そう、夕べ。
夢を見た。
懐かしい人達の夢を。
もう今は遠い。
彼等を失ってしまった時に、泣いたのか、そうでなかったのか、それすらも忘れてしまった程に遠い、懐かしい人達の夢を。
だから……昼間、フリックを見掛けた時、呼び止めて。
オデッサの名前を出した。
シュウとセツナが、何時ものやり合いをしているのを見掛けた時には、あの戦の終わり、逝ってしまった僕の軍師マッシュの、幻影を探した。
風に当たろうと出た、テラスで。
キバに出会した時には、暖かかった父上の面影を、見付けようとした。
訓練場を覗いて、マイクロトフとカミューを見た時には。
親友同士だった僕とテッドも、端からはこんな風に見えていたのかな、と、思い巡らせた。
ナナミが、この部屋に飛び込んで来た時には…………セツナを探すナナミの姿に、グレミオを重ねた。
坊ちゃん、坊ちゃんって。
何時も、僕を呼んでうるさかった、優しかった、グレミオ、を。
────そう、夢を見てしまったから。
あの頃、僕の周りを取り巻いてくれていた、僕の運命に重なっていた、懐かしい人々の夢を。
暖かくて、優しくて、敬愛出来て、掛け替えがなかった、大切だった人達を、夢に。
……彼等を亡くした運命を。
僕は、毛筋程も嘆いてはいないけれど。
それと、彼等を偲ぶ想いは、又、別物だから。
オデッサ・シルバーバーグ。
貴女を、あの時失わなければ。
マッシュ・シルバーバーグ。
貴方が、あの時先立たなければ。
父上……テオ・マクドール。
貴方を、あの時討たなければ。
テッド。
貴方を、あの時救えていれば。
グレミオ。
貴方に、あの時手が届いたら。
僕は、今とは違う高みに、立っていたのでしょうか。
──夢を見る度。
そう考えて、僕は、懐かしい人達を、偲ぶ。
…………こんなこと、思ってみても仕方のないことだと、重々、承知はしている。
過ぎ去った過去を振り返るつもりなど、僕にはない。
懐かしい人達を亡くした過去があるから、今の僕があって、僕の傍らにはセツナがいる。
けれど、彼等を懐かしむ想いは、時折僕の中で膨れ上がる。
貴女の、真直ぐな眼差しが。
貴方の、戦いへの真摯な思いが。
貴方の、厳しさと温もりが。
貴方の、明るい微笑みが。
貴方の、穏やかな優しさが。
時折、僕は恋しい。
……この回帰と感情を、僕は。
多分生涯、厭わない。
この思いは、僕の弱さであり、僕の強さでもあるから。
僕が、人であると云う証明であり、人であるが故に、それは、僕の強さだから。
僕はこれを、否定はしない。
唯。
…………そう、唯。
彼等を懐かしむ夜。
昔のように……僕が未だ、何も知らなかった子供だった頃のように、抱き締めてくれる手が欲しい、と、そう願うだけで。
甘えさせてくれる、温もりが欲しい、と思うだけで。
全ては生業であり、理であると、僕は知っているから。
懐かしい人達の夢を見て。
懐かしい人達の面影を探して。
こうやって、一晩を過ごせば。
又明日から僕は、歩いていける。
End
後書きに代えて
一寸、人外なイメージのある(私の中では)坊ちゃんも、やっぱり人、と云う話。
私、グレミオさん、好きなんですけども。うちの話、グレミオさんすら、いないので。
一寸、坊ちゃんに懐かしがって貰おうかなー、と。
──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。