当人達はそれと気付かぬだろうが、セツナよりの『冬至祭の贈り物』の所為で、照れたり悶えたり暴れたり青褪めたりと、忙しなくなった傭兵達を、「じゃあねー」と手を振り解放し、部屋に戻ったセツナは、
「すんごい面白かったです、ビクトールさんとフリックさんのあの顔」
ぽよん、と勢い良くベッドに腰掛け、けらけら、腹を抱えて笑った。
「確かに、あれは傑作だった。二人も、あんな風に照れることがあるなんて、思わなかったけど」
その傍らを優雅な姿勢で占めて、カナタも、堪え切れぬ笑いを洩らす。
「それにしても、セツナ。あれが、二人への冬至祭の贈り物なの?」
「はい。ビクトールさんもフリックさんも、何時も僕のこと、弟分ー、とか、弟みたいー、とか言ってくれるんで、じゃあ、お兄ちゃんって呼んでみようかな、って。……ちょびっとだけ、僕から僕への贈り物でもあるんですけどね、実は」
可笑し過ぎて、痛めてしまいそうな腹筋を庇いつつ、贈り物って? とカナタが問えば、セツナは、えへ、と誤魔化し笑いを浮かべながら、あれが、彼等への密かな贈り物なのは事実だが、純粋に、二人をそう呼んでみたかっただけでもある、と白状し、
「成程ね。……なら、ビクトールもフリックも、役得かな」
「そですか?」
「うん。そう。僕に言わせれば」
「なら、いいですけど」
もう一度、盛大に照れてから、ちょん、とベッドより下りた彼は、部屋の隅に走った。
「セツナ?」
「…………はい。マクドールさん」
タッと室内を横切り、目立たぬ風に置いておいた革袋の中から、綺麗に包装された、書類と同程度の大きさの箱を取り出した彼は、又、タッとベッドへ戻り、カナタへ手渡す。
「僕に?」
「はい。でも、マクドールさんへの贈り物は、冬至祭の贈り物ってだけじゃなくて、お誕生日の贈り物でもあります。────お誕生日、おめでとうございます、マクドールさん」
「……有り難う、セツナ。……開けていい?」
「はい!」
────古、年の始まりと定められていた、一年で一番陽の短い日、それは、カナタの生誕日でもあるから。
真実照れ臭そうに、そして嬉しそうに、セツナは彼へと贈り物をし、幸せそうに微笑んだカナタは、そっと受け取った贈り物の箱を、丁重な手付きで開けた。
「靴?」
白い、厚紙で出来た箱の中に入っていたのは、一足の靴だった。
「ええ。トランでは、冬至に靴を贈ると、贈られた人に幸せを齎してくれる、って言い伝えがあるって聞いたんで、そのー……。……あ、寸法、多分大丈夫だと思うんですけど、もしも合わなかったら取り替えてくれるって、お店の人が言ってたんで、駄目だったら言って下さい!」
どうして靴? と微かに首を捻ったカナタへ、わたわた、セツナは理由を告げる。
「ああ……。……セツナ、そんな伝説まで聞いたんだ。────本当に、有り難う。セツナに、誕生日を祝って貰って、こうして贈り物までして貰えて、凄く嬉しい」
だから、そういうことか、と再び綺麗に笑んだカナタは、手にしていた箱を脇へ置くと、セツナを抱き締めた。
「いいえ。僕こそ嬉しいです。一寸前に、マクドールさんのお誕生日が何時なのか教えて貰って以来、絶対、お祝いするって決めてたんです。だから、マクドールさんに贈り物出来て良かったです」
されるがまま、そうっと、セツナは彼の胸許に懐いた。
「うん。僕の誕生日も、セツナの『内緒』のお誕生日も、一緒にお祝いしようって、約束だものね。半年後──夏至の日には、盛大にお祝いしなくちゃ」
「え……。お祝いして貰えるのは嬉しいですけど、盛大なのは、ちょっぴり照れ臭いです……」
「いいの。セツナのお誕生日なんだから。僕だって、今、照れ臭いし」
「ほんとですかぁ?」
「本当。照れ臭くて、けれど、幸せ。……今まで、誰かの誕生日に感謝こそすれ、自分の誕生日なんか論外だったけど、今夜、初めて感謝した。今日、この日に生まれたから、こうしてセツナに出逢えた、って。……だから、半年後の夏至の日を共に祝って、そうしてセツナも、生まれてきたことに、僕と巡り逢ったことに、感謝してくれたら嬉しいと思うよ」
「へ? 論外? ……もしかして、マクドールさん、前に教えてくれたような意味で、お誕生日絡みのことは一寸……、ってだけじゃないんですか?」
「……あれ。セツナには未だ教えてなかったっけ? …………僕の誕生日は、母の命日なんだ」
「………………え。そうなんですか。お母さんの…………」
懐き合う獣の仔同士の如く、ぴとりと寄り添い、静かな声で、二人は、そんなやり取りを交わす。
「そう。だから、正直、それを知って以来、誕生日というのは僕にとっては複雑な日だった。僕の命と引き換えに、母は逝ったから。幼心にも手放しでは喜べなかったし、解放軍々主となってからは、以前話したみたいな意味でも複雑さを増してしまって……、でも。今年からはセツナが祝ってくれるから、素直に嬉しく思える。…………本当に本当に、有り難う、セツナ」
「そう、ですか…………。────マクドールさん。お誕生日じゃなくても、僕は感謝してますよ。マクドールさんと出逢えて良かった、って」
「そうなの?」
「はい。歩く時も、立ち止まる時も、走る時も、蹲る時も、傍にいて、全てを共に、なんて言ってくれるのは、マクドールさんだけですから。だから、今日、マクドールさんが生まれてきてくれて、僕は嬉しいです」
疾っくにカナタは話したつもりでいた、が、セツナは今日まで知らなかった、カナタの生母の命日、それを聞かされ、一瞬のみ、セツナは顔色を暗くし声も詰まらせたけれど、直ぐに、彼はカナタを見上げ直し、ほわっと笑んでみせた。
「という訳で、マクドールさん。冬至祭のお祝いは、もうお終いで、今度は、マクドールさんのお誕生日祝いです。お酒とお茶と、どっちがいいですか?」
「そこまでの支度、何時の間にしたの? セツナは」
「内緒です!」
そんな笑みを向けてくれた彼の髪を、「本当に、この子は……」と、くしゃくしゃになるまで撫でて、カナタは、彼と共に立ち上がり、その部屋の片隅の小さな卓を、二人で囲んだ。
────それより、夜が更けるまで、彼等の、カナタの生誕日を祝う細やかな席は続き。
以来、一年で一番陽の短い日に。一年で一番陽の長い日に。
彼等は。
End
後書きに代えて
すんごい久し振り(多分、三年振りくらい/2011.08現在)に(以下略)。
──冬至(12/22)のお話。
って、あ、そうだ。この話、ちょっぴりだけ『盤上の星』という話と繋がってます。
──うちのカナタの誕生日は12/22なので、その辺のお祝い話込みで。……とは言っても、カナタの場合、誕生日=母親の命日なので、色々と複雑な日みたいですが。
尚、セツナが、傭兵コンビ捕まえて「お兄ちゃん」呼ばわりしたのは、カナタの為でもあったりしたりしなかったり。
──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。