02/01/2003 成就の為の努力 『さじ加減』 そのニ
 
 有り体に云ってしまえば、心底不気味、としか表現出来ないセッツァーの態度と、そんな態度の彼が言い出したことを受け。
 エドガーは一瞬、廻ってはいけない毒でも、オツムに廻っちゃったんだろうか? と、心底悩んだ。
「セッツァー。君、疲れてる? 熱でも、出た?」
 ……そんな風に思わず、尋ねてしまった程。
 一一理解し難い態度の恋人が言い出したこと、それはまあ、何となく、エドガーにだって理解出来る。
 恋人同士である以上、お互いがお互いを見つめる行為と云うものは、必要不可欠であるし。
 立派なお題目だ。
 でも、そう云った『お題目』と向き合うべく、真剣な顔一一セツァーの真剣な顔と云うのも、ある種不気味だが一一をし、真剣な声で語る、と云うなら未だしも、この態度は何だろう。
 セッツァーのそれは、誘拐犯が飴玉使っていたいけな幼女を騙くらかす時のよーな態度、騙くらかすと時のよーな猫撫で声に近い。
 だからエドガーは、恋人が、理解出来なくなって。
「は? 俺は、熱なんて出してないぞ。疲れてもいないし」
「でも……一寸、普通には思えないんだけども……」
 疲れていないか、熱はないか、との台詞に、セッツァーが怪訝そうな顔を作っても、訝しがることを止めなかった。
 ああ、そうだろうとも。
 疑ってみたいエドガーの気持ちは良く判る。
「そうか? 俺は一寸、反省してみただけなんだが……」
 だが。
 どうしてそこまで、疑いの眼差しを向けられなければならないのか、素でセッツァーには判らないようで。
「反省? 何を?」
「俺達は、恋人同士になって未だそんなに時間も経ってないってのに、体のことばかり、ぎゃいのぎゃいの騒いで来ただろう? それを、反省してみた。それに。もしかして俺は、割と……な。自分で考えてた以上に、一つのことが気になり出すと、前のめりになる性格なんじゃねえか、って思って。少し、その……お前のことだけ考えてみようかと、そう考えたんだが……」
 云っていることだけ黙って聞いていれば、まあ、御立派、と揶揄したくなる台詞を、彼は吐いた。
 誘拐犯が見せるような、ぶきみーな態度を見せることが、彼の中では相手のことだけを考える態度と、イコールになるのか、とか、自分が猪突猛進だってことに、よーーーっっやく気付いたんだね、とか、呆れてみたくなる処だが。
 ……と云うか、多分、セッツァーと云う男を良く知る大多数の者が、この台詞を聞き届けたら、そう云いたくなるんだろうが。
 彼のその台詞を聞いた途端。
「……セッツァー……」
 何処に感じ入ったのかは知らないが、今の今まで、オツムに毒でも廻ったか? なんて考えていたことなど棚に上げ。
 エドガーは、一種の感動さえ瞳に湛え、恋人を熱くあつーーーく見つめ返してしまった。
 ああ、さすがはバカップル。
「君が、そんな風に自分を振り返ってくれることがあるなんて……。……私なんて、もう、何も彼も振り切ってしまいたいと、後ろ向きなことを考えていたのに……」
 そうして、エドガーは。
 冷静に分析してしまうと、あれ? それって物凄く失礼な一言なんじゃありません? 陛下? 等々、ツッコミ処満載な言葉を恋人に与え。
「私達も、お互いをもっと知ったら、心のことも、体のことも、上手く行くのかも知れない」
 幸せそーなお顔を作って、彼は、先程セッツァーの手によって無理無理横たえられたベッドの中に、恋人を引きずり込んだ。
「……おい?」
 ムンズ、と強引に、毛布の中へと入れられながらも、拒む素振りは見せず、が、セッツァーは、慌てた風になる。
「折角、君がそんなことを言い出してくれたんだもの。こうやって少し、色んな話でもしてみよう? セッツァー」
 けれど、幸せモードになってしまったエドガーは、ニャンコような仕種で恋人に縋り付きながら。
 誠に初々しい、お子様の恋愛模様のワンシーンの如きシチュエーションを、セッツァーにせがんだ。
「…………ま、それも、いいか……」
 故に。
 何か、何処か、さっき考えていたことと、方向性を違えた気がするんだが……と、内心では首を傾げながらも。
 大人しく、ベッドの中で丸まって、縋り付いて来る恋人を抱え。
 求められるまま、他愛のない会話に、彼は興じ始めた。
 どうして、このお二人さんは、極端から極端に走るのだろう、どうしてもう少し、大人のさじ加減と云うものを、己らの恋愛の中に盛り込めないのだろう、と云う外野の嘆きを他所に。
  


