何時の間にか。

同世代の女の子よりも、セツナの身は、軽くなっていた。

命の灯火と、例えること出来るだろう『何か』が、不完全な紋章によって、セツナの中より削られて行く、その証明のように。

……でも、それも。

それももう、終わる。

『大切』で、『溺愛』したいセツナの『全て』が、『細って行く』のを、唯黙って見ているしかなかった日々も。

明日より始まる、ハイランド皇都・ルルノイエ陥落の為の、戦いによって…………終わる。

終わるのだ、『全て』。

────カツリ……と云う、軽い足音を立てて去って行く、二人の傭兵の気配に、聞き耳を立てながら。

傍らに眠る、セツナへと腕を伸ばしつつ、カナタはそう考えていた。

何も彼もが終わり。

そして、きっと。

「…………ん……」

……今ならば。

その息の根を止めることも容易いだろう程、無防備に眠っているセツナの、簡単に縊り殺せるくらい華奢になってしまった躰を、そうっとカナタが腕に収めれば。

眠り続ける彼より、小さな声が上がった。

「ジョ………………──

上がった、小さな声は。

続き、何者かの名を呼んだ。

呼ばれた者の名は掠れ、最後まで響くことはなかったけれど。

その名が誰の者なのかを知ることは、カナタには容易だった。

「夢、か……」

幼馴染みの夢を見ているだろうセツナの囈言に、カナタは乾いた呟きを洩らす。

紋章に倒れさせられる度、見せ付けられる『夢』ではなく。

夢……、を、彼が見ているから。

「もう直ぐ。…………もう直ぐ、ね。そんな夢も、見なくなるよ」

安からに眠っていたセツナの面が、幼馴染みの名を洩らしてより、見る見る、悲し気に歪んで行くのを見遣り。

カナタはそう云って、薄く、くらく、笑った。

「お休み、セツナ。…………もう直ぐ、『全て』が終わるよ」

笑いながら、囁きながら。

そうっと、セツナを包んでいた腕に、カナタは力を込め。

例え、この子が目覚めたとしても構わない、そんな勢いさえ己に持たせて彼は、小柄な躰を、掻きいだいた。

この眠りから醒めれば。

全てのことが、『お終い』へと向かい始める。

決戦の幕は上がり、戦の決着は付いて。

セツナ自身の決着も、又。

そして、恐らくは。

──掻き抱かれても目覚めない、セツナを胸に収めながら。

カナタはその時、耳を澄ませた。

何処か遠い……遠い遠い、遥か彼方より。

ちゃぷり…………と。

螢の水の如き、『甘い』水音が、聞こえたような気がした。

End

後書きに代えて

ルルノイエへ向かいましょう@前夜の話。

明日にはルルノイエへ向かう為の行軍を始める前夜、カナタとセツナが何してたか。

ミューズ・ハイランドの関所とルルノイエの距離って、攻略本で見ている限り、結構な距離ありそうなんですけれども。

ちょーっと控え目に見積もって、四十里にしてみました。……二百キロない……。うーむ。

あ、そうそう、この一連のシリーズの中で出て来る尺貫法は、日本で通用する換算計算してます。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。