01/14/2003 成就の為の努力 『愛の合宿生活』 そのよん
 
 男は。
 何が必要って、度胸だ。
 こう、と決めたら無言の内に、且つ迅速に。
 いけいけ、Go、Go、目指すは地上の楽園さっ!
 据え膳喰わぬは何とやら、と云うじゃないかっ!!
 ………………であるのが。
 ある意味で、正しいと思う。
 あ、いや、そう在るのが、ある意味では正しいと、セッツァー『は』思っている。
 なので、彼は。
 多少卑怯なのは否めないが、湯当たり起こした恋人が、遥か彼方に意識を素っ飛ばしている内に、有り難く頂いてしまいましょう、と。
 いそいそ、支度を始めた。
 今は未だ、真っ昼間だと云うのに。
 こそこそと部屋のカーテンを閉め、ジリジリと部屋の明かりを落とし、もぞもぞと服を脱いで。
 前回は植物性油だった、が今回は、女衒の親分さんの所から頂いて来た潤滑油一一どのツラ下げて、譲り受けたんだ? とは思うが一一も、ちゃーんとお手々にヌリヌリして。
 恋人の、きゃあああ、な箇所にも、ちゃーんとヌリヌリして。
 一瞬だけ、躊躇いを覚えてしまったけれど、最後にジーーーッと、己の『躰』も見下ろして、自身の、あああああ、な部分にも、ヌリヌリヌリ一一塗れる程、臨戦体勢バッチリだったんだな、と云うツッコミは、しないでやって頂きたい一一、して。
 美味しいモノを頂く時には、きちんと手を合わせて感謝を捧げるのが礼儀、と、暗くなった部屋の中、相変わらずグデンとしているエドガーに合掌を手向け一一何か違う気がするが一一、彼は、もふもふもふもふ、恋人にのしかかった。
 ……誠に嫌な擬音だが、それ以外、例えようがない彼の姿だったので、各方面には御容赦頂きたい。
 そして、彼は。
 いちお、キスして。
 それでもエドガーが、ほにゃーんとしているのを確かめ。
 つるん、と一一ああ、これも嫌な擬音だ一一、前回はここで『痛い』と叫ばれたんだよなー、と、先の失敗を思い出しながら、ちょっちロンリーな気持ちになって、侵入と云うか、侵略と云うか、を致し始める。
 が、とってもとってもとってもとっても一一以下略一一、彼にとって幸いだったことに。
 意識が垂れ、尚且つ、全身に力が入りません、なエドガーの躰は、喚くことも叫ぶこともなく、それを受け入れてくれた。
 一一一一故に。
 この有り様の国王陛下より、速攻悲鳴が上がったら、もう生涯プラトニックを貫くべきとしか言えなかったのだろうが。
 刹那、セッツァーもその覚悟をしたが。
 無事……なのかどうかは知らんが、事もなく、エドガーは若干顔を顰めただけで、拒絶反応は示さなかったので。
 思わず気を良くしたセッツァーは、『侵略部隊』の数を増やしてみた。
 そうして。
 二度目の勝利を、彼は手にする。
 ………………ヤッてる当人も、そりゃあもどかしいだろうが。
 実況中継をしたためているこちらも、そりゃあもどかしい。
 もどかし過ぎる展開だ。
 どーせ、卑怯であるのは否めないこの状況で頂こうと思うなら、とっとと頂いて頂きたい。
 男は度胸じゃなかったのか。
 据え膳喰わぬは男の恥だろう?
 ……と、外野は云いたくなるのだが。
 セッツァーはその時、彼的には前回よりも『大幅』に進んだ『コト』に、至極深い満足を覚え。
 どうせなら、相手も気持ち良い方が、と、意識がクタッてる相手にそんなこと思い遣っても、余り意味がないんじゃ? と問うてみたい、純情少年のよーな『優しさ』を発揮して、『そのまま』の体勢で、恋人に、愛撫を施し始めてしまった。
 世の中には、疾風怒濤、と云う言葉もあるのに。
 ついつい、愛溢れる思い遣りなんぞを、発揮してしまったが為。
 ものごっつい『違和感』に、漸くクタっていた意識を表層に引き上げたエドガーと、うにゃうにゃの最中、ばっちり目が合ってしまって。
「…………せっつぁぁぁぁぁぁぁぁ…………」
 セッツァーはエドガーに、盛大な平手打ちを喰らった。
 

