「ゲオルグさんにとって、フェリドさんって、本当に唯一無二の、大切なお友達だったんですね……。ファレナは、想い出の地なんですね。……甘味の」

「……ああ。…………親友故に、お互いの想いや信念をぶつけ合うこともあったし、ぶつけ合うことも出来た。俺は、チーズケーキの中で一等なのは、レアチーズだと信じているんだが、あいつは、ベイクドチーズだと言って譲らなかったんだ。それに関する俺達の口論は、それは激しかった。無論、ベイクドチーズケーキも美味いし好物だ。スフレも捨て難い。が、チーズケーキ独特のあの香り、あの舌触り、それを最も堪能出来るのは、レアチーズケーキだと思う。なのにフェリドの奴は、ベイクドチーズケーキの、あの程良い固さと、何より、携帯のし易さが捨て難い、と言い張って。……チーズケーキに関する口論をした時は、三日、口を利かなかったな」

「…………成程。でも、信念ですもんね! 譲れませんよね!」

「そうなんだ。それだけは譲れん。だが、炙り大福で結ばれた、俺達の絆は深かったからな。それも、今となっては良い想い出だ。……そうだ、そう言えば、この大福のことでも、あいつとは口論したな……。あいつは、粒あん派だったんだ。俺は、こしあん派だが。だから、良く言い争った。大福に叩く上新粉の量で、揉めたこともあった。絶対に、大福を覆う上新粉の量は、多い方が良いと俺は思うんだが、あいつは、食べ辛いから少ない方がいいと主張し続けて。……セツナ、お前はどっちが適当だと思う?」

「僕は、ゲオルグさんと一緒です。お粉は、多い方がいいと思います。大福同士、くっ付きませんもん。お粉が多いと、食べる時に口の周りが真っ白になっちゃいますけど、包みから取り出す時、お餅の部分が、びろーーーん、ってなっちゃわないで済みますし」

「……………………セツナ。お前は本当に、甘味の心が判る奴だなっ!」

「わーーー。ゲオルグさんにそう言って貰えると、凄く嬉しいですっ!」

……かぱかぱ、葡萄酒を飲み下しながら、想い出語りと甘味談義に、ゲオルグは、より一層の熱を込め。

何時しか、大福の焼き手に回ったセツナは、自分とゲオルグの為に、慎重に大福を炙りながら、甘味の話なら、幾らでも付き合えます! と、握り拳を固めた。

「あー……。俺たちゃ、これで休むわ。ごっそーさん……」

「お休み。………………頑張れよ、カナタ……」

だから。

美味い葡萄酒に別れを告げるのは惜しいが、これ以上、気色悪い話と、気色悪い光景に付き合えるかと、ビクトールとフリックは席を立ち。

セツナが自ら席を立つまで、嫌でも、この場に居続けるしかないだろうカナタの肩を、ポン……と力なく叩いてより、脱兎の如く、酒場より逃げ出して行った。

「………………お休み……」

そんな、薄情な腐れ縁傭兵コンビを引き止める気力も、恨みがまし気に見詰める気力も振り絞れぬまま、甘味談義を聞いているだけで胸焼けしてしまったカナタは、力なく見送り。

だと言うのに。

──だから、豆大福なら、僕、粒あんの方が好きなんです。でも、普通の大福なら、こしあんの方が良いと思うんです」

「ふむ……。成程な、一理ある。粒あんも決して嫌いではないんだが、どうしても、好みのこしあんを選ぶ傾向が、俺にはあってだな……」

「あー、判ります、その気持ち。……処でゲオルグさん。ゲオルグさんは、アップルパイに添えるのは、アイス派ですか? それとも、生クリーム派ですか?」

「いきなり、難しい問答を突き付けてくるな、お前は。……うむ、それはどちらも捨て難い……」

「ですよね!? 選べないですよね! だから僕は、一寸欲張って、両方乗っけちゃう派なんですが、駄目ですか? 邪道ですか?」

「そんなことはない。邪道なものか。己の欲望に忠実なのも、時には有効な手段だと俺は思うぞ。それに、両方共乗せてしまうというお前の意見は、少しばかり晴天の霹靂だ。どちらかを必ず選ばなくてはならぬという、既成概念を覆してくれる。益々以て、でかした、セツナ」

酒と炙り大福、という。

生粋の左党には理解し難い状況に、辟易した者達が続出した為、すっかり、酒場より人気が失せたのにも気付かず。

女将のレオナが呆れ顔で、嫌味ったらしく、少しずつ少しずつ、酒場の灯りを落としているのも知らず。

セツナとゲオルグの語らいは、何時までも終わる様子を見せなかった。

「…………父上。父上はどうして、この甘味大王と、幾度となく、酒を酌み交わすことが出来たんですか。甘い物、得意じゃなかったのに…………」

そんな二人の傍らで、一刻も早く、セツナが眠気を覚えるのに期待しながらカナタは、グラスに満たされた葡萄酒の水面越し、亡き父へ、一人小声で問い掛け続け。

閑散としてしまった、レオナの酒場の夜は、静かに更けて行った。

End

後書きに代えて

多分、この話のタイトルは、『Sweet memory』でなく、『Sweets memory』とした方が、正しいんでしょうね(笑)。

御免、ゲオルグさん&フェリドパパ。

でも、私の中では、貴方達の友情は、炙り大福で結ばれた、うえっぷ、ってなる程に甘い仲ってことになった!

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。