辿り着いた自室にて。

「ちょーーっと朝御飯、食べ過ぎちゃったかもー……」

……と言い出したセツナが、君が何もしないなら、と、書物を広げたカナタの横で、うとうと、意識を手放し掛けた頃。

「セツナっ! セーツーナーーーーーーーっっ!!」

彼のうたた寝を邪魔する大声が、扉の向こうの廊下から、響いて。

「セツナっっっ!」

ガタン、と、ノックもなく開かれた扉より、若干興奮しているような風情のナナミが、どたどたと飛び込んで来た。

「………んー……もう…………。折角、気持ち良かったのに……。──ふぁ……。……なぁに? ナナミ」

相変わらず、小さな嵐のような勢いを纏い、飛び込んで来たナナミへ、カナタの傍らにて身を擡げたセツナは、眠た気な目を向けた。

「ボケてる場合じゃないってばっ! ねっ、ねっ、ねっ、聴いた? 聴いたっ?」

が、ナナミは、つかつかと部屋を横切り、義弟の襟首を掴み、ぶんぶんと、渾身の力で揺すって。

「だーかーらぁぁぁっ! 話を聴いた? って聴いてるの、お姉ちゃんはっっ!」

「……え、ちょ……一寸、ナナ…………っ──

──……ナナミちゃん。それじゃ、セツナも喋れないと思うよ?」

興奮しきりのまま、ナナミはセツナを揺すり続け、揺すられたセツナは目を廻し掛け、そんな姉弟の間に、カナタが割って入り。

「……あ、そっか」

てへっ、と、失敗失敗……、そんな感じで、ナナミは舌を見せて。

「……ケホッッ……。……ナナミの、乱暴者…………。──で? 話って?」

カナタの助け舟で、漸くナナミの腕から解放されたセツナは、ぶつぶつ文句を零しながらも、改めて義姉を見上げた。

「あのね、ビッキーちゃんに聴いたのよっ! 何でもね、今日、湖に浮かんでる小島の一つ使って、実験するんですってっ!」

すればナナミは、ビッキーに教えて貰った、と云う話を、瞳をキラキラさせながら、勢い込んで語り出し。

「実験? 何の?」

「それがね、私も詳しくは……って云うか、説明して貰っても良く判らなかったんだけど。……えーーと、うん、兎に角ね、ビッキーちゃんと、メイザースさんで、何かの実験するんですってっ! それでね、その実験、物凄く楽しいらしいのっ! だから、見に行かない? セツナっ! マクドールさんもっ!」

「………………ビッキーと、メイザースさん………………」

「……随分、面白い組み合わせだね」

ビッキーとメイザースによる実験を見学に行こうよと、ナナミにせがまれたセツナとカナタは。

曰く、『実験』とやらに挑む面子に、怪訝そうな顔をした。

「何の実験、するつもりなんでしょうね、あの二人」

「さあねえ……。面子からするに、余りまともな実験、とも思えないけど…………」

「……あ、そう言えばね」

──怪訝そうな色を頬に浮かべ。

カナタとセツナが顔を見合わせ、うーーーん、と唸れば。

あ、とナナミが、何かを思い出したような声を上げ。

「何? ナナミ」

「ビッキーちゃんの瞬きの魔法と、メイザースさんの強力魔法の何とかが、どうたらこうたら……って話……って、確かビッキーちゃん、言ってたと思ったよ」

うん、そうそう、そんな話……と。

ナナミは、ポン、と両手を叩いた。

「ビッキーの、瞬きの魔法と…………」

「メイザースさんの強力魔法…………」

────と。

そんな話を、ナナミが思い出した所為で、カナタとセツナの眉間に寄った、怪訝の皺は深くなり。

「…………マクドールさん」

「……何? セツナ」

「この間ですね。目安箱にですね。メイザースさんからのお手紙が入ってて」

「…………うん」

「それにですね。大がかりな魔法の実験をしたいから、場所を使ってもいいか? って。島を一つ消し飛ばすぐらいだから安全だ……って。そんなこと、書いてあったんですよね。……僕今、ふと思い出したんですけど」

「…………………………あーーー、多分、それだね」

……ぱっ、と眉間の皺を解いて、セツナは、ほわぁ………と、困ったように笑み。

セツナが思い出したことを聴き終え、カナタは、あの二人、面白いこと考え出したのかもねえ……と、腕を組み。

「何か、ヤーーーな予感がしますぅ……」

「そうだねえ……。どう転んでみても、あの二人で実験とやらに勤しむんなら、禄でもない結果が生まれるのは間違いない気が、僕もするよ。惨状が、目に浮かぶもの。島一つ吹き飛ばすような実験だろう? しかも、あの二人でやるんだろう? 下手したら、この本拠地が吹き飛ぶかもね。────どうする? セツナ」

「どうする、じゃないです。断固阻止です、阻止っ! 本拠地吹き飛ばされたら堪りませんから。────あああ、ナナミ。だからね、メイザースさん達の実験なんて、見学しちゃ駄目だからね? 危険なんだからねっ!」

「ええええええっ! そんなの、つまんないよーーーーっ! 私も行くーーーっ! 一緒に行くーーーーっ!」

「だーーーーめっっっっ。ナナミだって、吹き飛ばされたくないでしょ?」

セツナは、付いて行きたそうな素振りを見せたナナミをしっかり牽制してから、ばっと腰を上げ、最上階のその部屋を、勢い良く飛び出し。

駆け出したセツナの後を、カナタも追った。