死者の為だけに存在する王国となり掛けたティントを奪還し終えて、行方知れずだったジェスやハウザー達も無事に帰還し、話し合いに応じ、誤解を解いてくれたジェスや、請われるなら従うと言ってくれたハウザーや、カーンやシエラも、同盟軍の、新しい仲間に加えること叶えて、グスタフ達に、出立の挨拶も告げ終え、後はもう、長らく留守にしてしまった感のある、デュナン湖の畔に建つ古城へ戻るだけ、と。

ファンは、ティントの市門の前に立って、街道を見詰めていた。

もう、この街に留まる必要はなく、懐に丁寧に仕舞ってある瞬きの手鏡を取り出し空に翳して、本拠地一階広間へと、運ばれるに任せるだけなのに。

彼がそんな場所に佇んでいるのは、ナナミが、ティントを去ると言うなら、お土産買ってくる! と、一人駆けて行ってしまったからで。

義姉を、引き止める気にも追い掛ける気にもなれず、好きにさせておこうと、彼はぼんやり。

枯れた大地を抜ける風を、眺める風にしていた。

「ナナミちゃんは?」

「未だですよ。当分掛かると思います、ナナミの買い物、長いですから」

「他の皆は?」

「ナナミが買い物行ったの知って、適当に時間潰して来るって、どっか行っちゃいました。ビクトールさん達も、ナナミの買い物が、って言うの、判ってますから」

「成程。じゃあ、僕達も、お茶でもしに行くかい?」

誰が、何が行き交う訳でもない、街道を眺めて、ぼうっとしていたファンの傍らに、何時しかチュアンがやって来て、未だ、ナナミが買い物から帰って来ないと言うなら、何処かで暇でも潰さないかと、誘いを掛けたが。

「遠慮しときます。戻って来た時、ここに誰もいなかったら、ナナミが臍曲げますから」

軽い調子で、ファンはそれを断る。

「ふうん。じゃあ、僕も一緒に、ナナミちゃんを待つとしようか」

けれどチュアンは、彼の態度を気にするでもなく、門柱に背を預けた。

「いいですよ、遠慮しなくて。時間、潰して来て下さい、マクドールさん」

「…………ファン」

「何か?」

「いい加減、その、マクドールさん、って言うのは、止めないか?」

「……チュアンさん、とでも呼んだ方が良いですか? 僕は別に構いませんけど。どうしてです?」

「キスはし合った仲なのに、マクドールさん、は、少しよそよそし過ぎるかと」

「あー……、しましたねえ、一応。二回ばっかり」

「内一回は、君からね。だから」

「………………まあ、良いですよ。マク……じゃなかった、チュアンさんがそうして欲しいって言うなら、それでも」

「……あの、さ」

「今度は、何ですか」

「もう少しでいいから、可愛げを感じられる調子で、言ってくれないか? 女の子みたいに、照れながら君にそんなこと言われても、一寸ゾッとしないけど。余り可愛げがないのも、複雑な心地に陥ると言うか。君の向こう側に、義務感と言う言葉が見え隠れすると言うか」

「……気の所為ですよ、チュアンさん」

「だと良いけどね」

「…………少しは、汲んで下さいよ。女の子みたいに恥ずかしがったりはしませんけど、僕だって多少は、恥ずかしいと思うんですから。……いいじゃないですか、末永く、良好な関係、築くんでしょう? だったら、始めの内くらい、大目に見て下さい」

「……それもそうか。未だ、始まったばかりだし」

「ええ、お陰様で、始まったばかりだというのに、キスなんかしちゃいましたけどね」

────ファンは、通り過ぎるモノもない、街道を見詰めたまま。

チュアンは、門柱に凭れ、ファンの視線を追いながら。

つらつら、『馬鹿』を言い合い。

「ごめーーーーん、お待たせーーーー! お土産、沢山買っちゃったーー!」

丁度、買い物を終え戻って来たナナミの叫び声に、『馬鹿』な会話を打ち切られるに任せ。

「さて、じゃあ、他も呼びに行くとするか」

「そうですね」

二人は揃って、ゆるりと体を動かした。

そこら辺で暇を潰しているだろう仲間達を呼び戻し、デュナン湖畔の古城へと、戻る為に。

End

後書きに代えて

2005年の夏ですから、既に三年程前ですね(2008年4月現在)、その時の夏コミで発行しました、『もしも私が恋に落ちたら』という小説の再録です。

今となっては、もう古い作品なので、手を入れたくもありましたが、手を入れると、一から十まで書き直しになっちゃうので(笑)、誤字脱字と、「これは、一寸日本語じゃないかも」と感じてしまった数カ所を直した程度での再録ですが、御容赦下さい。

ま、その辺は、男前に潔く(笑)。

──本の方に添えさせて頂いた後書きによると、これが、カナタとセツナ以外で、初めて名前の付いてたWリーダーだったようです。

『かなり、家の常駐お子様ずとはノリが違うWリーダーですけれども、気に入って頂けたら幸いです。ちょいと、十代半ば〜後半に掛けての、『一応』普通の範疇には留まるだろう少年達、目指してみました。……カナタ&セツナは、余りにもそこからは掛け離れているんで(笑)。』……などとも、書いてありますな、後書きには。

……うん、今振り返ってみても、そうかも知れない(笑)。

──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。