02/11/2003 継続は力なり
 
 恋人とのホニャララーを、無事に成し遂げる為。
 エドガーが、以前、ばあやより渡された物の本。
 あれには、ダイレクツな表現をすると、『色子』の仕込み方、と云うのが記載されていた。
 こうすると、それはそれは立派な『色子』になりますよ、と云う方法。
 その本に記載されていた、その該当部分を、微に入り細に入り書くと、ちょーーーっと、いやん、と云うか……ぶっちゃけ、げっちょいので、申し訳ないと思いながらも割愛させて頂くが。
 要するに、何も知らないお子さんを、そう言うお商売に耐え得る体へと仕込む為には、訓練期間に、間をおいちゃいけません、と云う記載があったのは、語れる。
 それを、もっと簡単に語るならぱ、
 物事、決める時は決めちゃいましょう。
 一気です、一気。
 若しくは、
 継続は力なりです。
 ……ってことだ。
 かなり、語弊はあるが。
 一一まあ、その辺の語弊は兎も角。
 『そんな風』であるのは事実で、人体の構造を鑑みるに、一度『緩めた箇所』をそのままにしておけば、元に戻ろうとする『人体の神秘』が働く、と云うのも事実で。
 なのに、何処でどんな思考が働いたんだか、躰のことばっかり急いてたから、「お互いがお互いのメンタルな部分、あんまり知らないよねー」と、見つめ合って小首を傾げ、頷き合ったんじゃなかろうか、こいつら、てな勢いで、出来ればそう云うことは、第二次成長期くらいの若者が良くやる、交換日記にしたためておくれな、って云いたくなる、『他愛のない』、お互いの知られざる一面、とやらを語ることに、それから数日の時を、セッツァーとエドガーの二人は、費やしてしまった。
 折角、シチュエーション的には一応問題ないぞ、身体的にもばっちりだ! な、スパに、滞在していたにも関わらず。
 なので、いい加減、ここに来る前に比べれば、遥かに、お互いがお互いのことを知れたかなー、と、心の満足はたっっっっっぷりと得た二人が、んじゃそろそろ、当初の目的を……と思い始めた頃には。
 やっぱりいい加減、幾ら何でもそろそろ、国王陛下、祖国にお戻りになりませんと、ヤバいんじゃありません? になってしまっていて。
 ま、でも、心は満たされたしねー、と呑気に飛空艇に乗って、呑気に砂漠の御国に帰り、泣きそうを通り越して、蒼白、になっていた臣下達の、べそべそぐちょぐちょ、の愚痴を退け。
 じゃあ、又近い内に会おうね、なんて脳天気な約束を交わして別れ。
 遠く離れていた、僅かな時間をやり過ごし、又、砂漠のお城で相対し。
 今度こそっ! と勇んで、二人寝台に潜った時には。
 …………ええ。
 元の木阿弥。
 国王陛下のお体は、ギャンブラー殿の指の一本も受け付けられぬあの頃へと、見事にリターンしていた。
  

