「ホントにもう、甲ちゃんってば、変なとこ好戦的なんだもんなー……」
「京一も京一で、すーぐ、甲太郎のこと、からかいたがるんだから……」
──判ったから、そうガミガミ言うなと、京一や甲太郎が渋い顔を作っても、九龍と龍麻の小言は中々引っ込まなかった。
少々オクターブの高い声での、二人掛かりの説教は、たっふり五分は続き。
「反省するからよー、勘弁してくれよ、ひーちゃん」
「九ちゃん。いい加減黙れ。うるさい」
はいはい、と京一と甲太郎は終いに、小言を右から左へと流した。
「あっ! 甲ちゃんも京一さんも、俺達の説教、聞く気ないですよ、龍麻さんっ」
「……反省の欠片も見せない馬鹿共には、鉄拳制裁が一番」
それ故に、四人入り乱れての、戯れ合いでしかない喧嘩は暫し続き。
「………………あ」
「時間、だな」
不意に、『兄弟喧嘩』を否応無しに打ち切らせる、成田国際空港発、カイロ国際空港行き直行便、MS965の搭乗手続きを促すアナウンスが、国際線出発ロビーに響き渡った。
……その、それぞれが、それぞれの事情に嫌と言う程首を突っ込み、濃厚と言える、瞬く間に過ぎた彼等の半年間に幕を引くアナウンスに、九龍と甲太郎は、じっと耳を傾け。
「……二人共、気を付けて。向こうに着いたら、ちゃんと連絡して?」
「……又、な。二人共。俺等が塒を変える時も、報せるからよ」
行って来い、と、龍麻と京一は、優しい面で、少年達の背中を押した。
「はーーい。行って来まーーす。頑張って来まーーす!」
「あんた達も。無茶は程々にな。色々……気を付けて」
人目に付かぬ一角を出て、ゆるゆるとした足取りで以てゲートまで付き合ってくれた青年達に、九龍はブンブンと手を振りながら、甲太郎はパイプ片手に、微笑みを返した。
「土産、楽しみにしてて下さいっ。ピラミッドのミニチュアみたいな、嫌がらせ系の奴、抱えて帰って来ますから!」
「えー……、そういうのは、俺は一寸なあ……」
「あんたは、酒辺りか? 京一さん?」
「嫌がらせじゃなきゃ、何でもいいって」
後は抜けるだけのゲートの前で、彼等は又、冗談を言い合い。
九龍と甲太郎は、音もなくそこを抜けて、龍麻と京一は、その場に留まる。
「じゃあ、又! 『世界』の何処かで! さもなきゃ日本の何処かで! 二人に、秘宝の加護のあらんことを! ──行こう、甲ちゃん!」
「………………又」
────向こうとこちらに分たれた青年達に、九龍は又、千切れんばかりに腕を振って、甲太郎は細やかに呟いて、躊躇うことなく背を向け。
「次に会う時までに、ヘボじゃねえ宝探し屋とそのバディになってろよ?」
「怪我したり、無茶したりしたら、問答無用で『旧校舎』に連行だから。二人共、そのつもりで。──二人に、宿星の導きのあらんことを」
人混みに紛れて行く二人の背中に、京一と龍麻は、笑いを混ぜつつの科白をぶつけた。
二〇〇五年、四月十日。
散ってしまった一重の桜の代わりに、八重の桜が盛りとなった頃。
葉佩九龍と皆守甲太郎は、己達で定めた、己達だけの、人生と運命の旅を始めた。
その旅路に、実の兄達のように慕う彼等の人生と運命の旅の糸を、確かに絡ませながら。
そして、同じ日、同じ場所で。
緋勇龍麻と蓬莱寺京一は、己達で定めた、己達だけの、新たなる人生と運命の旅に踏み出した。
人生と運命の旅の途中、自身達のそれに鮮やかに織り込まれた、実の弟達のような彼等の人生と運命の旅の糸を、確かに繋ぎながら。
──だから。これより、長らくの刻が過ぎても。
絡まった、繋がれた、彼等それぞれの糸は、確かな縁を紡ぎ続けた。
彼等の、長い、けれど駆け抜けるように過ぎ去りつつある、人生と運命の旅の最中
確かに。
そして、眩しい程に、色鮮やかに。
End
──彼等に、秘宝の加護の、そして、宿星の導きのあらんことを──
後書きに代えて
長くて御免なさい(土下座)。
私自身、認めざるを得ない程(笑)、長くなりました。
でも。
九龍妖魔學園紀×東京魔人學園伝奇 『そして、風詠みて、水流れし都 ―2004―』、お楽しみ頂けましたら幸いです。
書いてる私だけが楽しい話かも知れない、と思いつつ書き始めました。
九龍の話は、剣風帖の五年後の設定、世界だって同一、だったら、九龍のメンバーに、魔人のメンバーがやたらめったら絡む可能性だって何処かにはある筈、と思い込み(笑)、最後まで突っ走ってみました。
九龍の二次創作を書こうと決めた時、既に私の頭の中では、龍麻や京一がナチュラルに絡んでいた、というのもあるんですが。
……本当、書いてて楽しかった!(笑)
キャラ達の濃さでは剣風帖を上回るかも知れない、と思ったりもしましたが(笑)、剣風帖同様、九龍のキャラ達も、初々しくて、可愛くて、元気な子達と思えました。
甲太郎とか甲太郎とか甲太郎とか(笑)、少々人生陳ねちゃってる怠惰君なキャラもいましたけど、彼も彼なりに、一生懸命なんだなあと、私の目には映りました。
皆が皆、軽くはない人生と過去を持ってはいたけれど、青春真っ盛りの、人生にも恋にも未来にも悩み多き、迷える高校生だったな、と。
彼等の宝探し屋に取り戻された大切な宝を手に、彼等が、明るくて新しい未来を歩いて行けるといいな、と思います。
一方、お兄さん(笑)達。
うっかり調子こいて兄貴風吹かせて、何
龍麻の『龍脈アレルギー』は未だ治ってないので、もう少し、ごにょごにょとあるかも知れませんが(本当か? 私)、一先ず、彼等の恋愛模様の方は一区切り、ということで。
京一も、一寸は進歩したし(笑)。龍麻もこの先は、ちょっぴりは開き直るでしょうし。
『家族』──弟達が出来ちゃったから、ちったあしっかりしないとね! 年上なんだし!(笑)
──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。