やはり、戦場には余り相応しくないかも知れない白絹の手袋を、傍目にも判る程、はっきりと振るわせながら手綱を握りつつ。

ミルイヒはその時、敢えて、真っ直ぐ前を向いた。

その背中だけを、テオに晒した。

「私は、止めませんよ」

「何をだ?」

「……ええ、私は決して、止めません。貴方が、息子であるカナタ殿を、祖国と、皇帝陛下に弓引く大罪人と看做して、その剣を抜こうとも。カナタ殿が、父である貴方を、祖国の解放の前に立ち塞がる大敵と看做して、あの得物を構えようとも。私は、止めたりなんかしません。…………貴方達が、血を分けた親子で。志を違え、道を違えたからと言って、互い、命を賭け合う必要など、何処にもない、だなんて。私は、これっぽっちも思いませんよ」

「…………ミルイヒ。それこそ、余計な世話だ」

「ええ、ええ。そうでしょうとも。余計なお世話でしょうとも…………」

「因果、だとは思う。私が、カナタの父でのみ在って良いと言うなら、私とて、と、そう思わなくもない。……けれど。私には理由がある。『あれ』にもだ。私も『あれ』も、戦人で、男で、立場もある。…………そして、何より。私達は、血を分けた、親子だ。ならば、尚更」

晒された、その背へ向けて、テオは語った。

私達は、親子だから、と。

「………………ほんっとうにっ! 本当に、貴方って人は、何処までも頑固で馬鹿ですねっっ!!」

だから、とうとうミルイヒは、テオへと振り返って、腹の底からの叫びをくれ。

「……かも知れんな」

テオは、今度は自ら、古くからの友へ背を向け、そして立ち去った。

………………それから、時過ぎて。

彼の率いる鉄甲騎馬隊と解放軍は、トラン湖の畔にて、二度目の戦を交えることとなり。

……来なければ良かった。

今日というこの日が、来なければ良かった、と、心の何処かで思いながら、テオは。

最後までその手の中に残した意地や、祖国や、皇帝や、愛息や、部下、と言った、様々なモノへの様々な想いを、背の影に隠して。

愛息…………、……いいや、バルバロッサ皇帝陛下に弓引く大罪人、解放軍軍主、カナタ・マクドールの前へと、歩を進めて行った。

End

後書きに代えて

『motherland』。母国。又は、祖国。

──テオパパと、ミルイヒさんのお話でした。……と言うか、テオパパのお話、と言うか。

パパンは、或る意味、何処までも軍人さんだったんじゃないかな、と思うのですよ、ワタクシ。そういう処、何処までも、頑固一徹、石頭。星一徹も真っ青(笑)。まあ、パパンは、卓袱台ひっくり返したりはしませんでしょうけど(笑)。

だから、ああいう道を選んだのかな、って。

──尚、このお話の中では、軍人さんでなく、おとーちゃんなパパンのことは、あんまり書きませんでしたが、それは又、その内に、機会がありましたら。

因みに、今回ミルイヒさん引っ張って来たのは、こういうこと、あの御仁ならしてくれそうだと思ったから(笑)。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。