「…………あーあ、行っちゃった。……ま、いいんですけどね、何事もなく終わりましたから。…………処で、マクドールさん?」

そんな風に、去って行く人騒がせな二人を、やれやれと見送った後。

ふっ……とセツナは、カナタを振り仰いだ。

「……ん? 何?」

「あの……。一寸僕、聴きたいんですけど。……多分、ルックがあの二人に頑として付き合わなかったのは、マクドールさんが教えてくれたようなこと、ルックは判ってたから、なんでしょうけど。だから別に、どうでもいいって言えば、どうでもいいんですけどー」

「…………? 何が言いたいの? セツナ」

「えっとですね。……もしも、マクドールさんが考えた通りに、あの二人の実験が終わらなくって。メイザースさんの破壊呪が、ビッキーの魔法で転送されちゃったら…………どうしたんですか…………?」

「ああ、そのこと」

カナタを見上げてセツナが言ったことは、何処までも、仮定の話、でしかなかったけれど。

もしもあの二人の実験が、『成功』していたらどうなったのだと、セツナが問うので。

「…………さあ? そうだったら多分、あの小島が吹っ飛んだか、さもなくば、ビッキーが『失敗した先』が、吹っ飛んだだろうねえ、跡形もなく」

さらっ……とカナタは、問いに答えた。

「……そーゆー問題で……いいんですか…………?」

「いいと思うよ? 現実問題、何処も吹っ飛びはしなかったんだし」

「………………いえ、その……でも…………。それで、もしも本拠地吹っ飛んだら、あの……惨事、なんてモンじゃ済まなかったんじゃないかと…………」

「大丈夫。僕の考えた通りにあの二人の実験が運ばなそうだったら、ビッキーがメイザースの魔法を何処かに飛ばす瞬間狙って、魂喰らいで打ち消すつもりだったから。……ま、その場合、ちょーーーー……っと、メイザースとビッキーが、数日間、寝込む羽目には陥っただろうけど」

「………………相変わらず、物騒な人ですね…………。……あれ? でも……メイザースさんの生み出した魔法って、マクドールさんの宿星だった魔法使いさんでしたっけ? ……の、クロウリーさん用の、とっておきの破壊呪だったんじゃ? ……え? 魂喰らいって、そんなのも、打ち消せるんですか……?」

「さー? どうだろうねー」

「…………お願いです、マクドールさん……。出来るだけ物事は、最大限穏便に済む方向で、運んで貰えませんか…………。僕は、本拠地が惨状と化すのも、阿鼻叫喚の地獄絵図を見るのも、嫌です……」

己が口にした、『仮定』の問いに。

何処までもカナタが、さらりと答えるから。

セツナは胸に浮かんだ疑問を、次から次へと投げ掛け。

何を言われても、何を問われても、にこっ、とカナタは、笑ってそれを誤魔化し。

勘弁して下さい、とセツナは、涙を飲んでいる風に、天を仰いで嘆いたが。

「平気だってば。僕だって、鬼畜生じゃないんだから。ちゃんと考えてるって」

「ホントですかぁぁぁ…………?」

「うん、ホント。大丈夫、大丈夫。何時だって、考えているよ、僕は。他の人のことはどうでもいいけど、何が起こっても、セツナが困るような結果だけは招かないように、ってね」

「……や、その……。僕が困らなければ、他はどーでも、ってゆーのも、どーかと…………」

「そう? それって、今現在の僕の、行動理念の全てだけど?」

天を仰いで嘆きつつ、セツナが何を言い募っても、カナタはけろりと、本気とも冗談とも付かぬ台詞を返し。

「ああ、セツナ。そんな話はこっち置いておいて。折角ここまで来たんだし、未だ午前だし。一寸、クスクスかサウスウィンドゥ辺りまで、散歩でもしない?」

にっこりと彼は、伸ばした右手でセツナを掴み、そして、引いて。

デュナン湖の畔を、東へと向かって歩き出した。

「ホントにもーーーー、マクドールさんはーーーーーーっっ……」

だから。

ずるずると、半ば、カナタに引き摺られるようにしながらも、セツナの足先も又、東へと向いて。

そのまま二人は。

湖畔の散歩と洒落込み、その、一日を終えた。

デュナン湖畔の古城へと、夕暮れ時、帰り着いた時。

『物凄い』、としか言い様のない形相をした、正軍師のシュウの『出迎え』を受ける、と言う、おまけもあった、一日を。

End

後書きに代えて

他愛がなく、取り立てて何かが起こる訳でもない、同盟軍本拠地の出来事その四。

本気で『日常』。だから、何も起こらない。

この日はセツナ、シュウさんに説教喰らっただろう、ってだけ(笑)。

ま、別名、メイザースさんとビッキーの魔法実験失敗の巻、とも言いますが。

──作中、カナタが、魔法って物は……と、うんじゃら語ってましたが、幻水シリーズに限らず、魔法って物の根底には、あの手の理屈があるだろう、なきゃ変だ、と私は思うので、それもちろっと書いてみました。私の本来の考え方とは相違を見せてますけども。

しかし、ホントに何も起こってない話ね、これ。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。