…………戦いに身を投じた、今は亡き、『愚か』な妹の志が、何処に在ろうと。
この国の何かを憂いて、戦おうと思う者達の志が、何処に在ろうと。
それを見せられ、語られ、どう訴えられようと。
捨て去った戦いの場へ、再び、舞い戻るつもりなどなかった。
瞼を閉ざしていれば、その間だけでも、世界は消えると思った。
……瞳を閉じて、耳を塞いでも、世界が消え去るなどと、有り得る訳はないと、知ってはいたけれど。
この国の者達が、この国の者達と戦い、この国の者達の手で、この国が燃え盛るくらいなら、如何なる理由があろうとも、戦いには加担しないと、そう決めていた。
戦いなぞ起こさなくとも、人は何時か死に、時代は黙っていても流れ、国も又、移り変わる。
だから、頭を低くして、じっと踞っていれば、『悪政』と言う名の嵐も、何時かきっと過ぎ行くと。
セイカにて、子供達に読み書きを教えながら、日々を送っていたあの頃、確かに自分はそう思っていたのに。
それでも、再びの戦いに手を染めたのは、軍師として、人の命を奪ってでも、と思った最大の理由は、『迎えにやって来た使者』が、目の前の、この少年だったからだ……と。
彼にとっては常の笑み、けれど、それを見遣る者にとっては、決して忘れ得ぬ笑み、それを再度浮かべた己が軍主を見詰めて。
その、言葉を聞いて。
マッシュは脳裏で、カナタと初めて出逢った日のことを、憶い起こしていた。
己が妹、オデッサ亡き後、解放軍軍主と成り得る者は、この少年しかいないだろうと、そう感じたあの時のことを。
そして、マッシュは。
今だけは、解放軍軍主としての己では有り得ない、と言いながらも、それが、己が生涯を懸けた役目であるかのように。
影に日向に、その軍主を支える立場である正軍師にさえ、必要以上の約束を語ってみせるカナタを、軍主の座に引き摺り上げてしまったことを、後悔し掛けた。
…………それが、貴方の『不孝』だと、貴方は解っていますか。
仲間達全てに、『夢』を見せて止まない、貴方。
解放軍でもなく、帝国軍でもなく、この国の、全てに。
……いいや、もしかしたら、『全て』に。
貴方の生み出す荒野の先に在るモノ、それを還そうとする貴方。
その為に、不老の生さえ、無限の生と言い切って、遥か遠い場所を見詰めて。
唯、ゆこうとする貴方。
──貴方のゆく道、貴方の見る先、貴方の全て。
貴方の見せる全ての『夢』に、惹かれて止まぬ者達。
貴方に惹かれて止まぬ者達に、『夢』を見せようとする貴方。
その、全てが。
貴方の、『全ての不孝』だと。
貴方は、解っていますか。
父上の為に荒れ野を生んで、親友の為に荒れ野を生んで、我々の為に荒れ野を生んで、祖国の為に荒れ野を生んで。
なのに貴方は、貴方の為の、荒野
貴方の生む荒野、そこに、貴方の為の荒野など、何一つとしてない。
…………貴方は、自分の不幸を、理解していますか。
自分の不幸一つ、理解し得てはいないのに。
『夢』だけを紡ぎ続けて、貴方は一人、ゆくのですか。
共に、ゆく者もいないのに。
…………カナタ殿、貴方は。
ご自分を、理解していますか…………?
────カナタ・マクドール、その名を持った、軍主。
それを生み出すに加担したことを、後悔し掛けて、マッシュは。
後悔すると同時に、想いを溢れさせ掛けて。
けれどそれを、マッシュは言い放つことなく、飲み込んだ。
「私のような、口うるさい軍師に、そのようなお言葉を掛けられても、何も、『温く』はなりませんよ?」
想いを、飲み込み。
脳裏に過るその想いとは、誠、裏腹な科白をマッシュは告げる。
「マッシュが、この程度で懐柔されるような性格だったら、疾っくの昔に僕は、怠慢に暮らせてる」
「……随分なことを仰りますね。…………でも、そのお約束は、確かに記憶に留めさせて頂きました。──さあ、戻りましょう、カナタ殿。それこそ、軍主と軍師が、雁首揃えて、このような所で何時までも、立ち話をしている訳には参りません」
「…………はいはい。戻るよ。戻って、寝る」
「そうして下さい、是非とも」
歳若い軍主のことを、何処かからかうようにマッシュが言えば、カナタはひょいっと肩を竦め、留めていた足を、再び動かし。
マッシュは黙って、その後に、付き従って。
ゆらゆらと揺れる湖面へ、その篝火の色を映す、本拠地へと戻る為、小舟へと乗り込んだ。
End
後書きに代えて
元々は、『ワンマン・アーミー』──たった一人の軍隊、って奴が書きたかっただけなんですが。
少々、路線変更しました、はい。マッシュ先生書けて嬉しかったけど、マッシュ先生とシュウさんの性格が非常に似たのは何故なんだ、自分、と問い掛けたい。
尚、この頃のカナタは未だ、セツナと知り合った頃程には、色々諸々、吹っ切れてないので、少々雰囲気違います(……多分…………)。
──ゲームプレイしてる最中、私自身もうっかりすれば見逃してしまいそうになりますけど、カレッカで仲間に出来るブラックマンさんの一言って、結構重いよね。
──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。