戦乱に生きる10題 +Ver.B+
10. 戦う術を手放す勇気
幻水2 ルカ・ブライト
デュナン統一戦争終了後、三年と少しが経過した時点での話
戦いに負けた者が、戦いに勝った者より、『何があろうとも、「ここ」にて生き延びろ』と『命ぜられて』しまったのだから、最早、それに従って生きるしか己には術がないのだろうと、軽い溜息を零しながら湖畔の古城にて過ごした数ヶ月を、過去の氏素性を捨てて久しい、かつてはルカ・ブライトと呼ばれていた彼、ルカは、感慨深気に思い出しながら、久方振りに訪れた、その湖畔の城の隅々を一人眺めていた。
自らが引き起こした戦争が終わって、己が犯してしまった償い様もないことを、どうしたらそれでも償えるのかを捜す為に、城を旅立って三年。
三年振りに訪れた、同盟軍の本拠地だった、そして今はデュナン国の中枢となったデュナン城は、思いの外、彼に懐かしさを与えて来たから。
ルカは、思わず、辺りを。
──あの戦いの頃、日々増えて行く一方の住民や難民達の為に、増改築を繰り返した結果、何時しか迷路のようになってしまった古びた城の佇まいは、何一つとして変わらず、けれど、場内を行き交う顔ぶれは、かなりの様変わりを見せ。
戦時下だと言うのに、毎日のように起こっていた馬鹿騒ぎの、大抵の場合は発端だった、盟主と隣国の英雄が姿を消した所為か、少々、ひっそりとした印象を与えて来た。
……ルカが感じた、『ひっそり』とのそれは、ひょっとしたら、威厳、という言葉に置き換えられるのかも知れない。
一国の全てを司る場所が湛えるに相応しい、厳粛とか、荘厳とか、そんな風な『モノ』なのかも知れない。
けれどルカはそれを、『寂れ』と受け取り。
淋しい、と感じた。
あの、小さな盟主の明るさは、この城や、この城に住まっていた者達にとって、或る意味、陽光に等しいそれだったのに、と、そう思って。
……だが。
そこまでを思って、立ち止まった中庭で、ふと、デュナン国宰相の執務室に当たるだろう部屋を見上げて。
彼は思い直した。
小さな盟主だった彼と、隣国の英雄だった彼のあの明るさは、戦を戦い抜く為に、わざと彼等が拵えていたそれであるのは恐らく否めなく。
だと言うなら、今のこの城の様を見遣って、淋しい、と感じるのは間違いだ、と。
……彼等の仕事は、あの戦争を戦い抜き、そして、同盟軍に勝利を齎すことだった。
今、この城に残っている者達の仕事は、あの彼等が残していったモノを確かに受け継ぎ、この国を、守り抜いて行くこと。
…………だから、雰囲気が異なるのは、当たり前の話で。
この城も、この城の佇まいも、この静寂さも。
彼等が確かに残していったモノの延長線上にあるのだから。
彼等が残していったモノを受け継いだ、あの『彼』が。
戦を終えても尚三年、『戦い抜いた』結果、であるのだから。
──…………だからルカは、宰相の部屋に当たる筈の窓を、中庭の直中より眺め上げて。
改めて、久方振りに戻った城内を見回した。
……彼等と、『あの彼』達の『戦いの結果』が、隅々にまで行き渡ったこの古びた城に、自分は帰って来た。
『あの彼』の傍にいる、それだけを決めて。
だが、舞い戻ったは良いが。
あれから三年が過ぎても、未だ『戦い』続けている彼の為に、己が何をしてやれるのか、それは見えないままだ。
でも。
このように、彼が戦い続けていると言うなら。
己は逆に、全ての『戦い』を手放そうか、と。
──辺りを見回しながらルカは、ふと、そう思った。
……この世の全てを恨むしか出来なくなってから、ずっと。
彼は戦い続けて来た。
ルカ・ブライトであることを捨ててからは、如何にして、己が成してしまったことを償って行くのかと、戦い続けて来た。
けれど、これからは。
これまでの『戦い』の、全てを捨てて。
『守る』ことだけに、己の全てを捧げてみようか、と。
ルカはその時、そう思ったのだ。
戦い続ける『彼』がいる、高い窓辺を見上げて。
End
後書きに代えて
ルカ様。……なのだけれども。
うちの話に登場する幻水キャラで、戦う術を手放した奴って皆無なんですよね…………。
すいません、どいつもこいつも、血の気多くて……(遠い目)。
なので、一寸こんな形になってしまいました(汗)。
唯一、ルカ様だけが、それまでの人生を、まるっと変えた人なので(うちの話では)、この話、ルカ様で書いてみたんですけども。
結局ルカ様も、こういう人だった……。
──それでは皆様、宜しければご感想など、お待ちしております。