今宵の月見をやり直そう、と。
カナタにそう告げられた途端、え……? とセツナは、全ての動きを止めたけれど。
それも一瞬のこと、あっと云う間に彼は、フェザーとの戯れを再開しながら、考え込む風な顔を見せ。
「それは、構いませんけど…………。ホントに、いいんですか?」
真意を問うようにカナタを見た。
「いいよ、僕は別に。僕はね、『お月様は』嫌いじゃないんだ。セツナと僕と、二人で見上げるんなら、又、格別だろうし」
「そですか……。なら、ここで静かに、お月見しましょっか」
「うん。中庭で未だやってる『騒ぎ』も嫌いじゃないんだけど…………。多分お月様は、静かに見上げる方が、『らしい』から」
──他意なんてないよ。
……窺うようなセツナの眼差しに、にっこりと笑ってカナタは答え。
月を愛でること『は』嫌いではない、と言い足した。
「相変わらず…………『複雑』ですねえ、マクドールさん」
「そーお?」
「ええ、そうですよ。………………でも、きっと。僕達の『そう云う処』って、おあいこですよね……。────あ、僕、お茶取って来ますね。直ぐ、戻りますから」
「ああ、有り難う」
そんな彼にセツナは、ほわ……と、困ったような、呆れたような微笑みを返し。
お茶取って来まーす、と元気に立ち上がり、もう、酒の名残りを体に留めてはいないらしい足取りで、パタパタと、階下を目指し降りて行った。
「……別に、お月様に恨みがある訳じゃないしね」
身軽な感じのセツナの足音にのみに、聞き耳を立てつつ。
煌々と輝く月を振り仰ぎ。
貴方に恨みがある訳じゃなくて、とカナタは綺麗に、笑った。
「セツナが月を愛でようが、厭おうが、そんなこと、どうだっていいんだけど……ね。やっぱりね…………」
そうして、彼は。
長らく月光を見詰めた後、そっと眼差しを逸らして、再び、独り言を呟き。
「あの月の『裏側』に、セツナが何かを見付けることが、僕は嫌なのらしいよ。月の裏側なんて、決して、姿見せはしないのにね。…………判るかい? フェザー。中々、面白いだろう? 僕の考えることも。僕が望月を好むように、セツナも、僕が思うように望月を好んでくれれば、僕はセツナの瞳を、被ったりはしないのにね。例え、『想い出の篭る』月を、彼が見上げようとも」
大好きな少年が席を外してしまった所為で、何処か物悲しそうな気配を漂わせた巨鳥へ向け、カナタは語り掛けた。
「……キュイ……?」
──語り掛けられた、人語を解する鳥は。
カナタの云う言葉の複雑さに、訝し気な鳴き声を返したが。
「マクドールさーーーん。今、タキおばあちゃんから、『ホント』のお月見団子、貰っちゃいましたーーーーーっ!」
階下へ続く階段の向こうから、嬉しそうなセツナの声が響いて来たから、フェザーとの語らいを打ち切り、カナタは。
「早く、戻っておいで。そんなこと云って、ナナミちゃんにばれたら、叱られるよ」
近付いて来る、セツナの声の方へと、振り返った。
輝く、月光を背にして。
End
後書きに代えて
コメディを書く筈だったのに、どうして、シリアスになったのだろう。
──お月見@本拠地にて、なお話でした。
ほんっっっきで、独占欲強いですね、カナタ。
良かったねえ、今回は、お酒飲まされても寝ちゃわなくって、セツナ。
…………どうしたらいいんだろう、この子ら。
──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。