己にのみ繋ぎ止める為に、縛り付ける為に、カナタが、躰をもセツナに差し出させたあの日より数えて、既に数年。

その間、カナタの思うままに拓かれ続けてきた彼の躰は、抗いもせず、指先を受け入れた。

潜んだそれが蠢き始めるや否や、セツナから洩れる声は一際高くなり、躰は、彼の意に反して逃げを打った。

「……駄目」

「…………っ、そんなこと、言われたって……っっ」

彼等二人が横たわるにも狭い寝台に逃げ場などある筈もないのに、それでも足掻くセツナの腰を、カナタは掴んで引き戻し、再び覆い被さって、セツナは、そんな彼を恨みがまし気に見上げる。

「でも、駄目」

こんな最中に見せられるには相応しくない、ムッとしている風に目を細めた彼を見下ろし、わざとらしく笑んだカナタは、横臥させたままの彼の両手を胸の前辺りでひと纏めにし、無理矢理開かせ持ち上げた片足の膝を、纏めた両手首を潰すように敷布に押し付けた。

それは、かなり無理のあるきつい姿勢で、上げられた脚に釣られて捻れた腰も、強い力で押さえ付けられた両手首も片膝もとても痛んで、セツナは思わず顔を顰めたのに、カナタは構いもせず、尚も彼の身を開き、余す所なく恥部を晒し、又、奥の中へと指を埋めた。

「んんっ……っ」

だから、小さな火が灯されるだけの薄暗い部屋に響いたのは、苦痛でなく悦を耐える声で、やがて、快楽に甘んじ始めた躰が、独りでに半身を揺らめかせ出した頃合い。

とろりと溶けたひく付くそこに、カナタは自らを穿つ。

「ひ……っ。……あ、あ、カナタさ……。これ、き、つい……っっ……」

苦しいだけの姿勢のまま、熱いモノに押し入られて、セツナは抗おうとしたけれど、結ばれた躰がそれを許さなかった。

「カナ、タさ……ん……っ。も、ヤだ……っ。止め……て下さ……──

逃れも出来ないセツナに敵うのは、絶え絶えに訴えることのみで、嫌だと、止めてくれと、赤く染まった唇から懇願が洩れるのを聞き、カナタは、口許に妖しい微笑を刷く。

────初めてカナタがセツナを征服してより、恋人同士と言い合えるまでに流れた数年間、褥の上で何を求められても、どんな仕打ちを受けても、セツナは、決して拒否の言葉を吐かなかった。

カナタの『本当』を知っていたから。

彼にとって、己は魂無き只のモノでしかなく、モノである以上、従順でなければならないと判っていたから。

大切であろうとも、所詮はモノな玩具をどのように扱おうと、それは持ち主の勝手だ、との、己が持ち主──カナタの言い分に添ってきた。

そうすることが、カナタの心の平穏となるなら、セツナはそれで良かったから。

……けれど、もう二人の関係は違う。

カナタはセツナの持ち主ではなく、セツナはカナタの持ち物ではなく、想い想われる、れっきとした恋人同士。

その証代わりに、セツナが見せる無体への抗いが、カナタには喜びだった。

以前は聞きたくもなく、言わせるつもりもなかった拒否の言葉が、耳にも心にも心地好かった。

抗われれば抗われる程、胸の奥に何かが灯り、背にはゾクリとするものが走り、後から後から劣情が湧いた。

自らの意思で躰をも開いてくれる、恋人、その人を腕に抱き、身をも繋げているのだと、心の底から感じられた。

只のモノでしかない彼を抱くのと、恋人である彼を抱くのとには、決して越えられない隔たりが横たわっていた。

知ってしまったら、ひと度越えてしまったら、二度と戻れない隔たりが。

故に、セツナが見せる抗いは、紡ぐ抗いの言葉は、カナタにとっては喜びでしかなかった。

その喜びを得る為だけに、加虐の誘惑に駆られる程。

────百年、セツナを苦しめてきたのに、心と心を繋いで後も、己が彼へ与えるモノは変わらない、我ながら、どうしようもなく歪んでいて、ひたすらに身勝手だ、と判っていても、自身を満たすそんな想いを、カナタは、セツナへと注がずにはいられない。

