなった、って曰く付きのアレ。……甲ちゃんに、あんな物捨てろ! って言われちゃったし、俺も、流石になあ……、って思ったから、処分しちゃおうと思ったんだけどさ。利用価値を見付けた訳ですよ、俺は」

「……利用価値? どんな」

「知りたい? 知りたい? やっぱ、甲ちゃんも知りたい?」

九龍の機嫌の良さの理由は、境玄道に貰った、何故か対人関係をギクシャクさせるという、どうしようもない曰く付きのモップにあるようで、それの活用方法を見付けた! と何処までも弾むように語り続けながら、九龍は、甲太郎を促し辿り着いた墓地の穴に滑り下りて、今宵の目的地である区画へ続く、両開きの扉に手を掛けた。

「いいから、とっとと話せ。鬱陶しい」

「……相変わらず、つれないやね、甲ちゃんは……。……ま、めげないけど。──あれは、見てるだけで、理由もなく機嫌が悪くなるモップっしょ? ってことは、《遺跡》のどっかに立て掛けとけば、モップ効果で化人達も嫌気差して、どっかに行くんじゃないかと。で、ホントにそうなれば、探索が無茶苦茶ラクチンになるんじゃないかと! ……と思いましてですな、俺は、それを実行した訳ですよっっ」

────そうして彼は勢い込んで、バンッッ!! っと扉を開け放ち。

「…………………………九ちゃん……」

九龍の、毎度毎度の馬鹿過ぎる発想に、甲太郎は、眩暈がする……、と、こめかみを押さえてから、盛大に溜息を吐きつつ、アロマを銜えた。

「何? 甲ちゃん」

「お前な。その、足りな過ぎる知恵をそれでも絞って、もう一度、よーーーーーー……く考えろ。あれの、見てるだけで理由もなく不快になるってのが、化人にも適応されるとして、の話だが。……例えば、お前が、そんな物を目の前に一日中立て掛けられ続けたら、どうなる?」

「……えーと。………………多分、すんごく機嫌悪くなって、暴れ……──。…………お? あれ? ……甲ちゃん。俺、どっかで何か、間違った?」

「…………気付くのが遅過ぎるだろ、馬鹿九龍っ!!」

嫌味ったらしい態度を甲太郎に取られても、九龍がめげることはなかったが。

溜息付き付きの彼が言う通り、勇んで進んだ区画の化人達が、何故か、今夜はどうしようもなく凶暴な気配を漂わせている、と気付いた九龍は、己の考えの、何がいけなかったんだろう……? と素朴な感じに首捻り。

何で俺が、こんな目に遭わなきゃならないんだ! と雄叫びながら甲太郎は、一発、盛大に九龍に蹴りを叩き込んでから、蹴っ飛ばした彼が吹き飛ぶより先に、その襟首引っ掴んで走り出した。

怒りの形相で、自分達へと向かって来る化人より逃げる為に。

End

後書きに代えて

2010.01〜2011.07の拍手小説でした。

すみません…………。

──タイトル通りのお話です(笑)。

うちの九龍なら、これくらいのことはやる。きっとやる(真顔)。そして、甲太郎は巻き添えを食らう。でも、九龍の馬鹿に付き合いもする(笑)。

……本当に、うちの二人は馬鹿だ……(笑)。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。