02/14/2003 正しいのはどっち? セッツァーさんの場合
 
 あーもー、勘弁してくれ。
 本当に、勘弁してくれ。
 どうして、何も彼もが、水の泡なんだ。
 どうして、一から、全てやり直しなんだ。
 そりゃあな、ついうっかり……と云うか、何と云うか……あいつの体を緊張から解放する方法を考えてて……そう云えば、俺はあいつのこと、何も知らないんだな、ってのに気付いて、メンタルな部分、ちゃーーーんと理解してやれは、互い、色々と、信頼っつーか、そう云うのが生まれて、コトに対する恐怖ってのも、あいつの中から消えるかな、と。
 そう思って、つい、語り合いってのに時間を費やそうと言い出したのは、俺の方だが。
 その『語り合い』が結構面白くって、それに、必要以上の時間を割いちまったってのも、否めないが。
 でも、確かにあの数日間で、心の部分ってのは今まで以上に満たされて……それはそれで、そこそこ、満足だったんだ。
 俺は、な。
 本当に、これで後は躰だけ、になって、でもそれだってそろそろ、メンタルなことが上手く行ったように、性の問題も……って、期待したんだが。
 ………………甘かった……。
 別に、人間の体の構造ってのを、舐めてた訳じゃねえんだが……。
 だからって、何も又、一等最初の時みてえに、指の一本も受け付けないってなトコまで、『退化』しなくたっていいだろうがっっ。
 まあ、尤も夕べは、あの時みたいに、問答無用でエドガーが、喚き散らして抵抗しようとせずに、『努力』しようとはしてみせてくれた、ってのが、唯一の救いだけどな……。
 でもなあ……でも……。努力って奴は実らなけりゃ、努力じゃねえからなあ……。
 ああ、もう、いっそ。
 いっそ、泣かれようが喚かれようが、とっとと押し倒して、とっととヤっちまった方が、いいんじゃねえのか?
 段々、そう思えて来たぞ、俺には。
 この思考が、性犯罪めいてるな、と自分にも他人にも思えたとしても、もう俺は、手っ取り早く済ませたい。マジで。
 後もう少しで頂けるってトコで、何回お預け喰らってると思ってやがる……。
 忍耐にも、限界ってのがあるんだ。ン週間も、ずーーーっと、中途半端な禁欲、強いられてみろってんだ……。
 あいつが『欲しい』ってのは、歴然として俺の中にありやがるんだから……拷問だぞ、これは。
 あー、決めた決めた。
 ヤってやる。
 確か、男娼館のマダムが、イれる時には時間を掛けず、一息でヤらないと、痛みが増すだけらしいわ、とか何とか云ってたし。
 ……専門家がそう云うんだ、それは正しい見解なんだろうから。
 今夜にでも、押し倒してやる。
 

02/17/2003 正しいのはどっち? エドガーさんの場合
 
 何か、段々と。
 自分で自分が嫌になって来た。
 決して、私に非がある訳ではないと思うし、誰が悪い訳でもないと思うし、そもそも、男同士でそう言う行為に至ろう、と云うこと自体に無理があるのだから、仕方ないな……とは思うのだけれども……。
 数日間が空いただけで、全てが元の木阿弥に戻ってしまった、と云う現実にはへこまされるし。
 枕に八つ当たりしてみたり、セッツァーに八つ当たりしてみたりするのも、いい加減、馬鹿馬鹿しくなって来たし。
 色々、諸々、考え過ぎてしまって、私が悪い訳でもないのに、自分で自分をちょっひり責めてみたい心境に陥る……。
 あーーーー、もーーーーーー…………。
 最初は、どうしてくれようか、と思ってたけど、ああ、そうか、お互いがお互いのこと、余り知らなかったな、ってことに気付かされて、そこから先の数日はのんびりと過ごさせた、あのスパでのことは、とても、何と云うか、満たされたのに……。
 そりゃ、本来の目的だった、体の部分って云うのは、棚上げになってしまったけど? メンタルの方はねえ、幸せ、と云う奴だったのだから、それはそれで、良いことだった筈なのに……。
 だから体の方も、なんて、楽観的になってみたんだけどな。
 駄目だった…………。
 夕べは私も、少しは努力、してみたんだけど。
 実らなかったし……。
 一一どうしよう、セッツァーがキレて、『変なこと』考え始めちゃったら。
 いっそー……なんて思い込まれちゃったら、私はどうしたらいいんだ?
 何か、彼……今朝には結構、辟易した、って云う感じの表情、作ってたから…………。
 ……あ、でも……。余計な心配、かなあ。
 彼も彼なりに、色々、諸々、知ってるみたいだし。男同士のアノ事。
 私が読んだ本には、イれたりする時には時間を掛けて、ゆっくり慣らすようにしないと駄目で、とか書いてあったから。
 お互い気を使ってーって、物の本が云うのだもの、確かなんだろうし。
 その辺のこと、彼にも判ってる……んだろうな、多分。
 だから、あんな表情作ってブツブツ云ってた彼でも、キレて、いっそ押し倒す、とか訳の判らないことは、考えたりしない……かな。
 危ないし。
 うん。
 

