「え? 何時の間に、誰に尋ねられたの?」
傭兵の問いにセツナが、訊かれるままに答えて歩きましたー、と告げたから。
へえ、とカナタは、少しばかり物言いた気に、セツナを見遣った。
「あ、そっか。どういう訳か、マクドールさんがグレッグミンスターに戻ってる時にばっかり、そーゆーこと訊かれたんですよねー。だから、マクドールさん知らないんですね。でも、僕にそんなの訊いて来たのって、ちっちゃい子供達ばかりですよ? 後はナナミとか」
まるで、その話を知らなかったことが気に入らない、とでも言う風に、カナタがセツナを見れば、ほえほえと、笑いながらセツナは真実を語った。
「ふうん……」
だから、そうか……と、カナタは少し、機嫌を戻して。
「……そういう小さい子達に、何て答えたの? セツナ」
幼子達に問われるまま、セツナが答えた言葉は何だ、と。
「僕が好きな言葉は、幸せって言葉だよー、って答えましたよ? 何時も僕が言ってる通り」
そんなカナタの問いに、セツナは直ぐさま応え。
「あ、やっぱり」
「はい! 良いですよねー、幸せって。……………あ。処でマクドールさん? マクドールさんにも、好きな言葉ってあるんですか?」
同じ問いを彼は、カナタへと返した。
「ん? 僕?」
「はい。マクドールさんは?」
「僕が好きな言葉は、『運命』って言葉」
「………………そうなんですか……?」
「うん、そうだよ。……ま、尤も、嫌いな言葉も『運命』なんだけどね」
「…………? でもそれって……結局、好きでも嫌いでもない、ってことのような……?」
「そんなことはないよ。好きは何処まで行っても好きだし、嫌いは何処まで行っても嫌いだからね。相殺はされないと思うけど」
「じゃあ、好きで嫌い、なんですか?」
「そうなるね」
「……意味、あるんですか? 好きで嫌いな意味って」
「いや、別に?」
「…………相変わらず、訳判らないこと言いますよね、マクドールさんって……」
「そう? そんなつもり、ないんだけど」
そして、二人はそれより暫く、周囲が黙って聞き耳を立てているのも気にせず、ああでもないの、こうでもないの、至極『適当』に語り合い。
「──さて、そろそろ上がろうか。いい加減にしないと逆上せるし」
「そですね。冷たいお茶でも飲み行きません?」
「うん。良いよ。でも、お腹壊さない程度にね」
「はーーい」
それじゃ、お先に、と湯船の中の人々に言い残して、さっさとそこを出て行った。
「…………なー、ビクトールさん」
洗い場で遊んでいる子供達と、今度、背中の流しっこしようね、とか何とか、約束を交わしながら出て行く二人の背中を眺め、シーナは徐に、傭兵を呼んだ。
「……何だ? シーナ」
呼ばれた彼は、チロ……っと、視線を流すだけでシーナを見遣った。
「あの二人の、あーゆー会話、ってさ。聞いてると、何故か胃が痛くなるのって、俺だけ?」
「いや。お前だけじゃねえと思うぞ?」
「…………だよな……」
「何でもないことのように、あいつの『人生』があいつに齎したモノ、語られてもな…………」
「……だよなぁぁぁぁ……。……なのにセツナはそれ、ほえほえと聞いてるしさー。──どーして俺達、風呂ん中で、こんなに疲れなくちゃならないんでしょーねー……」
そして、ビクトールの名を呼んだシーナと。
呼ばれてシーナを見遣ったビクトールは。
ぶつぶつごにょごにょ、湯船に漂いつつ嫌そうに呟き合い、セツナが忘れて行った、黄色い『玩具』のゼンマイを巻き。
ぱちゃぱちゃと、波打つ湯の上を、飛沫上げつつ進んで行く『アヒルさんの玩具』をぼんやり眺めて。
『フリックさんっ! フリックさん、未だ居ますかっ!』
女湯から聞こえて来たニナの声に、耳を塞ぐような素振りを見せた。
End
後書きに代えて
珍しく、馬鹿さ度合いよりもシリアス度合いの方が少しばかり多めな、とある日の出来事シリーズ。
……何のことはない、一寸書きたくなったから書いただけ、な話なんですけどね。
運命が好きで、運命な嫌いな、カナタ。
──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。