東京魔人學園剣風帖
『魔都 ―2003―』
──2003年 01月──
二〇〇三年 一月。
もう間もなく、偶然同じ日に産まれた彼等二人──蓬莱寺京一と、緋勇龍麻の誕生日がやって来る、そんな頃。
一九九九年の春。
東京の新宿区にある、真神学園高等学校を無事卒業した二人は、龍麻の義弟である劉弦月と共に、中国に渡った。
日本に於ける最大の龍脈と、黄龍の力を巡る、約一年に亘った異形のモノ達との戦いを、大切な仲間達と共に制して後、以前から抱いていた、『もっと強くなる為に。誰よりも、何よりも大切な者を、護り通せるようになる為に』との志の下、修行の旅を送る為の渡航だった。
中国に渡った彼等は、劉の故郷であり、龍麻とも関わりの深い、封龍の一族の村落跡に一先ず落ち着いた。
その年より遡ること十八年程前に、龍麻の実の父達と戦い、東京では龍麻達とも戦った異形のモノ──柳生宗崇の手によって、劉の生まれ育った里は、壊滅的なまでに滅ぼされてしまったが、彼等三人が、修行だけに明け暮れる日々を送る為の、細やかな拠点を構える場所としては、悪くなかった。
もう正当な家主を持たぬ、崩れ落ちもせず、焼け落ちてもいなかった小屋の一つを拝借して、所謂生活費を少しでも節約すべく、余り豊かとは言えぬ土地柄ではあったが、小さな畑も拵えて。
そうして彼等は、念願の『時』を過ごし始めた。
……そんな生活が始まって直ぐ、京一が取り掛かったことは、剣術の修行ではなく、氣に関する修行だった。
劉が、素質があるようだから仕込んでやる、と言ってくれた、活剄を取得する為の鍛錬と。
何時に『不慮の事態』が起こっても、龍麻の中に眠る『黄龍』を抑え込める、封龍の一族に伝わる結界を結べるようになる為の鍛錬。
又、京一同様、龍麻が始めた鍛錬も、武道に関するそれではなく、氣……否、『精神』に関するものだった。
何が起ころうと、何時如何なる時も、心穏やかで在れるように。
自身の中に眠る、『黄龍』を目覚めさせることないように。
迂闊に、心の箍を外したり、バランスを崩してしまったりしまわぬよう、彼は、その方面に特化した修行を積み始めた。
故に、彼等のそんな行いが、一応でも形を取り始めるまで──あっという間に流れた季節が、秋の終わりを伝えて来る頃まで、訪れる者は本当に少ない、廃虚に等しい村を片付け、畑を耕し野菜を育て、龍麻の両親や、封龍の一族の者達の墓を守ったり、としながら。
三人の少年は、まるで、修行僧のような生活を続けた。
…………だが、そんな生活も、中国で迎える初めての冬がやって来る頃、漸く変化を見せ始めた。
切っ掛けは、第二の故郷と定めた日本に残してきた、恋人である織部雛乃に逢いに行く、と劉が言い出したことだった。
又直ぐに、ここに戻って来るつもりでいる、とその時劉は言ったが、恐らくはこの先、劉は、中国と日本を頻繁に行き来するようになるだろう、との予測は容易に立てられたので、だと言うなら、この村を拠点としておくことに変わりはないが、そろそろ、大陸各地を廻りながら、腕試しの日々を送ってみようかと、京一と龍麻は話し合い。
劉が日本へと発ったその日、二人も又、放浪を始めた。
何処其処に、剣技や空拳の遣い手がいるらしい、との噂を拾ってきては、噂に聞いたその地へと赴いて、立ち合いを申し込んだり、教えを請わせて欲しいと頼み込んで歩いた。
その合間合間に、福建省の拠点へと戻りはしたし、海の向こうとこちらに分かれて過ごす、大切な仲間達と連絡を取り合ったりもしたが、彼等の生活が、基本、浪々であることには変わりなく。
身体的にも、精神的にも、辛く厳しい修行ばかりだけれど、二人にとっては、毎日が楽しく、何の不満も不足もない、充実した時は流れ。
────京一と龍麻が日本を発って、三年九ヶ月の歳月が流れた、二〇〇三年の冬。
一月。
後十日もすれば、二人揃って二十二歳になる日を迎え。
後半月もすれば、春節──中国の旧正月がやって来る、と相成った頃。
彼等は、深く雪が積もった、拠点の村にいた。