────そうして、足音を潜め、ヨミが去った後。
狭い甲板に一人残ったテッドは、又、黒い水面を見詰め続けながら。
魂喰らいの正体を、ヨミへと告げる気分になった先程を、思い起こしていた。
…………どうして、二十七の真の紋章は、『こう』なんだろう、と。
ヨミが呟いたあの瞬間。
己の運命は、『人』に残され続けなくてはならない、それだけれど。
彼の運命は、『人』を残して逝かなければならないそれだ、と。
そう思ったから、深く考えるよりも早く、テッドは、魂喰らいのことを、彼へと語っていた。
人に、残され続けなくてはならないことと。
人を、残して逝かなければならないことと。
果たしてどちらが、辛いのだろう。
己を削ることと。他人を削ることと。
果たしてどちらが、重いのだろう。
……そう、思って。
ヨミが、問い掛けて来たように。
どうして『紋章』は、『こう』なんだろう。
この、虚しさは。
紋章持ちにしか、判り得ないのに。自分達は余りにも、『紋章』のことを知らない。
そうも、思って。
テッドは、ヨミへと。
『紋章』を、語った。
……語ってみた処で、何がどうなる訳でもないし。
自分の態度も、彼の態度も、これまでと何ら、変わりないのだろうし。
今の処、ヨミの運命の先は見えず、この、暗い水面のように、己が過ごして来たこれまでの一五〇年の闇は変わらず。
あの彼は、人を残して逝かなくてはならぬのかも知れず、自分は又、人に残され続けなくてはならぬのかも知れず。
これより先再び、もしかしたら一五〇年、己の行く先は、暗い色した水面の底に、沈み続けるのかも判らないが。
………………でも。
僅か、だけ。
本当に、僅かだけ。
あの彼と、何かを分かち合うのは、悪くないのかも、と。
テッドも、今だけは、そう思わないでもなかった。
紋章持ちには、紋章持ちにしか判り得ない、虚しさや哀しみがあって。
自分達は誰にもそれを打ち明けられず、唯、彷徨うのみなのかも知れないけれど。
そんな中でもあの彼は、虚しさや哀しみを傍らに置いて、前を向き、歩こうとしているから。
暗い、夜の空よりも暗い、黒いばかりの水面のような中、これまで己が過ごして来た、一五〇年の時が。
例え、もう一五〇年、続いたとしても。
今だけは僅か、あの彼と何かを分かち合って、それを、胸の奥に仕舞い込んだら。
もう一五〇年、暗くて黒い、水面を漂っても、何時か自分も、あの彼のようにと、テッドは思える気がした。
そうして、何時の日か、あの彼のように自分も、本当の意味で前を向けた時。
本当に何かを分かち合える、誰かを見付けられる気がした。
End
後書きに代えて
幻水4のプレイ中、やっとこさ、船です、との正体明かした本拠地で、船出! と海原に出て、いそいそ船内を彷徨い、あの、漁師二人組が陣取る後部甲板を見た時。
ここで、4主とテッドが、紋章のことを語るイベントとか、あってもおかしくないっ! いいや、ある筈だっ! と、固く固く信じたのは私です。
蓋開けてみたら、あそこは釣り場でしたが。
──どういう訳か、私の中に眠る4主のイメージは、非常に『大人しい』というそれのようです。控え目過ぎて、とても大人しい子らしい、私の中の4主。
何故なんだろう、ゲームプレイ中は、そんなこと思わなかったのに。結構、普通の少年ってイメージだったのに。うちのは大人しい(首捻り)。
──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。