「あれ、どうしたの? セツナ。拗ねちゃって」

立ち合いの最後、礼を交わし、『溺愛』中の少年の元へと戻って。

その表情を覗き込んでカナタは、ん? と首を捻った。

「狡いんだとさ。お前とゲオルグの立ち合いが」

「……狡い、と言われても」

セツナが拗ねまくっている理由を、傍らにいたビクトールが語れば、カナタは苦笑を浮かべて、ぽふぽふと、セツナの頭を撫でた。

「…………くぅぅぅぅぅやしいーーーーーーーーっ! このままじゃ未来永劫、マクドールさんに勝てないっっ。あー、悔しーーーーっっ」

こうべを柔らかく撫でられ、少しばかり機嫌は直したものの、ぎゅっと両手で握り拳を固め、セツナは絶叫する。

「まあまあ。そんなに喚かなくてもいいじゃない」

故にカナタは、唯々苦笑を深め。

「それよりも。少し腹減ったな。何か、食い行くか?」

臍を曲げたお子様は、食い物で釣るに限ると、ビクトールが餌を蒔いた。

「あ、行くっっ。お茶しましょ、お茶。午後のお茶。ハイ・ヨーさんのトコで。──ゲオルグさーん、一緒にチーズケーキ食べましょーよーーーっ」

と、蒔かれた餌に、パッと『お子様』は飛び付いて、カナタとビクトールの腕をそれぞれ掴み、首を巡らせゲオルグを呼んだ。

「そうだな。相伴するかな」

にこにこと、微笑みながら誘って来る盟主殿に、ゲオルグも又、笑いながら近付いた。

「チーズケーキ…………」

「……俺は、ケーキは遠慮する……」

セツナとゲオルグのやり取りを聞き付け、この組み合わせが、一度にどれだけケーキを平らげるか、良く知っているカナタとビクトールは、僅かに嫌そうな顔を作った。

「えー、美味しいのに。ハイ・ヨーさんの作るケーキ」

「ああ。あれなら、幾らでも食べられるぞ?」

「そーですよね、ゲオルグさんっ」

「…………それで、どうしてセツナが太らないのか、謎だなー……」

「摂取と消費の、バランス取れてる……としか思えねえなー……」

「ビクトールは最近、割腹良くなって来たよね。お酒の飲み過ぎなんじゃない?」

「……黙れ、カナタ」

────そうして、彼等は。

他愛無い会話を交わしながら、訓練所を出、本拠地は東の棟にある、レストランへと向かい始める。

「……あっっ! こんな所に居やがったな、ビクトールっ。……お前、仕事放り出して何してやがるっっ!」

その途中、図書館前にて、サボリ中の相方を必死に探していたらしいフリックに、ビクトールが発見されて。

「げっっっ。フリックっっ! ──悪ィ、後から行くから、先行っててくれっっ」

「逃げるな、熊っっ!」

鬼のような形相をしたフリックより、ビクトールが逃げ出してみたり。

「この戦争が終わるまでに、何処かで『勝負』は付けておくか?」

「暇があって、乗り気になったらね」

脱兎の如く駆けて行ったビクトールを見送りつつゲオルグが言った、物騒な『誘い』に関するやり取りが、カナタとゲオルグの間で交わされてみたり。

「……あ、そう言えば。──マクドールさん、さっき聞こえたんですけど……とある国の女王様の悲恋物語って、何ですか?」

「ん? お伽話だよ。遠い国…………ファレナ女王国って云うね、そんな名前の国の、昔々のお伽話」

不意に、セツナが思い出して尋ね始めたことに、無駄な息を吸い込んでしまって噎せるゲオルグを尻目に、ニタっとカナタが笑んでみせたり。

「盟主殿っっ! 大人しく為さっていて下さい、とは申し上げましたが、遊びに行け、とは申し上げていませんっっ」

「あ、シュウさんっ! いいじゃない、別にーーーっ。僕、今日は邪魔なんでしょ? これからお茶するんだから、お小言は後でねーーーーっ!」

偶然、セツナの姿を見付けたのだろう、本棟二階の、議場の窓から身を乗り出して、小言を飛ばして来たシュウへ、べーーっとセツナが舌を出して逆らってみせる、と云った、この、同盟軍の本拠地の中で、日々繰り返されている、ありふれた風景を醸し出しながら。

彼等も、人々も、デュナン湖畔の城を被いながら深くなって行く、その日の午後の中に沈んで。

何時も通り、同盟軍本拠地の営みは、一日の終わりを目指し始めた。

End

後書きに代えて

他愛のない、取り立てて何かが起こる訳でもない、同盟軍本拠地の出来事、なお話です。

或る意味、きらーーーくなお話。

当サイトの同盟軍の皆様は、毎日、こんなことしてます、ってノリのお話でした。

ま、単に、戦闘シーンが書いてみたかっただけ、とも言います。

一寸、カナタとゲオルグさんでは、勝負が付かなそうだったので、偉いことあっさり終わってしまいましたが。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。