「…………? どうしてです?」
少々、入り組んだ面差しを見せたカナタへ、セツナが益々、目を見開けば。
「素直に教えると、セツナ、大騒ぎしそうだから。僕の誕生日は何月何日ーって、言って歩きそうだな、って思ってね。でも、少しでも苦労してそれを知れば、『勿体無く』思えて、大騒ぎはしないかな、って。そう思ったんだよ」
他愛無いことなんだけど、とでも云う風に、カナタは語り出し。
「お誕生日のこと……騒がれたくないんですか? マクドールさん」
「んー……。別に、そう云う訳じゃないけど。余計な雑音は、余り聴きたくないのが人情って奴だから。────昔、言われたことがあるんだ。それを僕に言ったのが誰だったのか……今更語ってみても仕方が無いから、それは言わないでおくけど。……昔、ね。あの戦争に首を突っ込んで、解放軍の軍主になった頃。僕の誕生日を知ってたとある人にね、『運命だったのかも』……って、そう言われたことがあって。それが……少し、嫌でね」
「運命……? 何がですか?」
「…………むかーし昔、ね。未だ、あの暦が一般的だった頃。一年の始まりは、一年で一番、昼の時間が短い日、だった。その日にね、世界の全て──太陽も、星も、何も彼もが生まれ変わって。全てが始まり直すのだと、考えられていたから。そしてね、その日は、神話の世界の存在である『天帝』が、生まれ変わる日でもあるのだと、そう言われていて。……その伝説を、とある人は、『伝説の日』に生まれた僕の運命を、重ねたから。……もう、そう云う『雑音』は、一寸、ね。──『トラン』では、昔は良く言われた伝説であり、神話だから。この城にも沢山いる、トランの人達に、同じようなこと、思われたくないんだよ。……だから」
「そうだったんですか…………」
──丸く、瞳を見開き、カナタの話を聴き終えたセツナは。
酷く複雑そうな表情を浮かべ、黙り込んだ。
「……気にしなくてもいいんだよ、セツナ」
だから、カナタは。
黙り込んだセツナの頭を、又、撫で出して。
大丈夫……と、微笑んでみせ。
「処で、セツナ? 僕の誕生日に何か、って思ってくれた君に、僕は何時、お返しをしてあげればいいのかな?」
黙り込んでしまったセツナの想いの先を、逸らそうとでも考えたのか。
ぽふぽふ、セツナの頭を撫で始めたカナタは、そんな風に、話を変えた。
「……あー。僕ですか? 僕は、事情がアレですから、毎年お正月に、ナナミと一緒にお祝いして貰ってました。一年の始めに、一つ歳を取ろうね、って」
故に、顔色を塗り替え、にこぱ、っとセツナは笑って。
「成程、元旦、か。……セツナ、本当の誕生日、判らなかったんだっけ……。……御免ね、嫌なこと尋ねて。でも……だったら、セツナ? 僕だけが祝ってあげられる、セツナの誕生日って云うの、あってもいいよね。『内緒のお誕生日』……のようなの」
よくよく考えてみれば、余り良いとは言えない話題の転換だったなと、一瞬だけ、そんな表情を見せながらもカナタは少しばかり、声を弾ませた。
「僕の、内緒のお誕生日ですか?」
「そう。内緒のお誕生日。僕だけが祝ってあげられる、セツナのお誕生日。──そうだな……。……うん。────六月ニ十ニ日。この日に、お祝いをしてもいい? セツナ。僕の誕生日から数えて、丁度半年後の日に、お祝いしてもいいかな?」
「マクドールさんが決めてくれるなら、僕はそれで大満足ですけど。……でも、何でその日なんですか?」
「僕の誕生日が、一年で一番、昼の短い日だから。セツナのお誕生日は、一年で一番、昼の長い日がいいかなって。二人の誕生日、足して割れば丁度、昼と夜の長さが、等しくなるだろう?」
「あ、成程。ならその日、僕の内緒のお誕生日にしまーすっっ。有り難うございます、マクドールさん。嬉しいですっ」
────だから。
カナタが、楽しそうに言い出した、『その日付け』を。
自分の内緒の誕生日にする、と、セツナは嬉しそうに、受け入れ。
「じゃ、今度その日が来たら、一緒にお祝いしようね、セツナ」
「はいっ! マクドールさんのお誕生日にもですよっっ」
二人はじゃれ合うように、互いの誕生日を祝う約束を、二人だけで交わした。
────遠い、遠い『行く末』。
盤上に、己が生まれた日の『星』を、カナタが再現して見せた本当の意味を、カナタ自ら、セツナに告げ。
永遠、語ることはないだろうと思っていたその意味を、セツナも知ることになるのを、カナタすら、知らぬまま。
盤上に、『星』が再現出来る日を、二人、祝おう、と、その時、彼等は。
End
後書きに代えて
ぶっちゃけてしまえば、カナタの生まれた日は何時でしょう、な話です。
その一言に尽きます(笑)。
因みに、100%正確なこと書いた訳じゃないですが、ホントに、中国の唐代の暦は、カナタがやったように、碁盤使って示すことが出来ます。
豆知識(笑)。
──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。