自室に戻り、ベッドに腰掛けた途端。
むにっっっっっ! と、両の頬をカナタに引っ張られて。
「いだだだだだだだっっ!」
セツナは、悲鳴を上げた。
「ホントにもう……。何であんな所で寝ようとするのやら……。反省してる?」
「してまふ…………」
盛大に喚いてみたら、カナタの方も、適当な説教で済ますつもりだったのだろうか、ぱっと手を離して貰え。
ヒリヒリする頬を押さえてセツナは、降って来た小言に一応、殊勝な態度を取ってみた。
「……ああ、もうこんな時間だ。ちゃんと寝ないと、疲れが取れないよ? 蒸し暑いなら、窓と扉と、少しだけ開けて眠れば、一寸は違う筈だから。もうね、あんな所でひっくり返らないように。立場だってあるだろう? 君には。──少し目を離しただけで、シーナに余計なこと吹き込まれそうになってるし…………」
「はぁい…………。もーしません……。もう、シーナにからかわれるの、懲り懲りですし……」
しゅん……と項垂れれば。
最後のトドメだけをくれて、カナタが掛け布を剥ぐってくれたから、もぞもぞ、ベッドの中へと潜り込みつつセツナは、ふわり、欠伸を噛み殺した。
「からかわれるだけなら未だしも。大嘘、吹き込まれたら困るだろう?」
「そりゃまあ、そうなんですけど。でも僕、そーゆー話、あんまり興味有りませんから」
寝台から最も遠い窓を、少しだけ開け。
次いで、入口の扉も、少しだけ開け。
己の傍らへ、するりと入って来たカナタの溜息に、眠たそうな顔をして、セツナはほえ……っと笑んだ。
「興味がない、か…………」
その笑みと台詞に、カナタは軽く、苦笑を浮かべる。
「そですよ。僕は、そーゆーのは、あんまり。──あ、マクドールさん、冷たくって気持ちいいー……」
カナタの頬に浮いた、その色を、知ってか知らずかセツナは、ぺしょっと、隣に横たわった彼へと張り付いた。
己が顔色を、隠すように。
「はいはい。温くなるまで、幾らでも引っ付いてていいから。今夜はもう大人しく、寝ること。……お休み」
「はーい、お休みなさーーい」
氷柱か、冷えた抱き枕かに張り付くように、縋り付いて来たセツナに、就寝の挨拶を告げれば。
朗らかにそれに応えたセツナが、限界、とでも云う風に、こてっとなったので。
眠りに落ちた振りを、この子はしているだけなのかも知れない、と思いながらもカナタは。
「…………お休み。『今』は、何も知らない、セツナ」
抱き締めてやった彼の耳許で、ぽつり、そんな台詞を呟いた。
────瞳を閉じて、耳を塞いでも。
瞳を開き、耳そばだてる日は訪れるよ、と。
僕の手で、君の瞳を開き、僕の声で、君の耳を峙
カナタは本当は、告げたかったのだけれど。
その、代わりに。
『今』は、何も知らない、彼へ。
End
後書きに代えて
どーしてセツナが、『この手のことに無知なのか』。
これは、そんな話なんです。
────知りたくないんです、セツナ。知らない子でいたいお年頃なのです。
何時か、知る日は来るのにね。
……何か段々、セツナが不憫になって来た……。
──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。