02/19/2003 説教タイム その一
 
 昨日に引き続き、フィガロのお城に居座った、いい加減、その犯罪者みたいな発想は改めなさい、貴方、なセッツァーと。
 己の恋人の良心だったり道徳だったり、と云ったことに、今一つ、信頼を抱き切れないエドガーの二人は。
 夕べの『玉砕』を胸に秘めつつ、ぷち落ち込みつつ、その夜も、お床の中で向かい合おうとしていた。
 ……が。
 片や、この状況に辟易し過ぎてしまって、もーいい、もー知らない、後は実力行使あるのみ、になってしまったセッツァーと。
 片や、幾らこの状況が辟易して余り有るものでも、性犯罪には走らないよね? と一縷の希望を抱いているエドガーの、認識の溝は深く。
 寝台の上に浅く腰掛けながら、さて、今日はどうやって挑んでみようか、どうしたら、進展が生まれるんだろう、と至極真面目に、今宵のホニャララーに対して思い馳せていたエドガーを、己の欲求に従って、セッツァーはガバリと押し倒した。
 襲ってる、襲ってる、立派な変態さんだ、端から見れば、ってな風情で。
 でも、そのような事態は、セッツァーには良くとも、エドガー的には堪らない。
 このまま、全てのことを無視して、何も彼も忘れたことにして、押し倒されたまま流されてしまえば。
 とんでもない肉体的な被害を受けるのは、エドガーの方なのだから。
 ……なので。
「セッツァーーーーーっ! 君は何を考えてっ!」
 罵声を絞り出しつつエドガーは、ものすんごく強い力で捕まれ、シーツの上に押し付けられた己が手首の自由を、何とかかんとか、取り戻すと。
 もそもそベッドの上を漁って、掴むこと叶った羽枕を振り上げ、ぼっすんぼっすん、セッツァーをぶち始めた。
 しかし。
 色事には長けていると、周囲の誰もが信じて止まないセッツァーは、事実、経験が豊富なのか。
 無言のまま、枕の攻撃なんぞ何処吹く風、と云う顔をして、きっちり、恋人を押さえ込んでしまった。
 一一人間が人間を押さえ込むには、チョットしたコツがある。
 それさえ掴んでしまえば、女性でも男性を押え込める。
 仰向けに寝かせた人間を押さえ込むんなら、両の鎖骨のちょい下辺りに膝を付いて跨がり乗り上げ、前のめりの感じで体重を掛けて、身長的に可能なら、足で足を絡め取ってやればいい。
 こうすると、反動が付けられないので、胸の上に乗った物体を振りきって起き上がることは、中々、叶わなくなる。
 そうして両手を押さえ込んでしまえば、よっぽど腕力や体格等に差がない限りは、乗り上げた方が、Winner.
 俗に云う、マウントポジションを取ったから有利です、になるのだ。
 この時決して、腹部より下に乗ってはいけない。
 胃がグエってなるからではなくって、支点とか力点とかの関係で、下敷きにされた人間に、反動を付ける余地を与えてしまうから。
 …………と、まあ。
 そんな、『コツ』を、思いっきり発揮して。
 恋人に跨がり乗り上げ、誠に素早く勝利を収め。
「セッツァーっ、痛いってばっ! 退いてくれっ!」
 体の下にて、ギャンギャン訴えて来るエドガーの声に耳も貸さず。
 身を丸めたセッツァー、ちょーーっと体勢的にきつい、と内心では思いながらも、うんこらしょ、とキスをして、片手でエドガーの両手を纏め、引っ掴み。
 薄い夜着一枚の、愛しい方のお躰一一その割には、無体な扱いだが一一を、まさぐり始めた。
 
