東京魔人學園剣風帖

『「実際にゲームに登場するアイテムを使って小話を書いてみよう」なMyお題に基づくプチ話 京主編』

毎日毎日、来る日も来る日も暑かった。

始まったばかりだと言うのに、夏は、まるで真っ盛りの如くで、悪夢の一学期末テストは真っ直中で、緋勇龍麻の頭も、蓬莱寺京一の頭も、煮物になる寸前だった。

暑さにげんなりさせられて、翌日も行われる期末テストにもげんなりさせられて、脳味噌は煮え切る数秒前で。

その所為で、龍麻も京一も、その日の放課後は少しばかり、機嫌が悪かった。

テストのお陰で、空調設備などある訳もない古びた公立高の校舎より早々に退散出来たのだけは、彼等も有り難く感じていたけれど、それでも。

………………だから。

「蓬莱寺京一ぃぃっ!」

何処かに寄り道して、冷たい物でも買わないか? と、辿っていた通学路を逸れ、新宿の繁華街に向かい、抜け道の裏路地を辿り始めて直ぐに擦れ違った、京一を目の敵にしている風な、他校の、『何処からどう見ても立派な不良達』に、大声で名を叫ばれつつ敵意を剥き出しにされた途端。

「ああ!? 何だ、てめぇ等。人の名前、大声で呼び捨てにしてんじゃねえよ」

京一の目は、柄悪く座った。

「……京一。あの、物騒な一団、何?」

相棒に突っ掛かって来た馬鹿が湧いて出た所為で、もう少しだけ行けば、ガンガンに冷房が効いているファーストフード店に入れる、と、それだけを心の支えに進めていた足を留めざるを得なくなった龍麻の目も、恨みがまし気に細まった。

「さあ? どうせ、何処かで俺とやり合って負けた、どっかのガッコの馬鹿共だろ」

「……成程。それで、京一に逆恨みな感じ?」

「そんな処じゃねえの? つー訳で、龍麻?」

「手伝う。頼まれなくても手伝う。俺は、とっとと店に入りたいっ!」

「俺もだ。暑くて、頭溶けそうなんだよ。──行くぜ!」

そうして、『何処からどう見ても立派な不良達』よりも遥かに悪い目付きのまま、今の自分達にとって最高のパラダイスに向かうべく、龍麻と京一は、左右にパッと散って。

十分と掛からず、複数の他校生を、あっさり、路地裏のアスファルトの上に寝かせた。

「ったく…………。……ん?」

「京一、早く行こうよ。何やってるんだよ、俺、もう暑いのに耐えるの限界なんだけど」

「一寸待て、龍麻」

こっちの機嫌が無茶苦茶に悪い処に突っ掛かって来たお前達が悪い、とばかりに、京一は木刀を、龍麻は拳を、アスファルトの上で呻き続ける少年達の前で嫌味ったらしく振ってやってから踵を返して…………、が、ふと、何かに気付いたらしい京一が足を止めた。

「だぁかぁらぁ。俺は限界なん…………────。……え?」

察するに、たった今返り討ちにしてやった少年達の内の誰かの学生鞄の中から零れ落ちたと思われる、カラフルな表紙の雑誌を拾い上げた京一に、龍麻は文句をぶつけようとして、改めて、親友の手の中の雑誌を見遣り、文句を飲み込んだ。

「それって……」

「……そ。エロ本。折角だから貰っとくか、戦利品っつーことで」

「戦利品……。…………キョーイチ君に質問です」

「はい、緋勇龍麻君。質問は何でしょう?」

「……そんなの拾って、どうするんだよ」

「どうする、って……エロ本の使い道なんざ、一つしかねぇと思うぜ? 俺」

「だからさ。そういうこと言ってるんじゃなくてさ。拾わなきゃいいだろう? そんな物」

中身を地面にぶちまけた鞄の直ぐ傍に転がる、二人共に聞いたことも見たこともない本屋の名前が印刷された紙袋から引き摺り出した雑誌を今にも捲ろうとする京一と、遅ればせながら雑誌の正体に気付いた龍麻は、何時しか路地裏の片隅に寄って、雑誌を間に見詰め合い。

「………………ほー……。じゃ、お前は見ねえな? チラっとも見ねえな?」

「……………………見る。見たい。見せて」

心にもないことを言った龍麻を、ニヤァ……っと京一は笑って、龍麻は素直に白旗を上げた。

「素直で宜しい」

「でも、『使い道は一つ』な京一の後には見たくない」

「んなん、俺だって一緒だっつーの。お前だって、どーせ、『使い道は一つ』だろ?」

「じゃあ、京一。後で勝負しよう」

「どっちが先にエロ本見るか勝負か? アイス食ったらな」

そして、今度こそ踵を返した二人は、コソコソと、序でに取り上げた本屋の紙袋に『戦利品』を仕舞い直し、冷房がガンガンに効いているだろう『パラダイス』へ向かって行った。

End

後書きに代えて

2010.01〜2011.07の拍手小説でした。

すみません…………。

──タイトル通りのお話です(笑)。

高校男児ですもの、エロ本くらいは!(笑) んで以て、手に入れたんなら、活用しないと。多分、それが、由緒正しい青少年の道。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。