「……ほら! ヒックスってば、急いでよっっ。ビクトールさんとフリックさん、行っちゃったじゃないっっ」

「ほ、ホントに、あの二人の後付いてくつもり? テンガアール……」

「当たり前でしょっ。強い人達の傍にいて、立派な戦士になって、って。頑張らないでどうするのっっ。君の成人の儀式が終わらないと、僕達、戦士の村に帰れないんだよっっ」

「一寸っ! テンガアールちゃんも、ヒックスさんもっっ! 私のフリックさんの後付けて、どうするのよーーっ! ああん、もうっっ! ここを出るのは今日の午後って、そう言ってたのに、フリックさんってばーーーーっ!」

────さようなら、の言葉を残し。

カナタとセツナに背を向けて、ビクトールとフリックが、旅立ってしまった直後。

余韻を吹き飛ばすように、城の本棟の方から、未だ旅立ちを終えていなかった、ヒックスやテンガアールや、ニナが飛び出して来た。

「あれ? 三人共、何やってるの?」

「ヒックスとテンガアールは、トランに帰るんじゃなかったのかい? ニナは、ニューリーフ学園へ戻るんじゃ……?」

「あっっ! セツナさんにカナタさんっ。御免ね、僕達急いでるから! 又ね、元気でねっ! ヒックスの成人の儀式終えて村に戻ったら、結婚式の招待状送るからっっ。絶対に来てねっっ! ──ほら、行くよ、ヒックスっっ」

「す、すいません、お二人共。今までお世話になりまし……────ちょ……。テンガアール、そんなに引っ張らなくったって……っ」

数日前まで、成人の儀式がどうの、トランに戻るの戻らないのと、そんなことを言い合って、出立するんだ! とも叫んでいた筈のヒックスとテンガアールの二人が、城内から飛び出して来たのを見て、セツナもカナタも、おや? という表情を拵えたけれど。

そんなことはお構い無しに、一寸そこまで行って来る、そんな風情で、テンガアールはヒックスを引き摺り、ヒックスはテンガアールに引き摺られ、どたどた、正門を越えて。

「私やっぱり、愛に生きることにしたのよ! 私は未だ学生だけど、運命の人と別れて一人学園に戻るなんて、そんな悲劇的な道、選んじゃいけないと思うの! 若い内から、悔いなんて残せないわっ! じゃあね、セツナ君、マクドールさんっ。又ねっっ。私とフリックさんの幸せ、祈ってくれなきゃ嫌だからねっ! ──ああーん、フリックさん、行っちゃうーーーーっっ! 待って下さい、フリックさんーーーっっ」

やはり、数日前までは、テレーズやエミリア達と共に、学園都市グリンヒルに戻ると言っていたニナも、私は愛に生きる! と大声で宣言をして、城門を駆け抜けて行った。

「………………うーん、何時も通りですねえ、皆」

「……そうだねえ」

「無事に、旅立てると良いですねえ、ビクトールさんにフリックさん。あの三人も」

「まあ……なるようになるよ、きっと。あの腐れ縁傭兵コンビに限らず、僕達の知っている皆は、転んでも只じゃ起きないし。踏まれても、踏まれっぱなしじゃないし」

「……そですね。逞しいですしね、皆」

「そうそう。……じゃ、セツナ。これで見送りも終わったことだし。お茶でもしに行こうか。それとも、お昼にする? 少し早いけど」

「うーん。お茶でもお昼でも、僕は構いませんけど。どうするにしてもですね──

──判ってる。その為には先ず、『アレ』、振り切らないとね」

「ですね。……じゃ、丁度良いですから、『駆けっこ』でもしましょうかー」

────夕方には、又帰って来るから。

……そんな雰囲気を醸し出して出て行った、賑やかな三人を見送って。

所詮自分達にも皆にも、余韻に浸るような別れなんて似合わないと、正門前で、暫しの立ち話をした二人は、午前のお茶か早めのお昼か、その何れかに向おうと決め。

ちらり、肩越し、本棟へと視線を流して、宿屋前辺りで仁王立ちをしている宰相殿を見遣り。

せーの、と声を合わせて、その場より駆け出した。

「陛下っ! マクドール殿っっ」

脱兎の如く駆け出して、城の東棟は商業地区の、賑やかさの中へと紛れ込んだ二人の背を、明らかに怒りの角を生やしていると判る、宰相殿の声が追ったけれど、説教を喰らわす気満々のシュウに、カナタとセツナが、みすみす捕まる筈もなく。

「シュウさん、学習しませんねえ。何時になったら、僕達にお説教しても無駄って悟るんでしょうねぇ」

「未来永劫、悟れないんじゃない? 融通って言葉を覚える気、無いみたいだし、彼」

「もう少し、丸くなればいいのになー、シュウさんも」

「……彼の性格が丸くなったら、空から槍が降るよ」

適当なことを言い合いながら二人はそのまま、その日一日、行方を晦ました。

 ────今日、この日までに過ぎ去った、沢山の日々と。

今日も、これからも過ごして行く、沢山の日々は。

代わり映えのない、『何時もの刻』なのだろうけれど。

それでも。

過ぎてしまった日々と、行ってしまった人達に、「さようなら」、をする為に。

カナタとセツナの二人は、彼等以外の何者の目も届かぬ場所で、その日、一日を。

時折、「さようなら」の言葉を、口ずさみながら。

End

後書きに代えて

トラン解放戦争後、カナタに残されちゃった皆さんからカナタへ送る『嫌がらせ』&バイバイ、腐れ縁傭兵コンビ、な話。……の筈。

まあ、残される側(セツナ)と、残した側(カナタ)の差と言うか。

でも、もしかしたらこの話を書こうと思った一番の動機は、お粧ししてるWリーダーが書きたかったってトコかも知れない。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。