「ホントに、もう…………。女の子の考えることって云うのは…………」

──肩を竦め。

呆れの溜息を零し。

「君達の、まあ……お茶目、と言えないこともない、好奇心と云うか、悪戯心と云うか。満足させてあげられなくて、申し訳ないんだけど。セツナ、良く寝てるから。あの子が起きて来ない内に、お引き取り願えるかな?」

カナタは、セツナのいるベッドの方向に、光が伸びて行かぬよう、燭台の火を片手で覆いながら、少女達に退室を促した。

「はぁい……。御免なさい……」

「もう、しませんー……」

「一応、反省してますー……」

にこっ、と。

普段、『人々』に見せて歩いているのと、さして変わらぬ笑みを湛えながらも、出て行きなさい、と告げたカナタの口調が、何処となく厳しかったから。

彼女達は、あくまでも『一応』、反省しているような口振りで、御免なさい、とボソボソ告げ。

入って来た時と同じように、そろりそろり、足音を忍ばせ、一人ずつ、部屋を出て行き始めた。

「それじゃあね。お休み」

すごすご、と云った風情で、少女達が引き返し始めたのを見て、カナタは就寝を告げ、彼女達に、さっさと背を向けた。

「何、か…………」

──すれば。

たまたま、ナナミと共に先頭を切って、セツナの部屋へと忍び込んだ所為で、その部屋より辞する列の、しんがりに並ぶこととなったアイリが、何か、変だな……と。

誰にも聞き取れぬ、小さな独り言を呟いて、カナタの背を目で追った。

…………この、トランの英雄殿の気性なら。

不躾に、セツナの部屋に忍び込んだ自分達が、全員、この部屋より出て行くまでを、きっちり見届けてから、眠りに戻るだろうに。

彼が、何処となく急いでいる風に、自分達に背を向けたのは、何故なんだろう……と。

そんな思いに駆られ。

あーあ、ばれちゃった、とか。

つまんないのー、とか。

そんなことを言い合っている仲間達の列より、する……とアイリは後退って、ひょい……っと、扉付近からは死角となっている、セツナのベッドへと、首だけを巡らせた。

──────真夜中の今は引かれている、目隠しが目的の、入口付近のカーテンの向こうを、そろりと覗き込んでみれば、そこには。

吹き消す手間も惜しまれたのか、ベッドの傍らに置かれた燭台の光に、うっすらと照らされているベッドの上に、横たわって……否、横たわりながらも、何かに喘いでいるような、何かを足掻いているような……兎に角、そんな姿のセツナと。

暴れ出しそうなセツナの上に覆い被さって、抱き込みながら、小柄な体を押さえ込んでいるカナタの姿があり。

「……え……?」

アイリは思わず、目を見開いた。

そして、光景に、目を奪われた直後。

「……たい……っ。…………マクドールさんっ…………っ。痛……。どうし、よ……う……っ。紋章……が……」

「セツナ? しっかりして、セツナ……」

「マクドール……さ………っ……」

「大丈夫。傍にいるから。……少しだけ、辛抱して。……ね? そうすれば、きっと紋章も、落ち着くから……」

──双方共に……否、少なくともセツナは必死に、声を押し殺しているのだろう。

が、それでも、目を見開いたアイリへ、囁き程のトーンで交わされる、彼等のやり取りは届き。

『何か』に痛みを覚えて、喘いでいるセツナと。

セツナを宥め続けるカナタの姿は、彼女の目に焼き付き。

「……アイリちゃん?」

「…………あ。……ご、御免」

呆然と、アイリはそれを見遣っていたけれど、もう、セツナの部屋の扉を潜り終えていたナナミに声を掛けられ、漸くハッとし、光景より目を逸らして、慌てた風に、部屋を飛び出し扉を閉ざした。

「どうしたの? アイリちゃん」

「………………ううん、何でもない……」

バタリ、と、強めの加減で扉を閉めた彼女を、他の少女達が怪訝そうに見遣ったが。

アイリは唯、ふるふると首を振った。

「怒られちゃったねえ、マクドールさんに…………」

「まあ、平気なんじゃない? 大して気にしてなかったみたいだし」

「それもそっか」

平気、と。

作り笑いをアイリが見せれば、そーお? と少女達は階段を降り始め、再び、ああでもないの、こうでもないの、お喋りを始め。

「…………やっぱり、嫌いだ……。あの男…………」

仲間達の後に続きながらアイリは、ボソ……っと独り言を洩らした。

すれば。

耳聡く、アイリの独り言を聞き付けた仲間達が、彼女へと振り返り。

「嫌いって……。ああ、カナタさん? えー、良い人だよ? からくり丸のこと、構ってくれるし」

「うん。私も、悪い人じゃないと思うけどなー、マクドールさん。ボナパルドのこと、可愛いって言ったし、あの人」

「フリックさんのことじゃなきゃ、どうだっていいわ」

「あ、判ったー。アイリちゃん、セツナさん取られちゃってるみたいで、嫌なんだ、きっとっ!」

「やーだ、そんなこと気にしてるの? 平気だってば。僕が保証してあげるよ。カナタさん、そーゆー人じゃないって。ヒックスだって、そう言うよ?」

「そうそう。へーき、へーき。何なら明日、セツナだけ、ケーキ作りに引き摺り出してあげるからっ。姉の権限でっ!」

少女達は口々に、アイリへと訴え。

「う、ん……………。そうだね……」

アイリは、唯。

何処となく、儚い色の浮いた笑顔を、彼女達へと向けた。

……そうだよな……、と。

盟主なんてやってるセツナには、誰にも言えないことがあって、誰にも……ナナミにだって、見せられない姿があって。

たまたま、似たような立場にいたことがあるから、たまたま、セツナが懐いてるから、たまたま、同じ真の紋章持ちだから。

だから、傍にいるだけなんだ、だから、セツナのあんな姿を、あの男は知ってるだけなんだ、だから、あんな風に、セツナを抱き締めるだけなんだ……と。

自らに、そう言い聞かせつつ。

彼女は、唯、儚い色の微笑みを。

彼女……アイリが。

少しばかり強めに、セツナの部屋の、扉を閉ざして直ぐさま。

それを待っていたかのように、ベッドより伸ばされた腕が、チリ……と、鈍い音をさせながら、燭台の灯を、握り潰したことを知らず。

End

後書きに代えて

たまーーーー……に、真夜中、セツナの部屋で起こることを見てしまった(正確には見させられた)アイリのお話。

…………御免、アイリ。

────私、アイリみたいな、さっぱりした性格の子は好きなんですが、どうしてこうなるんだろう…………。

……それにしても、当サイトの女の子's、どいつもこいつも、我が道しか行かない&我が道行くぞ系の発言しかしない(笑)。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。