事と次第によっては、そこを攻撃されたら男にとっちゃあ一生の問題となり得る箇所に、もしかしたら生涯お付き合いしなければならなかっただろう程の痛手を負わされ。
さすがにキレたセッツァーと。
何処を攻撃されようが、そんなこたぁ自業自得、何を思い余ったのか切羽詰まったのかは知らないが、問答無用で押し倒すなんて、どう云う了見っ! 身体の危機だっ!
……と、やっぱりキレたエドガーが。
お互い、勢いに任せて、ベッドの上に鎮座まし。
正座までして膝突き合わせ。
せーの、で始めた口喧嘩は、中々終わりを見なかった。
「何を考えてるんだ、君って男はっ! 幾ら何だって、押し倒すって、何なんだ、押し倒すってっ!! この、犯罪者っ!」
「それを云いたいのはこっちの方だっ!」
「……何でっっ」
「お前の気持ちを考えないで、押し倒したのは悪かった。それに関しちゃあ、謝る。謝りもする。……だがなっ! お前、幾ら何でも急所を蹴り上げるってな、やり過ぎだろうがっっ。使い物にならなくなったらどーしてくれるんだっ!!」
「そんなの、自分の所為だろうっ!」
「やり方ってのがあるだろうが、世の中にはっっ」
「仕方ないだろう、他に、君の目を覚まさせる手段が見当たらなかったんだからっっ」
「ふざけんなっっ。お前だって男だろうがっ。付くモン、付いてんだろうがっっ。急所なんざ攻撃したら、どう云うことになるのか判るだろうがあああああっっっっっ!!!!」
「判るからやったんだろうっっ。馬鹿だね、君もっっ」
「……おま……。おーまーえー……。ほんっとーーに、男か、それでもっ! おんなじ苦しみ、味わいたいかぁぁっ!」
「御免被るっ。一一ああ、やり過ぎたのは、私も認める。さすがに、可哀想だったかなー、って、私だって思ったっっ。でもね、セッツァーっ、君、忘れてないかい? そもそもが、自業自得だってっっ」
…………とまあ、こんな具合に。
低レベル、なお二人さんの罵り合いは、延々やり取りされ。
だが、その、聞くに耐えない低次元の口喧嘩の最中。
彼等は。
「大体なー。俺達の関係が、いつっっっっまでも、えんっっっっえんっっ。進展しないから、俺だって切羽詰まったんだろうがっっ」
「そんなこと云われたってっ! ……私だって気にしてるっっ。でも、仕方ないだろう、出来ないものは出来ないんだからっっ」
「気にしてるんだったら、ちったあ大人しくしてやがれっ! 一息にヤッちまえば、何とかなるっっ。俺はそう聞いたっっ」
「……セッツァー、君はどうしてそう云う嘘をっっ。私が読んだ本には、時間を掛けてゆっくり慣らさなきゃ駄目だって、書いてあったっ!」
「そんな筈はないっ。俺は、あそこのマダムに……一一」
「だって、本には……一一」
「……………ん?」
「……………え?」
一一……彼等は。
罵り合いの最中、お互いが、勢いに任せて発した、御下劣な発言より。
もしかして、今夜の騒ぎは、お互いの、『それ』に関する認識の違いの所為で……? と云うことに気付き一一まあ、だからって、セッツァーが一歩間違えば、否、間違わなくとも性犯罪者だった、と云う事実は何処にも消えないが一一。
ぴたり、と口論……と云うよりは、本当に誠に、下世話で低俗な怒鳴り合いを、止めて、まじまじと、見つめ合った。
そうして、暫し見つめ合い。
いたーーーー……い、沈黙の時を過ごした後。
「……一寸待って、セッツァー。君は、その、何処ぞのマダムから、何て聞いたんだって?」
漸く、意を決して、エドガーが、上目遣いをしながらセッツァーに問うた。
「…………俺は、その。顔馴染みの色町のマダムに、男同士がヤる時は、一息にヤッちまった方が相手の為だ……と……。だから、その……。何時まで経っても、関係に進展がねえんなら……マダムの云う通り、ヤっちまった方が手っ取り早いか? って思ってだな……。一一で、お前は……?」
問われたことへ、辿々しい答えを返しながら。
セッツァーも又、エドガーの瞳を覗き込んで、尋ねた。
「わ……たしは、その……。あー……。物の本、を読んで……。そうしたら、そこには、あー……『その時』には時間を掛けないと駄目だって書いてあったから……そう云うものだと思ったし……だから、君がそんなことするなんて、考えもしなかったし……押し倒されるなんて冗談じゃない、って思って……」
だから、今度はエドガーが、辿々しく、セッツァーの問いに答えて。
もう一度、まじまーーじ、と見つめ合った二人は。
「…………どっちが正しいんだ……?」
声を揃えて呟き、揃って頭を抱え。
むーーーーん……、と悩み始めたが。
「あのー……ですね?」
一一今は、真夜中。
ここは、フィガロ城の城主の、則ち国王陛下の寝室。
……であるにも関わらず。
国王陛下の寝室に篭った当人達は、素っ裸、でベッドの上に、ちんまり座っていると云うのに。
…………何故か。
そんな時間、そんな場所で、悩み始めたセッツァーとエドガーの背後より。
何者かの声がして。
まっっっっさお、な顔色になった二人は、恐る恐る、声のした方向を振り返った。
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