「どーしてそこで、笑うんですか、マクドールさんっ!」

「……セ、セツナの好みって、ナナミちゃんと一緒に『逞しく』育った反動なんだ……。……あ、駄目……お、可笑しいっ…………」

「ぼっ…………僕だってっ! 僕だってですね、もしもお付き合いって云うの、女の子と出来るんだったら、可愛らしいって云うか、可憐って云うかっっ! そーゆー子がいいって思うことくらい、ありますーーーーーーっ!!」

何が可笑しいのか、セツナには判らなかったけれど。

唐突に笑い出した人に食って掛かってみたら、更に笑いを高くされ、声こそ立ててはおらぬものの、ヴァンサンもシモーヌも、口許を押さえつつ肩を震わせているのを見て。

思わず彼は、絶叫した。

「……ご、御免ってば……。も、もう、笑わないから……」

拗ねたような声で、ぎゃあぎゃあと言い出したセツナへ、一応、カナタは詫びを告げたが。

詫びを語るカナタの唇も、肩も、ふるふると震え続け。

「………………笑ってるじゃないですか、未だ」

ぷっっ……と、盛大に、セツナは膨れた。

「だって、セツナのそれって……………。あ、淡い、と言うか……。と……兎に角、反動でっっ……。──そう……だよねえ……。セ、セツナ未だ、男の子、なんだよねえ…………」

「初々しい…………」

「可愛らしい方ですねえ、我が心の友は」

すれば、カナタも、シモーヌも、ヴァンサンも。

口々に、そんなことを言い出し。

「淡いって……初々しいって……可愛らしいって……………──。……どーーーーーっせ、僕は未だ子供ですよーーーだっっ。マクドールさんとだって、七つも年、違いますよーーだっっ」

セツナは、頬の膨らみを増させ。

「ホントに七つ?」

「未だ僕のこと苛めますか、マクドールさんっっっ」

「あーもー……。拗ねないの。御免ね? 本当に、もう笑ったりなんかしないから」

カナタは今度こそ笑いを収めて腕を伸ばし、そっぽを向いてしまった彼の頭を、幾度か撫でた。

「…………ホントですかぁ?」

大人しく、カナタのするがままになりながらも。

疑いの眼差しを、セツナは注ぐ。

「うん。本当に」

「……じゃ、何で笑ったのか、教えて下さい」

「知りたい?」

「ええ。まあ」

「恋愛って云うのはね、セツナが言ってたように、するものじゃないからだよ。だから、一寸ね。……『淡い』なあ……って。……セツナ、十四、五とは思えないくらいしっかりしてるし、色々と頑張ってるから。君の答えがね、意外だったんだよ。他のことは少し大人びてる君でも、『そう云う処』は『等身大』なんだなあ……って。だから、つい。…………ホント、御免ね?」

ジトッとしたセツナの薄茶色の瞳より放たれる、『不機嫌光線』を受け止めて、カナタはそんな風に答えた。

「………………? 僕達がしてたのって、単なる好みの話ですよね?」

「うん、そうだよ」

「なのに、そう云う風にするものじゃない……って? どうしてですか?」

「多分その内に、セツナにも判る時が来るよ。恋愛と云う物は、『そう云う物』じゃない……ってね。でもまあ……いいんじゃないのかな。セツナはそのままで」

「……そう言われても」

答えろ、と詰め寄ったことを、確かに答えて貰ったものの。

言われている意味が良く理解出来ず、瞬く間に『不機嫌光線』を引っ込めたセツナの目付きは、困ったようなそれへと塗り変わった。

「気にしないの。何時かきっとね、僕の言ってること、判る日が来るから。判らなかったら、教えてあげるよ、僕が」

「…………あの……。益々、良く判らないんですがー……」

「いいの。判らなくって」

「相変わらず、秘密主義ですね、マクドールさん………………」

──何時か教えてくれると云うなら、今直ぐ教えてくれたっていいじゃないか。

そんな雰囲気を語調に滲ませながら、セツナは口を尖らせる。

「あ、酷い言い種。僕はセツナに、隠し事なんてしたことないのにねえ。…………ま、その内ね、その内。────あ、セツナ。そろそろ行かないと。又、正軍師殿にお目玉喰らうよ。……と云う訳だから。じゃあね、二人共」

セツナを撫でる手を止めず、くすくすと、楽しそうにカナタは忍び笑って、残る二人に離席を告げつつ、思い出したように立ち上がった。

「あ、そですね。──じゃ、お先にー。ヴァンサンさん、シモーヌさん。又一緒にお茶しましょうねー。……………………あの、今日の話、誰にも言わないで下さいね…………」

促されるままに、セツナもカナタの後に続いて、ヴァンサンとシモーヌに笑顔を振りまき、最後にこそこそっと、口止めをして。

「今日は、何が残ってるの?」

「えーっとですね。署名とー、シュウさんのお小言聞くのとー、算盤、弾くのとー。後は………………────

そうして彼等は連れ立って、そんなやり取りを交わしながら、三階テラスより、去って行った。

「…………我が友、シモーヌ?」

「何だい? 我が友、ヴァンサン」

「セツナ殿が、恋愛の何たるかを知らないまま過ぎたら」

「……ああ」

「カナタ殿が、それを教える、と言われておられたが?」

「そうだな。僕もそれは確かに聞いた」

「カナタ殿はセツナ殿に、何をどうやって、教えるつもりだと言うのだろうね。…………判るかい? 我が友、シモーヌ」

「…………我が友ヴァンサン。残念ながら、僕には判らない。いや、判らないと言うよりは、余り深く、考えたくはない」

──カナタとセツナの二人が、爽やかなテラスより立ち去った後。

残された、ヴァンサンとシモーヌは。

紅茶、と云う物に関してだけは、底なしの許容量を発揮するらしい胃袋の中に、未だ、紅茶を落とし続けながら、そのような会話を交わして。

今日の茶会の席にて耳にしたことは、綺麗さっぱり忘れよう、と、デュナンの青い空を見上げた。

End

後書きに代えて

他愛がなく、取り立てて何かが起こる訳でもない、同盟軍本拠地の出来事その三。

お茶会と、女の子の好みのお話。

『色んな意味』で、セツナにとっては鬼門です、恋愛談議。

セツナは、アンネリーちゃん系の子が好みである模様ですが。余りにも、幼過ぎる好みですな(笑)。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。