その翌日も、その又翌日も、暑い日々は続き、それでもセツナは、大切な人々に、大切な仲間達に囲まれながら、幸せに、元気一杯、毎日を過ごした。

──それより程なく訪れた、未だ当分は続くだろう盛夏のとある一日。

ふらっと、同盟軍本拠地に、シーナという名の、トラン共和国大統領子息が訪れたのを切っ掛けに、セツナ達は、トランとの同盟を締結させるべく動き出し、シーナの仲介で無事の大役を果たしたセツナは、トランより本拠地へと戻るや否や、

「忘れ物したから、もっかい行くの! 青磁の壷手に入れないと、レンブラントさんがお城にお店出してくれないんだもん!」

と、強行軍にバテバテになった仲間達を引き連れ、再び、トラン共和国首都グレッグミンスターへと向かうべく、慌ただしく本拠地を発って、トランへの経由地であるバナーの村を訪れ────そこで。

遡ること、三年と数ヶ月前に終結したトラン解放戦争当時、トラン解放軍の軍主だった彼──以来、トランの英雄、と人々に呼ばれている彼、カナタ・マクドールと出逢った。

バナー村の宿屋の息子のコウに、同盟軍のセツナ将軍──即ち自分と勘違いされていた人物に興味を持って、声掛けてみた瞬間から暫くは、セツナは、一目見た時、『お兄ちゃん』だと咄嗟に思ってしまったカナタが、トランの英雄その人だとは判らなかった。

彼が、カナタがそうであると知ったのは、山賊に攫われてしまったコウを救い出そうと、トランへ続くバナーの峠をひた走った後で、その頃にはカナタも、セツナが同盟軍盟主であると知ったようで、様々なことが目紛るしく起こり続けたその日の終わり、一晩厄介になることになった、グレッグミンスターの屋敷町の一画にあるカナタの生家、マクドール邸にて、セツナは、

「セツナ君。一寸話をしない?」

と、カナタに誘われた。

「あ、はい」

伝え聞いた彼の武勇伝にも、彼自身にも憧れたことがあるセツナに、誘いを断る理由など何処にもなかったから、連れられるまま、彼の自室へ向かい、並んでベッドに腰掛けて、暫し話し込んだ直後。

──どうも、僕は君が気に入ったみたいだから。君が望むなら、僕は傍にいてあげる。……共に、ゆこうね」

誰が聞いても重たく感じる筈の自身の運命と、得た真の紋章を、にこにこと笑い飛ばしつつ語ったカナタに、頭を撫でられながら、セツナは。

────共に、ゆこうね。

……と、告げられた。

告げてくれる者など、きっと何処にも在りはしない、と、切望しつつも諦めていた一言を。

「……はい…………」

…………たった今、カナタが告げてくれた一言は、『魔法の呪文』だ、とセツナには判った。

その言葉に頷いたら最後、己の運命がどう変わってしまうかも判らない、というのも。

けれど、彼は頷いた。幸せそうに笑みながら。

魔法の呪文をくれた、たった一人の人へ。

頷くより他なかった。

その一言は、その一言をくれたカナタは、歓喜以外のナニモノでもなかった。

だから、セツナは頷いた。

魔法の呪文へ。魔法の呪文をくれた人へ。

共に、ゆこうね。

歩く時も、立ち止まる時も、走る時も、蹲る時も、傍にいて、全てを共に。

……その言葉に、唯、頷きを。そしていらえを。

その先の、己が運命と引き換えに。

End

後書きに代えて

カナタと出逢う直前くらい&出逢った直後のセツナの話。

出逢った、と言うべきか、出逢っちゃった、と言うべきか。

セツナもセツナで、この話では特に、「あー……」な一寸残念な子ですが、この辺り&統一戦争中にカナタがやらかしたことに絡む話書いてると、カナタが鬼に思える気がしなくもない、かなー……。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。