カナタとセツナ ルカとシュウの物語

『とある日の出来事』
──魔法のお勉強──

ぱんぱんっ! と、おちゃらけるようにお腹を叩いて、さも満足げな顔をしている、デュナン湖畔に建つこの城の、城主であり同盟軍の盟主であるセツナと。

そんなセツナをちらりと見下ろし、ほんの僅か、苦笑に近い笑みを湛えている、デュナンの隣国、トラン共和国建国の英雄、カナタ・マクドールの二人は、それが一日の活力、と言わんばかりに、この城が誇る一流料理人、ハイ・ヨー自慢の朝食を、『少なくともセツナの方は』、たらふく平らげて来たばかりだった。

因みに、彼等の今朝の献立は、ハイ・ヨーの作る特製粥を中心に置いた、胃にも心にも優しいそれで。

だから、「ハイ・ヨーさん、気遣いを有り難うっ!」と、毎度毎度のことながら、両手を合わせ深々と、頭を下げつつ感謝し、朝っぱらから、『たらふく』と言える程、セツナがそれを、胃の臓に収めてしまった気持ちは判るが。

お腹いっぱーーーい、と、幸せそうな顔をしているセツナへ、幾ら美味しくても、幾ら胃に優しい粥でも、朝からそこまで食べるのは、どうかと思うよ……? と、カナタが何処となく、渋い顔をしたくなった気持ちも、判らないではない。

が、まあ、兎に角、そんなこんなではあるけれども。

セツナは至福そうに、膨れたお腹をちょちょいと叩いて、今日はどうしましょうかー、などと、一人御機嫌に喋り出し。

カナタは、過ぎたるは及ばざるが如しって奴なんだけどねえ……と、セツナを見下ろし。

何時ものように、ほのぼの、一日を送り始めた。

────さて。

そんな風に、始まったばかりの朝。

朝食を終えた二人は、一先ず、城の最上階に当たるセツナの部屋へと、一度戻ろうとしていたのだが。

「…………嫌だって言ってるだろ?」

「えーーー、どうして? そんな風に言わなくっても、いいと思うんだけどなあ……? きっと、楽しいよ? ルック君だって、気に入ると思うよ? だって、メイザースさんが言い出したことなんだもん、私にもルック君にも、きっと何か、発見があるって、そう思うんだけどなあ……」

「……………………あのね。いい加減にしてくれない? ビッキー。僕は、そんな馬鹿みたいな話に、付き合う気はないんだよ、これっぽっちも」

「どーーーーーしてーーーーぇぇぇぇ? ……………本当に、楽しいと思うんだよ? ううん、楽しいだけじゃなくって! セツナさんやカナタさんの為にも、なると思うんだけど…………」

「……セツナやカナタの為? 何処が? ──そもそも、メイザースの話が、あの二人の為になろうとなるまいと、僕には関係ないんだけど」

──────レストランから、発明家・アダリー制作の『えれべーたー』へと向かう途中。

城の、一階広間に据えられた、約束の石版の前にて。

カナタとセツナの二人は、『言い争う』ルックとビッキーの姿を見掛けた。

正確に記すなら、言い争い、と言うよりは、メイザースが言い出した某かに関して、ビッキーがルックを説得しようとしていて、そんなビッキーをルックが、一方的に袖にしている、と云うことになるのだろうが。

まあ恐らく、言い争い、と称しても語弊はないだろう会話を、ルックとビッキーの二人は交わしており。

「……珍しいですねえ、ビッキーがルックに、あんなにしつこく食い下がるなんて」

「確かにね。……でも、ビッキーのあれは、何時ものこと、って言えなくもないし。ルックのあれも、何時ものこと、って言えるんだろうし。…………放っておこうか。『他人のじゃれ合い』に首突っ込んでも、碌なことにはならないしね」

大声で言い合っている二人の脇を、目立たぬようにすり抜けながら、セツナとカナタはぼそぼそ、『言い争い』への感想を洩らした。

「………………『じゃれ合い』……って言いますか? あれ」

「さあねえ」

「……さあねえ、ってマクドールさん…………」

「真偽の程は兎も角。あのルックが、あのビッキーと、あんな風に言い合ってるんだから。充分、じゃれ合いでしょ」

「あ、それは言えてます」

「……だろう?」

横目で流した視界の中に、周囲の視線にも気付かず、ぎゃんぎゃんとやり合っている少年と少女を収め。

ま、放っておくのが得策でしょう、と。

好き勝手なことを言い合い、セツナも、そしてカナタも。

人々が、未だ朝食を嗜んでいる時間から、賑やかなことこの上ない一画を抜け出し、その出来事を大して気にも留めず。

やって来た、昇降する箱の中へと、さっさと乗り込んだ。