苛烈を極めはしたけれど、ビクトールの、カーンの、そしてシエラの、追い求め続けた『相手』である、ネクロードを滅ぼし。
ビクトールとカーンはそれぞれの仇を討ち、シエラは月の紋章を取り戻し果せ。
ギジムは無事、義兄弟の杯を交わしたロウエンを取り戻すこと叶えて。
彼等の帰りを待つクロムの村へと、ファン達は戻った。
戦いで負った怪我は、充分、とは言えなかったけれど、ファンやカーンが、それでも放つことは出来た癒しの魔法と、クロムの村で調達した薬のお陰で何とか癒すことは出来て、疲れ切ってはいたものの、ネクロードを滅ぼせた喜び、ティントを取り戻せた喜び、それらに満ちあふれている仲間達と、そんな仲間達を出迎えたやはり仲間達は、意気揚々と、時を過ごし。
明日になったら取り敢えず、ティントへ戻ってみようと話を決めて、翌日の為に、人々が早めに就寝した、夜半。
ファンは、客間を抜け出して、隣室にて眠っている筈のチュアンを、『叩き起こし』に向った。
「……何か、用事?」
が、一応辺りを気遣い、気配を殺してチュアンにあてがわれた部屋の前に立った途端、ファンの訪れが判っていたとばかりに、扉は開け放たれて。
「…………一寸だけ」
奇襲を掛けてやろう、とのそれをふいにされて、ファンは少しばかり、拗ねた。
「じゃ、どうぞ」
「……でも、ビクトールさん達も一緒でしょう?」
「ああ。戻って来てないけどね。どうせ、宿屋かここの下で飲んで、そのまま潰れてるんじゃないか?」
「そうですか。じゃあ、ホントに、一寸だけ」
ぷっと、軽く頬を膨らませつつ、それでも、チュアンの立つ扉の向こうに、仲間達の誰かがいるんじゃないかと気配を窺ったら、平気だ、と返されたので。
するりとファンは、チュアンの脇をすり抜けるように室内へと潜り込み。
説明された通り、誰もいなかったそこで、くるりと振り返って、自ら閉ざした扉に、腕を組んだまま凭れ掛かったチュアンを、彼はキッときつく見上げた。
「機嫌、悪い?」
「ええ、まあ」
「どうして?」
「自分の胸に、手を当てて考えてみれば判るでしょう?」
「…………ああ。昼間のことで、怒ってる訳だ? ……なら、君の用事とやらは、喧嘩? 果たし合い? 復讐? 一足飛びに、暗殺?」
「……どうして、そうなるんですか…………」
「いや、僕が男にあんなことをされたら、ぶん殴るじゃ済まさないから」
「…………へー。じゃあ、それなりに『自覚』はあって、ああいうこと、仕出かしたんですか。……マクドールさんって、そういう性格でしたっけ?」
「仕方ないだろう? 気付いてしまったことに対する片は、とっとと付けたい質でね。──君と一緒にいると、親友……テッド、と一緒にいた時のことを思い出す、でもそれは一寸、自分で自分が許せない気がする、でも、君のことは、好ましいらしい。……そう思って、その内、新しい親友が出来たようだ、と君に対して感じていた僕のそれは、どうやら友情じゃなくって、愛情だったらしい、と。そんな答えが出てしまったから。どういう形であろうとも、片を付けるのは早い方が、僕にとっては望ましい。君が僕のことをどう想っているのか、大体の想像は付くから、玉砕の痛手は、浅い方がいい。それが人情ってものだ。でも、君を守りたいのも本当だし、それは僕の勝手だし。君に、好きだと告げてしまった後だし、が、どうせ、玉砕するのは目に見えているのだし、だったら、ぶん殴られるだろう、それを覚悟の上でも、一回くらい、『想い出』の一つくらいは、と。……まあ、そういうことかな」
見据えて来た、きつい眼差しを、真っ正面から受け止め、くすりと軽く笑い。
飄々と、チュアンは、己の思う処をファンに語って聞かせる。
