「この間、僕がへろへろしてた日に、マクドールさんが作ってくれたお昼御飯は、松花堂弁当って言うんです。お子様ランチじゃないです。……こーゆーこと言うと、他の皆には、お子様って、又からかわれるかも知れませんけど、僕、お子様ランチには一寸うるさいんです。だから、覚えて下さい、マクドールさんっ! これが、一番正統派だと僕が信じる、お子様ランチですっ!」

……そうして、セツナは。

どういう訳か、酷く気まずそうな面を、一瞬だけ拵えたカナタへ、更なる訴えで畳み掛けた。

「……そう。……こういうのが、『お子様ランチ』って、世間では言うんだ……」

「そうですよー。こういう御飯、小さい頃からの、僕の憧れだったんです。ほら、ゲンカクじいちゃんの道場は、あんまり裕福じゃありませんでしたから、滅多にはって奴でしたけど。うんと小さい頃、ジョウイにこういう御飯があるんだよー、って教えて貰ってからずっと、これは僕の憧れで。何かあると、じいちゃんが、頑張って作ってくれてですね。僕は今でもこの御飯、大好きなんですよ。……だから、マクドールさんにも覚えて欲しくって。お子様ランチ」

「………………成程」

「そーゆー訳なんです。じゃ、折角作ったんですから、食べましょう? マクドールさん」

やたらと熱い、『情熱』を込めて、セツナが想いを語っても。

ふうん……と。

何処かぼんやりした風情で、カナタはそれを聞き。

出来上がったそれを携えてセツナは、厨房を出、テーブル席へ付くと、いそいそと、スプーンを取り上げた。

「いただきまーーーーすっ」

「……いただきます」

席に着くや否や、高らかに告げ、食べ始めたセツナに釣られるように、食器を取り上げながらも。

例えるならば、どうしたらいいのか判らない風に、カナタは食事を始め。

「もしかしてマクドールさん、こういう御飯、食べたことないですか? あんまり好きじゃないですか? ……あ、この間マクドールさんに作って貰ったお昼、結構薄味でしたから、もしかして、味濃いですか?」

そんなカナタの様子を気にしたのか、無理矢理過ぎたかなー、と気遣うように、セツナは彼へ、上目遣いを送った。

「…………そういう訳じゃないよ。味付けが濃い訳でもないし。……まあ、僕もこの歳だからね、好んで食べようと思う料理じゃないけど、嫌いという訳でもないし。…………食べたことがない、という訳でもないよ、うん……」

『溺愛』中の、大切な大切な彼に、気遣わしげに見上げられて、にこっとカナタは、微笑みはしたが。

歯切れ悪く、彼は言葉を濁し。

「……食べたことがあるのに、お子様ランチ、知らなかったんですか? マクドールさん」

「……いや、その……ね……。正確に言うと、少し違うんだけどね…………」

「少し違う? …………あれ? マクドールさん……? もしかして、顔赤くしてませんか?」

カナタを注視していたセツナは、目を丸くした。

「………………あー……。……その、ね……。この手の、子供が喜ぶ食事をね、小さい頃に、したことがない訳じゃないんだけど、その……。……僕にとって、これは、その………………………だったんだよ……」

すればカナタは、口許を、空いていた左手で覆い隠して。

「はい?」

「……だから、ね。僕は小さい頃ずっと、こういうメニューのことを、その、ね…………『グレミオお昼』って呼んでて……。少し大きくなってからは、こういった物、食べなくなったし、グレミオも作らなくなったから、『それ』がお子様ランチだって、知らずに来ちゃったみたいでね……。──…………御免、セツナ。恥ずかしいからこの話、忘れて…………」

彼は、気恥ずかしそうに、そっぽを向いた。

「…………随分、可愛らしい過去が、マクドールさんにもあったんですね……」

「……だから、忘れて。……って、それ、どういう意味? セツナ」

──気の所為です、マクドールさん。…………そうですか、お子様ランチのこと、『グレミオお昼』って呼んでたんですか…………」

「お願いだから、忘れてってば…………」

「忘れます、忘れました。も、綺麗さっぱり。…………もしかしてマクドールさん、グレミオさんのシチューは、『グレミオお夕飯』とか呼んでた、とか、ベタなことあったりします?」

「……セツナ…………」

────それ故。

そっぽを向いたカナタを、からかうような会話を、セツナは続け。

カナタは、確実に一つ、握られたくもなかった弱みを握られた、と、げんなり肩を落とし。

片方は、何処か嬉々としながら。

片方は、やけに憔悴しながら。

彼等は、お子様ランチを囲んだ昼食を、その日、『和やか』に終えた。

この出来事から、暫く。

「お子様ランチは『お子様ランチ』だって、しっっっっっっ……かり、覚えて下さいね、マクドールさんっ」

……と、『にこにこ』微笑みながら、お手製のお子様ランチの皿を差し出し、カナタに迫るセツナと。

「セツナ? 今日も、稽古しようか? セツナが、『もう御免なさい』って言うまで、付き合ってあげるよ?」

そんなセツナに、立ち合いの相手をしてあげる、と、『にこにこ』微笑みながら申し出る、カナタのやり取りが。

同盟軍本拠地では見掛けられたと言う。

End

後書きに代えて

めためたに仲が良いくせに、時折『小競り合い』に及ぶ二人のこのザマは、カナタがお子様ランチを自力で、レシピも見ないで作れるようになるorセツナが『お子様ランチの「嫌がらせ」』を止めるかするまで、続きます(笑)。

別名、堀っくり返されたくない過去を封印したい人VS堀っくり返されたくないだろう過去を、塗り替えて抹殺したい人とも言いますが。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。