戦乱に生きる10題 +Ver.A+
10. 一つの世の終焉
幻水2 主人公(名無し君)
マクドールさん。
僕、夢を見ました。
とてもとても、懐かしい夢でした。
僕が未だ、うーーー……んと小ちゃかった頃の夢です。
もう、僕の傍からいなくなっちゃったナナミも、僕と同じくらい小ちゃくって。
あの頃は元気だったじいちゃんと三人で、毎日毎日、ボロ屋って言いたくなるくらい古い道場の庭で、拳の稽古をしてた頃の。
──マクドールさんには、未だ話したことはなかったような気がします。
僕とジョウイが、初めて出会った時の話。
したこと、なかったですよね?
……僕が見た、夢は。
未だ、マクドールさんには話したことがない、僕とジョウイが初めて会った時の夢なんです。
ジョウイの話をすると、マクドールさんは何時も、少しだけ複雑そうな顔をするから、今まで、話す切っ掛けがなかったんですけど。
いいですか? その話をしても。
聞いて貰えたら、嬉しいんです。
うんと小ちゃかった頃からずっと、僕とナナミとジョウイの三人は、毎日毎日一緒に遊んでて、ミューズで離れ離れになるまで、何年も何年も、顔を合わせない日はないくらいでしたから。
ジョウイやナナミと過ごしてたあの頃のこと、逆に、余り鮮明には憶えてないんです。
一週間前のお夕飯の献立を、咄嗟には思い出せないのと一緒で。
ナナミやジョウイと毎日を一緒に過ごすことは、僕にとっては余りにも当たり前過ぎて、よくよく振り返ってみないと思い起こせないことの方が多いんです。
なのに、どういう訳か。
初めてジョウイと会った日のことは、凄く良く憶えてるんですよ。
…………夢に見る程。
何時ものように、道場の庭で稽古していた僕達を、植え込みの影から、じっと、食い入るように、けれど消え入りそうに、そして寂しそうに羨ましそうに……そんな感じで見ていたジョウイに話し掛けた時のことだけは、昨日のことのように、『綺麗』に思い出せます。
……どうしてでしょうね。
僕がそれを忘れられない理由、夢にまで見る理由、それは、僕とジョウイが出会ったあの時からもう既に、一つの世界が始まっていたから、そんな答えに行き着くんでしょうか。
……毎日毎日、そうするのが当たり前のように。
本当の家族のように。
ナナミとジョウイと、一緒に過ごしていました。
それ以外の世界は、僕にはありませんでした。
ずうっとずうっと、僕とナナミとジョウイの世界は、そうやって続いて行くんだって、少なくとも僕は、信じてました。
世界にも、終わりは必ずやって来る、そんなこと、僕達の誰も、知らなかったから。
……でもね、マクドールさん。
例え、僕とナナミとジョウイの三人だけの世界が、疾っくの昔に終わってしまっていたのだとしても、終わらないものはある、そんな風に思い込んでいた頃も、僕にはあるんですよ。
それまでは僕の傍らにいてくれた相手が、手を伸ばせば届く所から消え去ってしまっても、相手が世界に確かに在れば、それは終わりじゃない、って。
……けど。
もう、ナナミは何処にもいません。
世界の何処にも。何処を捜したって。
…………そうして、ジョウイは。
……ああ、ジョウイは、いますよ?
世界の何処を捜したって、ジョウイはもういない、だなんて、そんなことはありませんよ?
ほら。ジョウイ、ここにいるでしょう?
いますよね?
もう、喋ってもくれませんし、僕を見てもくれませんし。
動いてもくれませんけど……。
でも、ジョウイは『ここ』にいて、ジョウイが僕に渡してくれたモノだって、僕の手の中にあるんですから、ジョウイはいますよね?
…………在るって、そう言って下さい……。
僕は、今は未だ、僕自身の手で、僕がそれまで過ごして来た『世界』を終わりにしてしまった、って、認めたくないんです…………。
……マクドールさん。
どうやって僕は、それを認めたらいいですか……?
どうやって、今でも忘れられない『世界の始まり』に、僕自身の手で終止符を与えて。
忘れられない世界を、終焉に導いたんだって、認めたらいいですか……?
どうしたら、夢にまで見る世界を、忘れられますか……。
……マクドールさん。
一つの世界の終わりを、認めることも出来ないで。
縋るように、貴方にこんなことを尋ねて。
そうすることしか出来ない僕に、どうして貴方は、困ったように、微笑み掛けるんですか。
どうして貴方はそんな風に笑って、終わったばかりの世界を嘆くしかない僕に、手を差し伸べてくれるんですか。
……僕には今、何もありません。
『世界』すらありません。
僕の両手の中は、空っぽです。
だから、貴方にそんな風に手を差し伸べられると、差し伸べられた貴方の手を、僕は又、小ちゃかったあの頃のように、『世界の始まり』、そう思って掴んでしまいそうになります。
それでも、いいんですか?
マクドールさんは、それで構わないんですか?
一つの世の終わりを抱きながら、新しい世の手を取っても、貴方は許してくれるんですか?
…………マクドールさん、貴方はどうして、そんな風に。
困ったように、けれど幸せそうに、笑うんですか。
……貴方に、そんな風に笑まれたら僕は、貴方の手を取ろうとしている今も、こうして抱き続けている一つの世界の終わりさえ、何もない大地へと打ち捨ててしまいそうになります。
……………………ああ。
……ああ、そうか。そうすれば、いいんですね。
今までの世は、もう、終わってしまったんですから。
それでいいんですね。
貴方がそれでいいと言うから、きっと、それで構わないんですね。
貴方の手を取ったら、僕はもう、忘れられない夢さえも見ません。
……二度と。
小ちゃかった頃、そうだったみたいに。
貴方と手を繋いでいること、それが僕の『世界』になります。
……それで、良いんですね? それで、構わないんですね?
………………マクドールさん。
望みは、叶いましたか。
End
後書きに代えて
2主君。セツナでは、絶対書けないネタ(笑)。
一寸、壊れているような感も………。まあ、いいか……。
セツナで書いても良かったけど……これはこれで、と言うことで一つ。
という訳で、10お題完走ー♪
趣味に走りまくった。うん(笑)。
──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。