「……随分とまあ、大雑把な性格ですね」
「グレミオ達には、良く言われる」
「………………まあ、いいです。取り敢えず、僕の用件、言います。──マクドールさんが想像した通り、復讐に来たんです、僕」
すればファンは、疲れ果てたように、がくりと肩を落として、余り時間もないことだろうし、と、早口に、用件を言い募り始めた。
「復讐、ねえ。どういう?」
「こういう」
そうして、彼は。
僅かばかり置いていたチュアンとの距離を一息に詰めて、ガッとその襟元を両手で掴み。
「投げ飛ばす気? それで、気が済む?」
「投げ飛ばしたって、気なんか済みませんよ」
何処までも、ムスっとした顔のまま、渾身の力で引き寄せたチュアンに、噛み付くようなキスをしてみせた。
「…………………………それが、復讐? 確かに、復讐ではあるな、やられたことをやり返している訳だから」
噛み付いて来るかのようで、乱暴で、絶対に慣れていないと断ぜられる、拙い以上に拙いそれを、驚きで目を見開いたまま受け止め。
チュアンは、離れて行ったファンを見下ろした。
「……ティントでね。ティントの坑道の中で、ネクロードと出会しちゃって、勝手に、輝く盾の紋章が解放されちゃって、ああ、もう駄目かもって思った時、マクドールさんが来てくれて。入口で倒れて、抱き抱えて貰って。……あの時、僕が何考えてたか、知ってます?」
「…………いや」
「どーしよーもなく、不覚な話なんですけど。……嬉しかったんですよ、来てくれたのがマクドールさんで、僕を抱きとめてくれたのもマクドールさんで。バナーの峠の沢の下で、あんな風な時間過ごして、僕だって、思う処ってのはあったんです。マクドールさんが思ったみたいに、僕だって。ジョウイと貴方を重ねちゃったのは……って、一寸の間、悶々としてましたけど。もしかして僕は、貴方のこと……? って。そう思って、ずっとずっと、そんな馬鹿なことあるか! って否定し続けてたそれを、事もあろうにネクロードに襲われたあの時、僕は肯定しちゃったんですよ、自分で。……なのに、好きかも知れない、とか何とか、マクドールさんには勝手に言い垂れられて、挙げ句、自分だけの問題だから、とかも言い垂れられて、終いには、あーんな風に守られて、想い出代わりにキスですか? ……いい加減にしないと、殴りますよ? ホントに。……ま、それもこれも、マクドールさん風に言えば、僕の問題ですから、放っといて頂いて、結構です。…………じゃ、僕の用事は、これで終わりですから。お休みなさい」
見下ろして来る彼を見上げて。
舌を出さんばかりの顔を作って。
チュアンを押し退けるように、ファンはその部屋を、出て行こうと。
「……ファン」
「何ですか」
「何処かで、酔い潰れてるとは思うけど。ひょっとしたら、朝を待たずに、ビクトール達が戻って来るかも知れない」
「だから、何です?」
「そうなると、ここに君を引き止めておくのは、難しくなるから。君の部屋、行っても良い?」
だがチュアンは、足早に去ろうとしたファンの肩を、音がする程強く掴み。
「…………別に構いませんけど。僕、もう寝ますよ? これ以上話をする気も、恋愛模様と向き合うつもりも、ありませんよ?」
「それでいい。いきなり、関係進めるつもりもないし」
「……問答無用で、あんな暴挙に及んだ人の科白ですか……?」
「想い出にする為の行為と、未来を築く為の行為は、別物。君にその気があるんなら、末永く、良い関係を築く為にも、実直に行くよ、僕は」
「……実直…………。実直じゃなくて、猛進の間違いのような気がしますけどね」
掴まれた肩の痛みに、少しばかりファンは顔を顰めた。