料理人ハイ・ヨーが営む、同盟軍本拠地レストランで、おやつを済ませた後も。
ふらふらと、本拠地内部を彷徨い歩く、盟主殿と英雄殿の姿と風情は、何処まで行っても変わりなかった。
彼等を見掛けた仲間達が、例えば、又か、とか、相変わらず、とか、いい加減に何とかならないのか、あれは、とか。
そう言った感想──否、正しくは愚痴を、知らず知らず、零してしまう程に。
彼等は何時も通り振る舞って、何時も通り仲睦まじく、只、自分達の思う通りに。
そこから先、一日が終わるまでの時間を、過ごした。
──戦争中である軍の主と、その軍に手を貸している隣国の英雄殿が、日々、寄ると触ると、そんな様を作り上げることを、良く思っている仲間達もいるし、良くは思っていない仲間達もいる。
が、盟主殿の義姉がそうであるように、大方の仲間達は、彼等が本当は如何なる関係を結んでいるのかを把握していない所為もあって、彼等がそんな様を見せることに、諦めを付けている。
もしかしたら彼等は、傍目には過剰に映るだけの、純真な関係かも知れないし、傍目に映る通り、不純な関係なのかも知れないけれど、真実がどうであれ、何を言ってみた処で彼等のそれは変わらないだろうし、だとするならば、嗜めてみても労力の無駄、骨折り損のくたびれ儲け、なのだから、諦めてしまった方が早い、と。
仲間達の大抵は、そう考えている。
仲が良いことは、決して、悪いことではないから、と。
…………でも、二人の仲間達の、大方は。
二人が見せつけて歩く様に、目を奪われるのみで。
どうして、彼等がそんな態度を見せつけて歩いているのか、それを、考える者は少ない。
盟主である少年が、少しばかり年上の彼のことを、本当はどう想っているのか、それを、少しばかり年上である彼にさえ、見せることないまま。
少しばかり年上の彼が、盟主である少年のことを、本当はどう想っているのか、それを、盟主である少年にさえ、見せることないまま。
どれだけ仲睦まじく過ごそうとも、どれ程に近付き寄り添おうとも。
そう遠くない未来、自分達は、繋いだ手すら、離さなくてはならない、と。
心の片隅で、互い、そんなことを考えながら、日々を過ごしているから故の振る舞いなのだ、と。
……そう考える者は、少ない。
でも、彼等は思っている。
自分達は、立場も、境遇も、何も彼も、違う。
持ち合わせているモノも。
過ごす、時の長ささえ。
違う。
立場も、境遇も、持ち合わせているモノすら、忘れ。
大切な全てを犠牲にして、何時かは必ず離さなくてはならない手を、決して離したくないからと、足掻くことは簡単だけれど、足掻いて、何処までも足掻いて、繋いだ手を永遠繋ぎ続ける為には、少なくとも一つは、『悲劇』と呼ばれるだろう運命を迎え入れなくてはならない……と。
彼等は、そう思っている。
手を繋ぎ続けたい想いの前に立ちはだかる『悲劇』、それを受け入れることは多分、選べない、とも。
だから、せめて。
互い、本当の本音を、言葉にしない代わりに。
何時か、離してしまうだろう手と手を、見せ掛けの上でだけでも繋いで。
『楽しい』思い出だけが、残るように。
彼等はそうやって、過ごしている。
誰にもそれを、悟られぬままに。
徒花のような、むだ花でなく。
実を結ぶ、確かな花になりたくとも。
繋いだ手と手を、本当は、離したくなくとも。
自分達は、所詮。
戦争、という『物語』の片隅にうっかり咲いてしまった、徒花のような存在でしかない。
『物語』が終わる時には、ひっそりと枯れてしまった方がいい、徒花。
手と手を繋いでいられる間だけでも、狂い咲いていたい徒花。
End
後書きに代えて
お楽しみ頂けましたでしょうか。
超ラブラブ、と言うよりは、単なるバカップル、でしかないような気がしますが。
ほんのり切なく、と言うよりは、蓋を開けてみたらド暗かった、と言った方が相応しいような気もしますが。
甘い恋人同士、という存在の扱いを、もう一度認識し直してきます……。
──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。