多種多様な戦いの場面で、今以上に仲間達の役に立てるようになりたいから、どうやったら、魔術や魔力の能力が伸ばせるか、その方法を教えて欲しい、と。

少女達に次々捲し立てられ、が、一先ずは、と大人しくその主張を聞き終えたカナタは。

「魔術に関する能力を伸ばす方法、ねえ…………」

ふむ、と頤に軽く指先を添えた。

ひょっとしてひょっとすると、メイザースがそうだったように、カナタの脳裏にも又、この面子相手に……? と、そんな思いが浮かんで消えたやもだが。

その風情から、嘆きは一応漂わず、でも。

「確かに、何年も修練を積まなければならない体術よりも、魔術の方が手っ取り早く能力は伸ばし易いと、皆には思えるかも知れないけど……。うーん……。魔術だって、一朝一夕に何とかなるものじゃないよ? それに。皆それぞれ『一芸』に秀でてはいるんだから、今更改めて魔術など学ばなくとも、それで充分だと僕は思うけど」

薄明かりの中、うきうきとした視線を己へ向けてくる少女達の顔を彼は一通り見比べ、少々重々しく呟き、手っ取り早くそれを学ぶ方法などないと、彼女達の望みを断ち切り掛けた。

「でも、マクドールさん。僕もちょびっと、魔術に関するマクドールさんのお話、聞いてみたいですっ!」

けれど、少女達以上にわくわくとした、目の前に美味しいご飯があるのに、『待て』をさせられている仔犬のような目付きをセツナに向けられ、目一杯の期待が籠った声音をも放たれたので。

「……一寸長い話になるけど、大人しく聞く気ある? 魔力を伸ばす為の方法、という訳ではないけれど、一応、魔術に関する話。魔術と言うものが如何なるモノなのかを知る所から始めるのが、一番の近道だと思うから、その話ならしてあげる」

「あります。も、ばっちりあります! お話聞いて、マクドールさんみたいに紋章使うのも大得意になるなら、最後まで大人しく聞きます!」

ああ、セツナの、このおねだり視線には到底勝てない、とカナタは、喜び勇むセツナと、歓声を上げた少女達を見比べ、渋々の調子で『講義』を始めた。

「……あのね。魔術や魔力って。何だと思う?」

「………………は?」

「だから。魔術や魔力は、果たして如何なる物なのか。それを、どう考える?」

「…………えーーーっと……。魔術や魔法が、如何なる物か、ですか……?」

「うん。本気で、所謂『魔法』という物に向き合う為には、そこから考えなければ駄目だろうって、僕はそう思うんだけどね」

「……はあ…………」

大人しく、話に耳を傾けます! と宣言したセツナが、カナタの話の始まりを受けて、ちんまり正座し姿勢を正したのに倣って、少女達も又、狭い空間の中でごそごそ、それなりには居住まいを正し。

総勢七名は、淡々と始まったカナタの講釈に身を乗り出し掛けたが。

その話は、始まりの言葉からして抽象的過ぎて、セツナを筆頭に、皆、首を傾げ、狐に摘まれたような顔付きをした。

でも。

ひと度、語る、と決めたことを簡単に撤回するような質をカナタはしていないので、面々が漂わせ始めた、「言われてること、理解出来ません。ワーーケワカリマセン」な雰囲気を、綺麗さっぱり無視し。

ひたすら、流れるような言葉で、懇々と、薄明かりの中、セツナや少女達の顔を見比べながら、カナタは一人、喋り続けた。

.

絶対厳守の定員を二人も超える人数が乗り込んだ結果、動かなくなってしまった『えれべーたー』の。

その狭い箱の中に閉じ込められた面々が、本拠地本棟の三階に脱出出来たのは、セツナや少女達の懇願に負けてたカナタが滔々と語り始めたあの際より、一刻以上が過ぎた後だった。

一晩が経つまでは使い物にならないだろう『エレベーターバーバリアン』達の面倒を見終えて、やっと、『えれべーたー』の中に誰かが閉じ込められていることを思い出したアダリーは、城内中を駆け回って男手を集め、集まった者総出で、何とか三階まで箱を下ろした。

その頃には、閉じ込められているのがカナタやセツナやナナミ達だと人々も気付いたので、すわ、盟主の一大事か!? と、大慌てで人々は、箱の扉をこじ開けた。

「大丈夫かっ? セツナ、カナタ!」

「ナナミ達はっっ?」

ギリギリと、ぶち壊さんばかりの勢いで扉を開き、駆け付けたビクトールやフリック達が、彼等の名を呼びつつ中を覗き込めば。

カナタを除いた全員が、ぐっ……たりとした顔付き、蒼白の顔色で、力なく傭兵達を見上げた。

「どうした? 何か遭ったのか? おいっ、大丈夫なのか? お前等っっ」

自力で動くことすら出来ないでいる彼等を、抱き抱えるようにすれば。

「特に、大事あることがあった訳じゃないし、今の今まで皆で喋っていたから、そこまで心配しなくとも大丈夫だよ」

一人、けろりとした顔のカナタが、セツナを抱えながら出て来て、二人に告げた。

「え? でも、ナナミ達も、セツナも……」

「あー…………。……単に、足、痺れただけじゃないかな」

「……は? 足?」

「うん、足。……ま、そういう訳だから。後頼むね」

そうして彼は、有無を言わせず後始末を頼むと、一言も発せられないセツナを連れて、さっさと階段を上がって行ってしまった。

「………………………………? 何が遭ったんだ?」

「さあ…………」

故に、ビクトールとフリックの二人は、揃って首を傾げ。

「も、もう二度と、マクドールさんに何か教わろうなんて思わない…………」

「……あ、あたしも……」

カナタ曰くの『足の痺れ』が取れ始めたらしい少女達は、這うようにして、その場より逃げて行った。

だから、後日。

その旺盛な好奇心故に、何時も何時も、要らんことにばかり首を突っ込んで、その度、大事に巻き込まれて痛い目を見て来たのに、懲りるという言葉を知らない傭兵二人組は、あの時一体、何が遭ったんだと、少女達に訳を尋ねた。

すれば、少女達は、『えれべーたー』に閉じ込められるまでの経緯を語り、その後。

一刻以上もの間、延々正座させられ、身動みじろぎすることも、無駄話も、欠伸一つも許されず、カナタに魔法に関する講釈を垂れられ続けた際の『悲劇』を、涙ながらに語った。

故に、それ以来。

傭兵二人組とは、又少々違った意味で懲りるという言葉を知らないセツナ以外、カナタに何かを教わろうと思い立つ者は、同盟軍の中より消えたと言う。

End

後書きに代えて

んー、ホントに小話ですね。

単に、一寸エレベーターネタ書いてみたかったから、書いてみただけのことなんですが、何処までも小話だった(笑)。

……まあいいか、このシリーズ、日々の些細な出来事を綴ったシリーズだから。

──本当はですねえ、セツナやナナミ達を辟易させた、カナタの講釈、延々書いてやろうかと思ったんですが、書いてる私が鬱陶しく感じたので(笑)、さっくり割愛。

一応、カナタが何喋ってたかは残してあるんで、御興味有る方は、このページの何処かを探してみて下さい(笑)。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。