カナタとセツナ ルカとシュウの物語

『真夜中に見るモノ』

何時の世であろうと、如何なる境遇にあろうと。

概ね、女三人寄れば姦しい、と云うのは真実だ。

況してやそれが、箸が転がっても楽しい、所謂『お年頃』ともなれば。

姦しい処の騒ぎではなくなる。

なので。

戦争や遠征、と云った『戦い』が訪れなかった、穏やかだったその日。

デュナン湖の畔に建つ、同盟軍の居城の、最上階近くの一室では、夜が更けてもキャイキャイと、少女達のさんざめきが絶えることはなかった。

……夜更け、だと云うに、賑やかで華やかな会話を、廊下にまで洩らしているその一室は、この古城を本拠地と定めている同盟軍の盟主、セツナの義姉、ナナミの部屋だ。

ナナミ、と云う少女の、朗らかと云うか、天真爛漫と云うか、な質の所為なのだろう、彼女の部屋は、老若男女を『戦士』として抱えるこの軍の、十代の少女達がお喋りを繰り広げる場として、使われることが多い。

そしてそれは、今宵に限ったことではなくて、少女達が内緒話を交わすには最適な、真夜中、と云う時刻に限ったことでもなく。

部屋中の至る所に、こっそりと、茶菓子が隠してあるナナミの部屋には、それぞれ、思い思いの茶や飲み物を持ち寄る少女達が、ともすれは、朝から晩まで入り浸っている。

そう、今宵も。

そして、ナナミの部屋から洩れてくる会話は、と云えば。

「……ねえねえ。テンガアールちゃんって、ヒックスさんと結婚するんでしょう?」

「…………うん。僕はそのつもり……だけど? まあ、何時になるかは判らないけどね。ヒックスの、『成人の儀式』が終わらないと……。でも、何で? ニナちゃん」

「何でって、ヤだ、そんなの決まってるじゃない。戦士の村の結婚式って、どんなかなあ、って気になるのよ。フリックさんと結婚式挙げるんだったら、フリックさんの故郷でのやり方の方がいいじゃなーい」

「…………………相変わらず、積極的だね、ニナちゃん……」

「そーよぉ。だってフリックさんは、運命の人なんだものっ! 譲れないわ、こればっかりはっ! そう云うナナミちゃんはどうなのよ。好きな人、いないの? ナナミちゃんだって好きな人が出来て、その人と結婚したーい、って思うようになれば、結婚式のことくらい、夢に見るわよ」

「うーーーん……。好きな人、ねえ……。そう言われても……。なぁんとなく、それ処じゃないって云うか……。それにー。私がどうこうって云うよりも先に、セツナの方、何とかしないとねーって、姉としてはそう思う訳よ。あの子、鈍いし」

「あー、それ判るぅ、何となく。私も、自分のことよりも、ボナパルドのお嫁さん見付けてあげる方が先、って思うしぃ」

「…………あの……。セツナとボナパルドって、ミリーちゃんの中では、程度一緒なの……? そりゃセツナって、『小動物並に』、おっとりしてるトコあるけど……」

「えー、そうかなー? セツナさんは、そんなにおっとりしてないと思うけどなあ。それにー、アイリちゃんが一寸頑張ればー」

「ビッキー。あたしが頑張れば、って、どう云う意味だい……?」

「そーゆー意味よ。決まってるじゃない。からくり丸に聴いたって、同じこと言うと思うよ?」

「……あははは。アイリちゃん、メグちゃんにまで言われてるーー」

「…………ナナミっ!」

………………と、まあ。

ナナミの部屋に集った少女達の織り成す会話は、このようなもので。

どうしようもなく、と言える程、他愛がない会話であるのだろうが、彼女達にしてみれば、益の有るそれだから。

「そうそう。明日ね、皆でケーキ作らない? どうせ、明日も何にもないんでしょ?」

「あ、いいかもねえ。総出で作ったら、お裾分けして歩くくらいの量、出来るかも」

「じゃ、ハイ・ヨーさんに、厨房貸して? って頼んでみようか。エイダちゃんとワカバちゃんは…………混ざってくれなさそうって言うか、明日も見つからない気がするけど……。カレンちゃんとかアンネリーちゃんとかも、捕まえて。そう言えば、舞台の方って、今日はもう終わったのかな?」

彼女達は、そんな風に何時までも、楽しくお喋りを続けた。

が、止まることを知らないお喋りに彩られた、楽しいひと時にも、必ず終わりは訪れるもので。

日付けが変わり始めた頃、一人、又一人、と、ナナミの部屋に集った少女達からは、眠くなった、の声が上がり始めた。

「じゃあ、そろそろ寝ようかぁ……。私も眠いや……」

故に、部屋主であるナナミが、『お茶会』の終わりを宣言し。

「そうだねー」

「又、明日もあるしねー」

「十時にレストランでねー」

「私とビッキーちゃんとメグちゃんで、買い出ししとくからー」

「じゃあ、私とからくり丸は、ビッキーちゃんトコ行けばいいの?」

「はーい、待ってるー」

「それじゃあ、お休み」

少女達は口々に言って、三々五々、立ち上がった。

「又、明日ね」

立ち上がった少女達は、部屋を出て。

ナナミは、彼女達を見送る為に、扉近くに立ち。

又、明日……と、少女達が一斉に、手を振り掛けた時。

「………………あれ?」

己が部屋へと戻るべく、ナナミに別れを告げつつも。

ナナミの部屋を出て直ぐの、短い階段を昇れば訪れること叶う、盟主のセツナの部屋の方を気にしていたアイリが、ふと、訝し気な声を放った。

「どうしたの? アイリちゃん」

放たれた声に答えて、ナナミがアイリを向き直った。

「ん? ……いや、セツナの部屋からさ、何か、聞こえた気がしてさ。少し、扉でも開いちゃってるのかな……って」

すれば、アイリは、セツナの部屋の方を指し示して。

きっと、鍵でも掛け忘れたのだろう、だから薄く、扉が開いてしまっているのだろう。何かが聞こえて来た……と、仲間達に教えた。