それより、十五分程が過ぎた頃。

少しずつ少しずつ賑やかさを増したその一角は、最高潮騒がしくなっていた。

『連絡網』が徹底したのか、仲間達の全てが、そこへとやって来たから。

雨紋、如月、紫暮、壬生の四人は、真っ向から京一と龍麻へ苦情を言い列ね、舞子、亜里沙、紗夜の三人は、泣き真似をしてみせ。

アラン、マリィ、霧島、さやかの四人と、コスモレンジャーの三名は、ブチブチと文句を零しつつも、明るく見送りの言葉を贈り。

御門、村雨、芙蓉の三名からは、徹頭徹尾、嫌味しか出なかった。

「ああ、そうそう。いけない、これ、皆に渡さなきゃ。わざわざ、ここまで担いで来たんだものね」

──その大半が、文句と嫌味と愚痴だった、皆より二人への言葉が掛けられ終わった時。

片手に下げて来た、大きな、そして重たそうな紙袋の中味を漁りながら、杏子が言い出した。

「これ、あたしから皆に。一人一冊ずつ持ってってね」

言うや否や彼女は、ほいほいほい、と小さな冊子──否、アルバムを配り始める。

「何だ、これ?」

「えーと……。アルバム?」

小さいが、そこそこに厚みがあるそれを、皆同様手渡された京一と龍麻は、ぱらり、と中味を開いて、続けようとしていた科白を飲み込んだ。

………………手渡されたアルバムに閉じられた写真達に映っていたのは、この一年の、自分達だった。

仲間達皆でわいわいと、楽しそうに笑っている姿。

それぞれが不貞腐れつつ、口喧嘩をしている風な姿。

真面目な顔付きで、何やら相談しているらしき姿。

如月の家での宴会で、馬鹿みたいな真似をしている姿。

……その他にも、沢山。

「一昨日、やっと人数分出来上がったのよ。大変だったわー。…………でも、良い記念でしょ? 餞別に、持って行きなさいよ」

「…………そうだな。……サンキュー、アン子」

「有り難う、遠野さん。大事にする」

アルバムの中の自分達に見入っているような二人へ、杏子はそう笑い掛けて。

京一も龍麻も、素直に、笑みを返した。

「………………時間だから、そろそろ行くぜ」

「皆、元気でね」

そうして、その笑みを、なんんだと言いながらも見送りに来てくれた、大切な大切な仲間達へも送り。

名残りも惜しまず、二人は歩き出す。

「気を付けてねー」

「無事に帰って来いよー。野垂れ死ぬなー!」

「無銭飲食は駄目よー!」

「困ったことがあったら、恥ずかしがらずに連絡をして来い」

「迷子になんなよーー」

あっさりと向けられた、去り行く二つの背へ、仲間達は遠慮会釈無く、大声を張り上げ。

「……俺達、そこまで子供じゃないから…………」

「うるせぇぞ、てめえら!」

苦笑を浮かべ、肩越しに、二人は振り返った。

「アニキっ。京一はんっ。忘れとる! わいのこと忘れとる!」

振り返りはすれども足は止めなかった二人の傍らへ、ダッと、劉は駆け寄りつつも、振り返り振り返り、雛乃との別れを惜しみ。

「雛乃はん! 手紙書くさかいな! 電話もするし! 年内中に一遍、東京戻るさかいっ。待っててな! 後生やでっ!?」

「劉ー、置いてっちゃうよー?」

「あんま見せ付けてっと、見捨てんぞー?」

「ああああっ! 待ってぇなっ! 見捨てんといて!」

出来立てほやほやのカップルは、これだから……と、声だけは掛け、龍麻も京一も、さっさと、エスカレーターの向こうに消えた。

一九九九年 三月三十一日、午前。

今年も又やって来た、桜の季節。

彼等の、長かった、けれど駆け抜けるように過ぎ去った一年は、終わった。

そして、一九九九年 三月三十一日、午前。

彼等の、長い、けれど駆け抜けるように過ぎ去るだろう、人生と運命の旅は、始まりを告げた。

End

後書きに代えて

書いた当人の計算を、遥かに上回る長さの話になってしまいましたが(これでも、随所を端折ったんですが……/汗笑)。

東京魔人學園剣風帖 『風詠みて、水流れし都』、お楽しみ頂けましたら幸いです。

高校生だった時代は、私にはもう遥か昔のことなので、おババな私の目には、初々しくて可愛い、孫のようにも見える(笑)高校生な彼等の心情は、今一つ掴み兼ねる部分もあって、「こういう発言は、高校生にしては老成してるか……?」……なーんてことも、執筆の最中は思ったりもしましたけど、これが、私の中にいる彼等です。

初々しくて、可愛くて、元気で、一寸したことで騒いだり喧嘩したり笑い転げたりしながら、大事な仲間達と、なんんだと毎日過ごして、時々、柄にもなく(笑)人生や運命に付いてシリアスに考えちゃったり悩んじゃったり、涙したりなんかもして、極普通の高校生だけど、極普通の高校生だから、自分達の為に、命を懸けて戦った彼等。

戦いを終わらせることが彼等皆の望みだったし、どうしたって、何時までも高校生のままではいられないから、彼等が肩を並べて、笑ったり戦ったりしていられたのは一年限りでしたけれど、それでも、生涯忘れぬ一年だったことでしょう。

自分達の為に──自分達の大切なモノの為に護った世界や歴史の中で、彼等が、大切な人達と、生きて行けるといいな。

この先、もう一寸、私の書く京一と龍麻の話は続きます。

そちらも、お付き合い頂けましたら幸いです。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。