…………カナタ。
お前は一体、何を越えてしまったんだろう。
何を見て、何を想って、そして、何処へ行くんだろう。
もう……俺にとってもお前は、遠過ぎて。
お前が何を越えてしまったのか、何を見ているのか、何を想っているのか、何処へ行こうとしているのか。
判らない。
……俺はお前に、何を与えてしまったんだろう。
その、魂喰らいの紋章と共に。
俺は一体お前に、何を与えてしまったんだろうな。
…………でも……、……うん。
……良かった、よ。
それが何か、判らないけど。
良いことなのか、悪いことなのか、俺にはもう、見えないけど。
お前は、何かを越えて。
今でも、何かを見て、何かを想って、そして、何処かへ行こうとしてる。
…………歩き続けなきゃいけない、ってことは……立ち止まれない、ってことは、そりゃあ辛いことだけど。
止まるより、きっと、ずっとマシだ。
動けないでいるよりも。
……俺は、三〇〇年の刻を生きて来た。
でも、俺が過ごした三〇〇年は、『止まり続けた刻』だった。
俺の刻が、それでも動いていたのは、一五〇年前にあった『僅かな時』と、お前と出逢ってから過ごした日々だけ。
……俺の刻は、お前のようには動かなかった。
お前のようには、流れなかった。
三〇〇年、俺は生きて来たけど。只生きているだけを、『生きている』、とは言わないからさ。
……なあ、カナタ。
一五〇年前、多分、『彼』の前にも現れたんだろう、あの魔法使いは。
お前の運命の先を口にした、あの魔法使いは。
あの、閉ざされたままの瞳で、何を見ているんだろうな。
……あの人は。
『彼』を見続けていたように、お前も、『見続ける』のかな。
あの人は。
知っていたのかな。こうなることを。こうなる日を。
知っていて、唯、見詰め続けているのかな。
あの人は、紋章の何を、見ているのかな。
ソウルイーターの向こう側に、何を見るのかな。
……あの人は、何を知っているんだろう。
あの、閉ざされたままの瞳で。
『彼』や、お前や、俺のように、『紋章』を宿す者、宿した者の、何を見続けるんだろうな。
………………うん、でもまあ……いいかぁ……。
あの人が、あの閉ざされた瞳で、何を見ていようと。
お前が越えてしまったモノ、これから見ていこうとしているモノ、向かおうとしている所、それを、俺が見ること出来なくても。
カナタ、お前はそうしているんだから。
そうして、いられるんだから。
……流石。俺の、心からの、大切な、親友。
……俺がそうだったように。
恐らくは、…………も、そうだろうように。
辛くても、立ち止まらないで。
目指す場所を、目指して。
そして、『生きて』。
……………………カナタ。
そんな顔、しないで。元気で。
……カナタ、俺の分も、『生きろ』よ。
一生の、お願い、だよ。
……お休み。
俺の、大切な、親友。
──幸せに。
願わくば、幸せに。
誰よりも、幸せに。
そして、幸福の内に。
End
後書きに代えて
テッドのお話。
作中の時間経過的には、少々駆け抜けるような流れの話になってしまいましたが。
尚、誠に蛇足ですが、カナタが本当に『越えてしまった』瞬間は、テッドが逝ってしまった直後です。
──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。