東京魔人學園伝奇+九龍妖魔學園紀 捏造未来編

『One day 〜夜〜』

敢えて例えるなら、

「お風呂にしますか、お食事にしますか、それともわたくしに致しますか」

……な、『男の浪漫!』としか言えない科白さえ伴いそうな雰囲気のやり取りを、蓬莱寺京梧と緋勇龍斗の二人は交わし、その果て、今日は、先ず風呂に浸かって一日の疲れを取る、と決め、その通り実行に移した京梧が、狭苦しい風呂場から戻ってくるのを待って。

「京梧」

龍斗は、一本付けたから、と卓袱台の上の晩酌の支度を指差してみせた。

「おっ。いいねぇ」

「今日も疲れたのだろう?」

「そうでもねぇぞ?」

「そうか? ならいいのだが」

龍斗が指差す物を見て、湯上がり然とした浴衣姿の京梧は嬉しそうに顔綻ばせ、口に糊する為に、そして蓄えを増やす為に、その日も一日働いてきた──何の仕事なのかは兎も角──京梧を労う言葉を、帰宅した彼を出迎えた時から、もう浴衣姿だった龍斗は告げる。

「明日も、今日と同じ頼まれ仕事か?」

「ああ」

「私も、一緒に行っては駄目か?」

「構わねぇよ。『退治仕事』だ、お前にゃ朝飯前だろ」

「朝飯前か否かは、やってみなければ判らない。お前の邪魔になることはないと思うが……」

「んなこたねぇって。控え目にも程があんぞ?」

数日前、『某所』から誠に気軽なノリで頼まれた『退治仕事』を、それ以上に気楽なノリで京梧は引き受けていて、そろそろ、自分とて『そういうこと』にも馴染みたい、と思っていた龍斗は、細やかに、連れて行けとねだって。そんなやり取りを交わす内、二人は、夕餉代わりの晩酌を終えた。

徳利の一本や二本程度の酒など、彼等にしてみれば呑んだ内にも入らない量だが、京梧は『笊』で龍斗は『枠』と言う組み合わせであるが故、本気で呑み始めたら本当にキリがなくなるから、僅かと言える酒量で止めておく、と言うのが、ここ最近の彼等二人の呑み方だった。

「ひーちゃん、お前、風呂は?」

「もう済ませた」

「なら、寝るか?」

「そうだな。お前は、明日もあることだし」

『大昔の彼等』──特に京梧──だったら、雀の涙、と喚き立てただろう誠に細やかな晩酌を終えて、腰を上げ、簡単に片付け、その部屋の灯りも、台所の灯りも落とした二人は、揃って仲良く布団へと向かう。

既に畳の上に敷かれているそれは、嬉し恥ずかし新婚さんの褥の如く、二人用の大きさで、慣れたように、思い思い柔らかなそこに潜り込んだ彼等は、当たり前以前の態で、抱き合った。

始めから灯りの灯されていなかった暗い室内に、衣擦れの音だけが伝って、やがて、彼等二人を隠していた布団も、彼等が纏っていた浴衣も、乱れて行き、

「……お互い、若ぇな」

ひょい、と摘み上げた龍斗の浴衣の帯を放り投げながら、クスリ、京梧は忍び笑う。

「私もお前も、若いかどうかは兎も角。こうしていたいのだけは確かだ。毎晩でも」

乱してやっても未だ肩を覆っている、京梧の浴衣の懐に指差し入れつつ、龍斗は真面目な顔付きで応えた。

「ま、ここんとこ、毎晩のように、ってのだけは確かだな」

「仕方無かろう? 私にはお前が、お前には私が、足りないのだから」

「……言えてる」

そうして、闇の中、蠢きを止めて見詰め合った二人は、堪え切れなくなったように一頻り笑ってから、改めて、腕と腕を絡め合った。

穏やかに、けれど熱く激しく。

その、一日の終わりに。

End

後書きに代えて

各ジャンルの各キャラ、又は各カップルの某日の某時間帯のお話、と言う設定で書いた、2009.03〜12の拍手小説。京梧主は夜担当でした。

うちでは最も年齢が高い、隠居モードな二人なので、一番アダルトで一番静かに(笑)。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。