「寝ちゃった……かな……?」

己の腕の中で何時しか、幼子のように泣き疲れて眠ってしまったセツナの横顔を眺め、カナタは苦笑を洩らした。

──今、こうしている自分達の初邂逅の時より、凡そにして二十五年の年月が流れている。

生まれた時より過ごした時間を数えれば、自分は不惑の年齢を越えたし、セツナも又、そろそろ。

なのに、この腕の中で眠る彼は、紋章に呪われた外見だけではなく、その中身さえも、あの頃のままあるようで。

やれやれ……、とカナタは、唯々苦笑いを作り続けた。

差し伸べてやる腕に無条件の安堵を覚え、セツナは泣き濡れもするし、眠りを貪りもする。

例え泣いたとしても、貴方がいるから明日から又笑える、とセツナは云う。

──貴方がいるから、と。

………………でも。

それは恐らく、今は未だ、仲の良い『兄弟』に向ける絶対の信頼と愛情、それに他ならないとしか、カナタには思えなくて。

…………いいや。

『思っておく他、なくて』。

「僕は何時まで、こうしていればいいのかな。僕の腕は何時まで、君にとって、唯の宿り木なのかな……。…………君は、何時になったら。逝ってしまった懐かしい人の思い出を、本当に捨ててくれるんだろうね。懐かしい人達の夢すら、君は見なくていいのに。──……セツナ……? 君は僕と同じで。何も彼も、『知っている』くせに。僕を、包み込むだけの大樹の扱いしかしてくれないね。……何時になったら、君は僕を、『認めて』くれるのかな…………。僕は君を、『征服』してしまいたいのに」

己が腕の中にて寛ぐ存在に、物悲しげな眼差しをカナタは送った。

「…………百年。百年しか、僕は待たないよ? 僕達が出逢った時より数えて、百年目の年まで。あの戦いの頃の僕等を知る存在の殆どが、この地上より消えるだろう頃までしか。それしか、待ってはあげないよ、セツナ」

そうして、彼は。

『刻の区切り』を静かに宣言すると、軽くセツナを抱き直して、その額にそっと口付けた。

「仕方ないから。今は、これくらいで我慢してあげる」

少しばかりくらい光を瞳に宿して、笑いながら、彼は。

「……ん? カナ……タ……さん……?」

「ああ、何でもないよ。……お休み、セツナ」

──くすり、と云う笑いに眠りの淵より目覚め、瞼をこじ開けたセツナを、もう一度寝かし付け。

その時、カナタは、ふいっ……と天頂を見上げた。

夜空の闇色の中に、己が『夢』見る、何かを見付けたかのように。

End

後書きに代えて

……カナタ。百年も待つのか。気長だな(笑)。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。