以前、セツナには話したことがあると思うけど。

どうして、この世に魔法が存在するのか、の答えは、紋章があるから、だよね。

でも紋章は、『唯、紋章としてあるだけ』では魔法という力を生み出せず、紋章を人体の何処かに宿し、且つ詠唱を唱えるという過程を踏まないと、魔法の力は利用出来ない。

……ここまでは、いい?

大丈夫?

…………でもね。この世に紋章が存在していて、或る程度の決められた過程を辿れば、紋章の力──即ち魔法が具現化出来るならば、何故、魔術に関する個々の能力差が生まれる?

持って生まれた素質、と言ってしまえばそこで終わるけど、考えてみれば、不思議な話だとは思わない?

そうだろう? 条件は皆一緒だ。

紋章を宿して、詠唱して、何処より魔法の力の源となるモノを引き摺り出してやる、という過程を行う機会は、誰もが平等に得られる筈だよね。

それが、魔法を生む条件なのだから。

では何故、そこに、個人差、と例えられる差が生まれるか。

──魔法や魔術というものは、本来そこに存在しない『モノ』、又は、そこに存在しない『こと』を、紋章の力を借りて、条件を整えて、自らの意思により生み出すすべだ。

だとするなら。

条件が皆同じなら、個人差が生まれる要因は、『自らの意思』にある筈で。

……そう、意思の問題、になってくる。

…………はい、ナナミちゃん。寝ない。ちゃんと聴く。

ミリーも、メグも。

じゃあ、その意思とは果たして何で、魔術や魔法を操る為に自らの意思をどうしたらいいのか、ってことになるんだけど、これは多分、皆にも判り易く例えるなら、『思い込み』の世界と言ってしまうのが良い気が僕はするんだ。

……セツナ。そっぽ向かない。そわそわしない。

で、えーと、要するに。

例えば、火の紋章を使って、『火炎の矢』と僕達は呼んでるあの魔法を生む時、唯、紋章を翳して詠唱するだけじゃなく、どれだけの火を、どのように生んで、どの方向に、何を、又は誰を標的として、どれだけの勢いを持たせ、どうやって放つか、ということを、具体的に、一枚の絵に描ける程の詳細さで、自分の頭の中に思い浮べてやるのが正解なんじゃないかと思うんだよ。

まあ、あくまでも、僕のこの推測が正しければ、の話なんだけど、そうなると、今度は次の過程に進めることになって、じゃあ、そういう風に、魔法や魔術に接する際の自らの意思を、如何にして整えるかに問題は移るんだけど。

でも、これはもう、平常心と集中力の話になってくるんだよね。

戦闘中であろうとも、心乱さない高い平常心と、周囲の状況がどうであろうと、放とうとする魔法を詳細に脳裏に思い浮べる集中力の高さ。

とするならば、この辺りのことは武術の鍛錬と全くノリは同じになってきて、皆がそれぞれ、良いと思う方法を選んで貰うのが……。

……ニナ、アイリ、テンガアール。今、船漕いでたね?

僕の話を聴く気はあるかい?

何だっけ。……あ、そうそう。

えー、だから、平常心と集中力の鍛錬の話は、僕が語るまでもないと思うから、省くよ?

でね。

今までの話とは全くの別角度で魔法という物を捉えるなら、グラスランドの民の……、そうだなあ……、信仰、と言うべきかな。

うん、その信仰に『倣う』っていう方法も、ありだとは思うんだ。

グラスランドの民は、この世には精霊がいると信じていて、それを信仰してる。

地、水、火、風、金──金は、雷だね──、この、五つの力を司る精霊がこの世界にはいて、その精霊達が、この世の理を担っていると考えてるんだ。

彼等のこの考え方の中にある精霊の司る五つの力を、最も扱う機会の多い五行の紋章に置き換えて、火の紋章を扱う時は火の力を、水の紋章を扱う時は水の力を借りる、と自分に言い聞かせるって方法も、ありかなあ、と。

……まあこれも、思い込みと言えば思い込みの世界なんだけど、さっき言った、魔法を放つ時の自らの意思が漠然とし過ぎてしまって具現化し辛いと言うなら、精霊でも神でも何でもいいから、自分の想像し易い存在に置き換えて、その存在と『仲良く』なって、その存在の力を借りる、という風に、自分だけの法則を作ってしまうのも、やり易………………──

…………セ・ツ・ナ。ほら、寝ない。話を聴く。

今よりももっと、紋章扱うの得意になりたいんだろう?

だったら、ちゃんと聴きなさい。

でもね。

だからと言って、思い込み──言い換えるなら、想像力豊かな者や、平常心や集中力の高い者ならば、誰でも魔力が高くなるかと言えば、そうじゃないのが現実だろう?

──例えばルック。

ルックは、同盟軍の中でも群を抜いて魔力が高いよね。でも、こう言ったらルックに悪いけど、彼が、目を瞑っただけで一遍の絵が描ける程想像力豊かとは、少し思い辛……………………──

あれ? セツナ、どうしたの? そんな苦悶の表情浮かべて。

…………は? 足が痺れた? この、僅かな時間で?

……え? もう、一刻以上過ぎてる?

おかしいな、そんなに時間、経った?