東京魔人學園伝奇+九龍妖魔學園紀 捏造未来編

『One day 〜朝〜』

特に、これ、と言った用事はない平日の朝だったけれど、緋勇龍麻は、午前七時に目覚まし時計を仕掛けていた。

それ以上早く起きるつもりは彼にもないが、それ以上遅く起きるつもりもなかった。

寝ようと思えば何時まででも寝ていられるけれど、『実情』はどうあれ、少なくとも公の書類には、無職、と書くしかない己の『身分』をどうしても省みてしまう彼にとって、何の予定もなくとも、午前七時と言う、一般的であろう時間に起きることは、日常生活の上で『人並み』である為の、細やかな努力の一つだった。

だから彼は、仕掛けた通りの時刻にうるさく鳴り始めた目覚ましを止めて、何処となく重たい躰と、少しばかりの寝不足と、それ等の所為で布団への名残りを惜しむ無意識と戦いつつ、「んーー……」と伸びをしながら起き上がった。

「京一。朝だよ」

もう一寸寝ていたい、と言うのが正直な処だけれど、と思いながら目覚めた彼は、酷くうるさい目覚ましの音がしても尚、爆睡を続けている傍らの恋人──蓬莱寺京一の肩を揺すった。

「……あーー……? 今、何、時…………」

「朝の七時」

「…………何だよ、未だそんな時間かよ……。……ひーちゃん、せめて、八時まで……」

「駄目。いい歳した大人が、そんな怠惰なこと言わない。ほら、ちゃっちゃと起きる」

「うー……。なら……、後、三十──

──駄目」

「………………後、五分」

「……きょーいちくーーん? 殴るよ?」

揺すり起こされても、往生際悪く、京一は、未だ寝ていたい、と全面的に訴えてきて、が、龍麻は、ぐずぐずと繰り返される彼のねだりを、悉く突っ撥ねた。

「朝っぱらから、暴力的且つスパルタだな、ひーちゃん……。つーか、元気だな。夕べ、あんなに頑張っ──

──黙れ。それこそ朝っぱらから、恥ずかしいこと言わないでくれよ……」

「事実だろ。……頑張り、足りなかったか?」

どうにも、至福の二度寝を龍麻は許してくれないようだ、と悟り、渋々、しぶとく瞑り続けていた瞼を漸く抉じ開けた京一は、一寸した意趣返し代わりに、『夕べのこと』を引き合いに出して、ニヤッと笑みつつ龍麻をからかい始め、

「いい。あれ以上頑張ってくれなくていい。つか、マジで勘弁して。ギリギリだから。あれ以上頑張られたら、俺、起きられなくなるから……」

何かを思い出したのか、然もなければ何かを想像したのか、ひく……、っと唇の端を引き攣らせつつ、龍麻は遠い目をする。

「ふーーん。じゃ、次は、起きられなくなるまでヤってみっか?」

「……人の話を聞けぇぇぇ! 嫌だって言ってるだろうがぁぁぁっ! あーもーっ! 馬鹿なこと言ってないで、さっさと起きるっ! 今日の朝飯当番は京一なんだからっ」

「へいへい。──朝飯、どうする? 白米にするか? それともパンにするか? さもなきゃ、蕎麦でも茹でるか?」

「麺類は却下。たまには、麺類のこと忘れてくれよ。──白米がいいな」

「ん。じゃ、納豆でも捏ねるか」

「うん。……ああ、鮭の切り身があるから、あれ、焼いちゃって」

「あいよ。──しゃーねーな、起きるとすっか。…………ああ、そうだ、ひーちゃん」

「ん?」

「おはよーさん」

「うん。おはよう」

────それでも、京一は『恥ずかしい話』をさらりと続けて、その所為で龍麻は、忙しなく顔色を変えて、漸く、極在り来たりのやり取りへと話を移した彼等は、揃ってベッドの中より這い出、一日を迎える為の挨拶を交わし、接吻くちづけをも交わし。

「味噌汁、わかめでいいか?」

「えーー、油揚げがいいなー」

在り来たりのやり取りを続けながら、その日も騒がしくなるだろう、一日のスタートを切った。

End

後書きに代えて

各ジャンルの各キャラ、又は各カップルの某日の某時間帯のお話、と言う設定で書いた、2009.03〜12の拍手小説。京主は朝担当でした。

うちのこの二人の朝は、毎朝こんなもん。

仲良し喧嘩しないと、一日が始まらない(笑)。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。