東京魔人學園伝奇+九龍妖魔學園紀 捏造未来編

『One day 〜午後〜』

地中海から、その丘陵地帯まで届く潮風に、髪も体も吹かれながら、どうしたって節々が痛む中腰になって、地味ーーーーーー……に、葉佩九龍と皆守甲太郎の二人は、発掘作業に勤しんでいた。

彼等二人が今いる場所は、数ヶ月前まで彼等がいた東京よりも気温は低い割に蒸し暑く。

照り付ける午後の陽射しに、あー、クラクラする、と頭からタオルを被り、その上から更に被った帽子の中を伝う汗に、九龍は嫌そうな顔をして、いい加減暑さにヤられているのか、機械的に手を動かす甲太郎の目は、若干虚ろだった。

「甲ちゃん……、だいじょぶ?」

「大丈夫じゃない。……何で俺達は、こんな所でこんなことをしてるんだ……?」

「お仕事」

「…………そんなことは判ってる。そういう意味じゃない」

「甲ちゃんが、愚痴りたい気持ちは判るけどさ。俺だって愚痴りたいけどさ。言っても仕方無いじゃん、お仕事なんだから。さー、後一踏ん張り、頑張りましょー!」

──未だ未だ新米の宝探し屋と、新米宝探し屋の新米バディは、今、トルコ共和国中南地方の海岸部で、古代遺跡の発掘作業をしている欧州の大学の考古学部教授率いる発掘チームに、アルバイトとして雇われている。無論、建前上の話だけれど。

以前、九龍が所属するロゼッタ協会に派遣された天香遺跡探索のような、困難且つ神秘と危険ばかりに満ちている、これぞ宝探し屋の仕事! と言わんばかりの『仕事』など、ロゼッタ協会所属のハンターと言えど、特に九龍のような新人では、そう簡単にお目に掛かれるものではなく、地味と言える仕事ばかりを彼等はこなし続けて、今、ありついているその仕事も地味だった。

地味に、大学の発掘チームのアルバイトとして働く振りをしながら、チームの者達は誰も未だ気付いていない、その遺跡に眠るロゼッタの求めるお宝を、ソロっと頂いてくる、と言う仕事。

「頑張る、か。まあ、やるしかないって判っちゃいるんだが……、発掘作業ってのは、どうしてこうも、地味な労働なんだ……」

故に、やらなければならないこと、と判ってはいても、甲太郎はブツブツを止めず、

「まーねー。でも、地味だけどロマンはあるじゃん、発掘って。例えばさー、モヘンジョダロみたいな、人類の遺産! な遺跡に巡り合えるかも知れないしさ」

地味は地味だが、これはこれで、と九龍は気楽に笑った。

「あんなん、只の日干し煉瓦の山だろうが」

「…………いやいやいや。甲ちゃん、世界遺産捕まえて、日干し煉瓦の山、って発言はどーかと」

「事実だろ」

「ロ、ロマンはあるよ? ほら、モヘンジョダロにはさ、古代核戦争説が付きまとってるじゃん。『ガラスになった町』もあるっしょ? あそこ。高熱で溶けた砂が再凝固化して、黒い石になった奴で覆われてるって場所。核実験が行われた場所でしか見付かってないって、あれ。そーゆー逸話は、ロマンっしょ? 古代の超文明とかに、想い馳せられるよ?」

「それの、何処がロマンだ? 単なるオカルト話だろ。何が古代の核戦争だ、馬鹿馬鹿しい」

「そんな、頭っから否定しなくてもいいじゃんか、甲ちゃんの馬鹿! ロマンは、一寸くらい胡散臭くっても、ロマンって受け取っとけばいいんだってのっ」

「ロマン云々を主張するより先に、そのロマンに俺の想いを馳せさせるだけの、科学的根拠でも持って来い。…………いいか、九ちゃん。古代に核戦争が起こった所為で、あの遺跡が滅びたんだとして。ウラン235の半減期は約七億年。プルトニウム239の半減期は約二万四千年。あそこで、ガイガーカウンターが、その事実に相応しいだけ反応するって証拠を出してから、そういう話は俺に吹っ掛けろ」

「…………くっ……、この……っ。可愛くないなー、甲ちゃんはーーっ!」

けれど甲太郎は、ロマンがどうこう、人類の遺産がどうこう、と語る九龍を鼻で笑って、余りにも可愛気の無い甲太郎の発言に、ムキーーーっ! と九龍は雄叫びを上げた。

「おーーーーいっ! 埋葬地らしい跡が、あっちで出たらしいぞ!」

──と、ぎゃんぎゃんとうるさい彼等のやり合いを遮るように、発掘チームの誰かの、英語での叫びが上がり、

「…………お。──甲ちゃん」

「やっと、『仕事』か」

手にしていた道具を放り出し、痛む腰を伸ばして、窪地から身軽に這い上がった二人は、新米とは言え、宝探し屋とそのバティに相応しいだけの顔付きをして、発見に沸く人々より離れ、気配を消した。

──彼等の午後は、そして、『仕事』は、ここからが本番。

End

後書きに代えて

各ジャンルの各キャラ、又は各カップルの某日の某時間帯のお話、と言う設定で書いた、2009.03〜12の拍手小説。皆主は午後担当でした。

うちのこの二人は、ひたすらにお馬鹿。うん(笑)。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。