どうして、あんな風に心の臓に良くない悪戯ばかりをするのだろうと、仲間達がブツブツ零す文句を背中で聞きながら、部屋へ戻るべく、廊下を進み。

「近い内に、ミルイヒさんの所に、借りた服、返しにいかないとですね」

「そうだね。明日お天気が良かったら、ヨシノさんに頼んで洗って貰って。……そうだな、明後日……いや、明々後日くらいに、もう一度、トランに行こうか」

片や、幽霊に化ける為の山吹色の衣装を、片や、朝から着込んだままの『目に痛い程きらびやかな』衣装を、ひらひら翻しつつ、セツナとカナタの二人は、常の調子で話し出した。

「はーい。……あ、マクドールさん、ミルイヒさんって、甘い物得意な人ですか? お土産代わりに何か、って思ってるんですけど、お茶菓子よりも、紅茶とかの方が、ミルイヒさんには良いのかなあ、とか思ったんですよね。無理言って、収集品の中から、この衣装借りちゃいましたから、絶対手ぶらでは行けませんもん」

「うーん……。年中茶菓子を摘んでる口だから、甘い物が嫌いな筈はないけど、何処まで甘くても平気か、になると、僕にも一寸……。──あ、そうか。ヴァンサンとシモーヌの二人に訊けば、教えてくれるんじゃないかな。ミルイヒとは、茶会仲間だったようだし。趣味も一緒だろうし」

「ああ、そうですね! じゃあ明日、ヴァンサンさんとシモーヌさんに聞いてー。うん、ばっちりですねっ。……それにしても、ミルイヒさんって、自分が着る服だけじゃなくって、色んな国の色んな衣装収集するのも、趣味だったんですね。トランのこと知ってる皆の話から、一寸、服の趣味が変わってるだけの人なのかなって思ってましたけど」

「ん? ミルイヒ? ……知ってる人は少ないらしいけど、彼、服飾って世界そのものに、興味を持ってるそうでね。服の意匠を考えるのも好きみたいだ。……ま、そのお陰で、今回の悪戯も成功させられた。彼の所で、その着物見付けたの切っ掛けに、悪戯の筋書き浮かんだからねえ」

「……そう言えば、マクドールさん」

「何?」

「テッドさんがした『恐怖体験』の話って、本当なんですか?」

「うん、本当。さっき皆にした話とは、全然筋が違うけど、本当にこういう体験したんだっ! って、テッド、力説してたし。所謂、霊感とかいう物があったか、それこそホントに、魂喰らいを宿してたからか。……そのどちらかの所為で、『縁』があったんじゃないのかな、テッド」

一階から、中二階にある『えれべーたー』の前まで行って、アダリーが貼ったらしい、『えれべーたー使用禁止』の張り紙を見、『人力えれべーたー』の『動力源』、エレベーターバーバリアン達は訓練中か、休息中か、と、階段で五階まで向うことにしたその途中。

二人の会話はそこへと行き着いて、処で、と言い出したセツナに、カナタは、例の話の元を、テッドから聞いたのは本当、と教えた。

「へえ……。そこだけは、作り話じゃないんですか。……でも、マクドールさんが、お化けを見たことがないって言うのも本当ですから、魂喰らいの所為とかじゃなくて、単にテッドさん、お化けを視る人だったのかもですねー」

「かもね。魂喰らい宿したら最後、霊魂との深い縁が出来ると言うなら、僕も、同じ憂き目に遭ってなきゃおかしいのに、そんな気配は欠片もない。……ああ、でも、『これ』に、魂が取り込まれて行く所なら見たことがあるよ」

そうして話の果てに。

カナタは、けろっとそんなことをセツナに教え。

セツナは、本当に一瞬のみ、何と答えるべきやらと、酷く複雑な色を頬に浮かべた。

「…………えっと……」

「気にしない、気にしない。事実は事実。現実は、何処までも現実。そんなことで、一々へこんでたらキリがない。本当に、『何も彼も』が『これ』に喰われれば、そこで『終わる』という訳でもなさそうだしね。例え幻影でしかなくとも、少なくとも一度、僕は、亡き後の、父上やテッド達の『姿』を見てはいる」

「……ああ、そう言えばそうでしたね。…………皆さん、何処にいるんでしょうね」

「何処だろうね。僕にもセツナにも、今は見えない場所なんだろうね。『これ』の中かも知れないし、そうではないかも知れないけど。多分、魂の、本当の行方は、『これ』の中、という訳ではないんだろうと思うよ。人は死んだら、全てがそこで終わる。だとするなら、魂も又、だ。ならば、喰われ捕われたのだとしても、その道は多分正しくないんだと思うよ」

「………………物凄く、或る意味で『達観』した意見ですねー……」

「そう? それこそ、或る意味での願望込めて、って部分もあるんだけどね。魂の行方が、『これ』ではない方が、僕としては有り難いし、『これ』の所為で、行くべき場所へ行けない魂を視るのも、御免被りたいよ。……大変そうじゃないか、ちゃんとした場所に戻るように、諭して歩くの」

「ホントーーー……に、マクドールさんって。何処まで本気で、何処までふざけてるのか、僕には未だ判りません……」

彼が、複雑な表情を浮かべたのは、本当に一瞬のことで。

直ぐさま、何時もの面に戻りはしたけれど。

続いたカナタの弁が、余りと言えば余りなそれだったから、セツナは今度こそ、本気で、何処となく渋い顔を作った。

「そんなこと、言わなくても君には判るだろうに。──さ、どうでも良い話はこれで終いにして、寝よう? もう、夜も遅い。又明日の朝、起きられなくなるよ? セツナ」

「あ、そですね。疲れましたしねー、今日。こんなに騒いで、明日寝坊したら、シュウさんに、まーーた、怒られそうですし」

「大丈夫、ちゃんと起こしてあげるから。その代わり、素直に起きるように。寝ぐずるのは駄目だよ」

「……う。……努力はします…………」

でも、カナタは。

ちらりと横目でセツナの表情を見遣って後も、何処吹く風のままで。

唯、にこりと微笑み。

寝ようね、と諭すように言い。

丁度辿り着いた、最上階の部屋の扉を開け放って、セツナの背中を押す風に、中へと促して。

己も又、暗いその部屋の中へと消えて……、そして。

音もなく、扉を閉めた。

End

後書きに代えて

群島の話の方に置いてある、『魂の行方 ―これまで―』と、対だということにしておいてやって下さい。

テッドの話がそうだったように、これは、『カナタは霊魂を視ることがない』。

そういう話です。

後はちょいと、お子様ずに、罰ゲームやらせてみたかった、って奴ですね(笑)。

……怪談、もっと怖くても良かった……? すいません、私限度が判らないから(笑)、怖くないだろう程度にしました(笑)。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。