 

02/24/2003 説教タイム そのニ
 
 一応でもいい、合意さえあれば。
 夜着を剥がれようが、モソモソ、お肌を弄(まさぐ)られようが、別に、それは構わない、とエドガーも思っている……のだが。
 愛の言葉一つ囁く訳でもなく、言い訳一つ、呟いてみるでもなく。
 まるで、御人形さんか何かを押し倒しているみたいに、無表情な顔をして、褥の上に押し倒されても、嬉しくも何とも無い、唯、怖いだけ、と。
 エドガーはそれまで以上に、抵抗を強めた。
 敵が色事師であるなら、エドガーも又、色事師だ。
 尤も、砂漠の国の陛下の場合、フェミニストをモットーとしているから、合意も無く無理矢理女性を押し倒した経験なぞ皆無だが、上手いこと言い包め、上手いことベットに誘い、やんわり、もう引き下がれませんよ、ってな『状況』を拵え、ちゃっちゃっと戴いてしまったことなら沢山ある。
 だから彼だって、人を押し倒すにはどうしたらいいのかくらい、とっくの昔に会得しているアビリティで、押し倒した後、形勢逆転されない方法も知っていて、則ち、どうしたら逆転出来るか、も一応は判っているから。
 恋人の手練手管によって、気持ちよーくなっちゃわない内に、と、渾身の力を込めて、乗りかかって来る男を、ひっくり返そうとした。
 ……が、適わない。
 余りにも有利な体勢を取られてしまったのか、どーーーやってみても、適わない。
 一一なので。
 同じ男として不憫だと思うし、恋人同士である以上、この手だけは絶対に使いたくなかったんだ、御免、セッツァー、でも、君が悪いんだからね、と。
 エドガーは、何とかかんとかセッツァーの隙を伺い、逸物を膝頭で攻撃した。
「…………いっっっ………ぐっ…………」
 攻撃した当人さえも、おお、会心の一撃っ! と感嘆したくなる程、それはそれは綺麗に、膝頭が、殿方には何よりも大切であろう箇所に、きっちりめり込んだ瞬間、さあ……っと顔色を変え、声を詰まらせ息を詰まらせ、セッツァーは、コロン……と押し倒したエドガーの体の脇へと転がり落ちる。
「おま…………。……エ……ドガー……。おーまーえー……っ……」
 ぽてちょん、と寝台の上に転げ落ちたままの格好で、暫くの間、セッツァーは苦しみ悶えていたが。
 やがて、伸びをしている途中の猫みたいな、何とも言えぬ情けない姿で、一寸腰の辺りなんぞ浮かせつつ、彼は呻きを絞り出した。
 脂汗まで掻いて。
「……君がいけないんだろう……っ」
 乱された夜着の前を掻き合わせて身なりを整え、自業自得、と切り捨てながらも、さすがにやり過ぎた、と思ったのかエドガーは、トントントントン、腰を叩いてやる。
 何で腰を叩くのか、それが判らない方は、御家族の殿方にお尋ねすると宜しかろう。……尋ねたら最後、何故そんなことを、と尋ね返されるかも知れない、諸刃の剣の如き質問だが。
 ……ま、兎に角。
「御免。強過ぎた? 気持ち悪い?」
「……ったり前だ、馬鹿……っ。……くーーーーっ………」
「立てる? 立てるんなら、跳ねた方が一一」
「一一立てねえから苦しんでるんだろうが……」
 お二人さん、寝台の上で暫しの間、どうして気持ち悪いとか、跳ねた方が、とか、判らない方にはさっぱり判らん、な会話を交わし。
 漸く、セッツァーが落ち着きを取り戻した頃。
「あのね、セッツァー」
「あのな、エドガー」
 仕切り直し、とばかりに正面から向き合って、せーの、で喧嘩を始めた。
 
 


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