有り体に云ってしまえば、心底不気味、としか表現出来ないセッツァーの態度と、そんな態度の彼が言い出したことを受け。
エドガーは一瞬、廻ってはいけない毒でも、オツムに廻っちゃったんだろうか? と、心底悩んだ。
「セッツァー。君、疲れてる? 熱でも、出た?」
……そんな風に思わず、尋ねてしまった程。
一一理解し難い態度の恋人が言い出したこと、それはまあ、何となく、エドガーにだって理解出来る。
恋人同士である以上、お互いがお互いを見つめる行為と云うものは、必要不可欠であるし。
立派なお題目だ。
でも、そう云った『お題目』と向き合うべく、真剣な顔一一セツァーの真剣な顔と云うのも、ある種不気味だが一一をし、真剣な声で語る、と云うなら未だしも、この態度は何だろう。
セッツァーのそれは、誘拐犯が飴玉使っていたいけな幼女を騙くらかす時のよーな態度、騙くらかすと時のよーな猫撫で声に近い。
だからエドガーは、恋人が、理解出来なくなって。
「は? 俺は、熱なんて出してないぞ。疲れてもいないし」
「でも……一寸、普通には思えないんだけども……」
疲れていないか、熱はないか、との台詞に、セッツァーが怪訝そうな顔を作っても、訝しがることを止めなかった。
ああ、そうだろうとも。
疑ってみたいエドガーの気持ちは良く判る。
「そうか? 俺は一寸、反省してみただけなんだが……」
だが。
どうしてそこまで、疑いの眼差しを向けられなければならないのか、素でセッツァーには判らないようで。
「反省? 何を?」
「俺達は、恋人同士になって未だそんなに時間も経ってないってのに、体のことばかり、ぎゃいのぎゃいの騒いで来ただろう? それを、反省してみた。それに。もしかして俺は、割と……な。自分で考えてた以上に、一つのことが気になり出すと、前のめりになる性格なんじゃねえか、って思って。少し、その……お前のことだけ考えてみようかと、そう考えたんだが……」
云っていることだけ黙って聞いていれば、まあ、御立派、と揶揄したくなる台詞を、彼は吐いた。
誘拐犯が見せるような、ぶきみーな態度を見せることが、彼の中では相手のことだけを考える態度と、イコールになるのか、とか、自分が猪突猛進だってことに、よーーーっっやく気付いたんだね、とか、呆れてみたくなる処だが。
……と云うか、多分、セッツァーと云う男を良く知る大多数の者が、この台詞を聞き届けたら、そう云いたくなるんだろうが。
彼のその台詞を聞いた途端。
「……セッツァー……」
何処に感じ入ったのかは知らないが、今の今まで、オツムに毒でも廻ったか? なんて考えていたことなど棚に上げ。
エドガーは、一種の感動さえ瞳に湛え、恋人を熱くあつーーーく見つめ返してしまった。
ああ、さすがはバカップル。
「君が、そんな風に自分を振り返ってくれることがあるなんて……。……私なんて、もう、何も彼も振り切ってしまいたいと、後ろ向きなことを考えていたのに……」
そうして、エドガーは。
冷静に分析してしまうと、あれ? それって物凄く失礼な一言なんじゃありません? 陛下? 等々、ツッコミ処満載な言葉を恋人に与え。
「私達も、お互いをもっと知ったら、心のことも、体のことも、上手く行くのかも知れない」
幸せそーなお顔を作って、彼は、先程セッツァーの手によって無理無理横たえられたベッドの中に、恋人を引きずり込んだ。
「……おい?」
ムンズ、と強引に、毛布の中へと入れられながらも、拒む素振りは見せず、が、セッツァーは、慌てた風になる。
「折角、君がそんなことを言い出してくれたんだもの。こうやって少し、色んな話でもしてみよう? セッツァー」
けれど、幸せモードになってしまったエドガーは、ニャンコような仕種で恋人に縋り付きながら。
誠に初々しい、お子様の恋愛模様のワンシーンの如きシチュエーションを、セッツァーにせがんだ。
「…………ま、それも、いいか……」
故に。
何か、何処か、さっき考えていたことと、方向性を違えた気がするんだが……と、内心では首を傾げながらも。
大人しく、ベッドの中で丸まって、縋り付いて来る恋人を抱え。
求められるまま、他愛のない会話に、彼は興じ始めた。
どうして、このお二人さんは、極端から極端に走るのだろう、どうしてもう少し、大人のさじ加減と云うものを、己らの恋愛の中に盛り込めないのだろう、と云う外野の嘆きを他所に。
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