どんな愛し方をしてみせても、愛しい彼は、最後には必ず許してくれると知っているから。

「……セツナ。どうして欲しい……?」

「………………カ……ナタ、さんっっっ……。……ね、カナタさん……、早、く……っっ」

「……いいの? もっと酷くするかも知れないのに?」

…………そう、今だって。

何とか戒めを振り解き、セツナは、精一杯伸ばした腕をカナタの首に絡め、乞いだけを求め、底意地の悪い問いにも微笑すら浮かべて頷くのだ。

「いい、から……。だから……っっ。ね……、カナタさ……」

「…………そう。いいんだね?」

だからカナタは、一層の愉悦と欲のみに己を浸し、セツナの奥の、奥までも。

疾っくに、彼の蹂躙なしには達くことすら叶わなくさせた、腕の中の躰を。

思うまま。

幾度となく突き上げられ、身を揺すられるに任せるしかなくなって、終いには泣き叫んだけれど、それでも、漸く許された瞬間、セツナは、瞼を閉ざしながら幸せそうに笑んだ。

カナタへと、伸ばした腕はそのままに。

「セツナ? 大丈夫? ……御免、無理させた」

ああ、又今宵も……、と己で己に苦笑を送り、そんな彼をカナタが抱き直せば、セツナは、

「だいじょぶですよー……。ちょーーっと、腰痛いですけど……」

すりっ、とカナタの頬に頬寄せた。

「そう?」

「はい……。カナタさんが、お布団の中では我が儘さんなのは、今に始まったことじゃないですし……。でも、とー……ぶん、関節痛くなる格好でするのは嫌です。そこのとこだけ、ちょびっとでいいんで反省して下さい。足攣るかと思いましたもん……」

「しろと言うなら、反省くらいはするけど。……セツナ? そういう色気のない話は、後回しにしない?」

「…………う。はーい……。でも、カナタさんが悪いんですよ。僕、あんなに嫌って言ったのに……」

「……嫌だなんて言うからだよ」

「へ? どういう意味ですか?」

「ん? 僕を煽ったのはセツナ、ってだけの話」

「……僕には、そんなつもり、これっぽっちもありません。そんなこと、僕はしませんー!」

「…………無意識って、怖いよね。お互い、気を付けようね、セツナ。────という訳で。セツナ、もう一度、しよっか」

「は? カナタさん、何言って……────。……カナタさん! 僕はもう、お付き合い出来ませんっっ。いーやーでーすーーーー! 駄目ですってばーーー!」

熱を解き放ったばかりの褥の中で、幸せに満たされた面をしたセツナが懐いてくるから。

己に腕絡ませながら、ああでもないの、こうでもないの、苦情も込みで言い募るから。

セツナは確かにヒトであり、己が恋人であり……、と再び思わされたカナタは、にこーーー……、と笑んで、抱いていた彼を敷布に押し倒した。

「どうして駄目?」

「……僕、腰痛いって言いませんでしたか……?」

「ああ、うん。それは聞いた、今さっき」

「………………。だから、もうヤです」

「一度するも二度するも、一緒」

これ以上は到底、とセツナはジタバタ暴れたが、カナタが聞く耳など持つ筈もなく。

「カナタさんー……」

「僕は、可愛い僕の恋人を、満ち足りるまで抱きたいだけ」

遠い目をした彼を、耳許での囁き一つで黙らせた。

君は。可愛い可愛い君は。

僕の、たった一人の戀人。

End

後書きに代えて

……さて、カナタとセツナのえろっちい話を書いたのは、どれくらい振りのことやら……。──などと呟きつつ書いていたこの話を書き上げたのは、2011年の秋のことです。

今は2014年の06月なのに。

私は三年近くも更新もせずにこの話を放り出しておいて、どうするつもりだったんでしょう……。

──基本スタンスは、「カナタはホントにセツナが好きなんだよー」&ここまでの、カナタとセツナの話の概略のおさらい、って話の筈なんですが、単に、カナタが如何に我が儘で身勝手で碌でなしか、って話と化したような。

百年もカナタと付き合えているセツナは、偉大かも知れません(笑)。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。