14.茶色の小瓶

シュウは。

つい先程、誠に不機嫌そうな顔をして、リッチモンドが届けて来た、くすんだ黄色い油紙に包まれた、小さな瓶を、机の上に置いて、それを暫しの間眺めていた。

元々、この瓶は、先日、今でもラダトで、己が屋敷を守っている使用人にこっそりと頼んだ代物で、それを、何処かお節介なあの探偵が届けて来るのは、不可解な話と言えば話なのだが。

彼は、リッチモンドがそれを届けに来た事を、別段不思議とも思わなかった。

先日、ルカ・ブライトの身辺調査を依頼した時に、あの探偵は、随分とその理由に拘っていた様だったから、彼は彼なりに、何かを推理し、何かを思い、ラダトから届けられたこの小瓶に、要らぬ興味でも覚えたのだろう。

──そう云う風に、シュウは考えていたから。

顔色一つ変えずに包みを受け取り、何か言いたそうなリッチモンドを、抑揚の無い声音で退けてみせた。

「まあ、戴けない事は、戴けないがな」

ぽつりと。

シュウは、眺めていた瓶を片手に取って、蝋燭の灯に透かし、独りごちた。

どんな手を使って、リッチモンドが、同盟軍の正軍師宛ての荷物を掠め取ったのかは判らないが、明確な意思を持って、あの男はこの瓶に興味を示し、そして、不機嫌な顔をして、届けに来た。

恐らく、あの探偵は。

この小瓶の中身が毒物である事を、知ったのだろう。

だから、何とも複雑な顔をして、ここを訪ねたのだろう。

どんな所にでも顔を出すリッチモンドだが、薬品に対する知識は、それ程明るくはないだろうから、多分、ここに届ける前に、ホウアン医師辺りに、検分を依頼して。

そして、中身を知った。

だから、届けに来た。

荷を掠め取り、その正体を知ってしまった事を、こちらが咎められないと、計算したから。

「こちらが手に入れた物が、何だかそんなに気になって、正体まで判明したのなら、いっその事、捨ててしまえば良いものを。…何を考えているのか、今一つ、良く判らない男だ」

つらつらと、リッチモンドの行動を想像して。

シュウは、もう一度、独り言を吐いた。

──まあ、尤も。

これをこちらが何に使おうとしているのかまでは、如何なリッチモンドでも、判りはしないだろう。

…そう考えて、軍師は、火の揺らめきに透かした小瓶を、静かに引き出しの中に仕舞った。

そして、密かに…そう、自分でも気付かぬ内に。

シュウは、そっと笑った。

別に、良からぬ事を考えている訳ではない。

単に、何故か自分に執着を見せている、ルカ・ブライトが、次にここを訪ねた時に、隙あらば、毒殺してやろうと思っているだけだ。

──と。