01/16/2003 成就の為の努力 『愛の合宿生活』 そのご
 
 余り、誉められたことではないと思うが。
 クタっていた意識を、感じてしまったごっつい違和感の所為で表層へと引き上げた途端、どうしてこうまで違和感を感じるのか、の理由に、即座に気付いたエドガーと。
 恋人がほにゃほにゃしている内に、頂けるものは頂いてしまいましょう、と、多大に卑怯な思惑を実行し掛けていたセッツァーは。
 条件反射と云うよりは、脊髄反射の域でエドガーが繰り出した平手打ち、と云う行為の所為で。
 エドガー曰くの違和感の排除もなされぬままに、ぎゃんぎゃんと、言い争いを始めた。
「君って男はぁぁぁぁぁっ!」
「……悪かったって。お前がへたばってる間に、『こう』しようとしたのは悪かったと思うがっ!」
「思うが、何っ!!」
「問答無用で、ひっぱたくか? 普通っ!」
「手の一つも出るだろうっ、普通っ!」
「だからって、加減ってものがあるだろうっ」
「加減っ? どの口が云う? 私は君と、合意の上で結ばれたいのであって、君に手込めにされたい訳じゃないっ!」
「恋人同士の営みに、手込めもへったくれもあるかっ! 一一お前なー、口ん中切れる程の力でな……」
「自業自得っ!!」
 一一とまあ、こんな言い争い。
 エドガーは怒りに我を忘れて。
 セッツァーは、怒り狂ってる恋人に言い訳をする為に。
 双方共に、必死なのは良く判るが。
 目と目が合ってしまった、先程の瞬間より、姿勢を一切変えずに怒鳴り合うって云うのは……繰り返しになるが、余り誉められたことではないと思う。
 何故って。
 犬も喰わない喧嘩なぞ、どんな体勢で何時間繰り広げてくれても、当人達以外に害が及ばぬならば、一向に構わないのだが……、如何せん、姿勢、が。
 二人の姿勢が宜しくない。
 宜しくなさ過ぎる。
 ……そんな格好で、言い争いなんてしてると……一一。
「これだけは、絶対に譲れないっ。悪いのは、き………一一。いっっっっ……!!」
「……エドガー?」
 一一ほら、ね。
 人間、感情が高ぶって、エキサイトしてくると、それも、怒りの方向に、エキサイトしてしまうと。
 自然、体も強張ろう、ってもんで。
 セッツァーへと、更に身を乗り出そうとした瞬間、違和感が鈍痛になって襲って来たのを知ったエドガー。
 外野の心配通りに、ベシャっとシーツに沈んだ。
 ま、当然の結果だ。
「痛いってばっ!」
 一一故に、彼は、突っ伏しながら、痛みを訴えたが。
 エドガーの訴えの意味することに、後れ馳せながら一一遅過ぎる、とも云うが一一気付いたセッツァーも、手を、引っ込めようとしたが。
「……判ったっっ。判ったからっっ。足開けっ。俺の手を挟むなっっ。抜けねえだろうがっ!」
「そんなこと云われたってっ!」
「出来なくても、しろっ!」
 少しでも痛みを軽減しようと、セッツァーの手が、何処ぞへ消える前に、きゅーーーーーー……っとエドガーが身を丸めてしまったから。
 未だ、誰かさんの『侵略部隊』は、誰かさんの躰の中にいると云うのに。
 エドガーの太股に、思いっきり挟まれたセッツァーの手は、動かせなくなってしまった。
 ……ああ、悪循環。
「っとに……。どうしてこうなるんだか……」
 一一その様を。
 虚しい、余りにも虚し過ぎる、と嘆きながらも。
 恋人が、痛いと喚くから、何とかしなければ、と思ったセッツァー、エドガーの足の付け根辺り、要するに、『際どい部分』に空いた手を付いて、己が手を奪還しようとしたが。
「何処触ってるんだっっ」
「仕方ねえだろうがっっ」
「あー、もー、痛いんだってばーーーーっ」
「そう喚くんなら、大人しくしろっっ」
 ………………中々、彼等の願いは叶わず。
 それぞれが、それぞれから『解放』されたのは、この騒ぎの暫く後だった。
 …………間抜け過ぎる。
 ひじょーーーーーー……に、間抜け過ぎる。
 当人達的にも、外野的にも、何処までも間抜け過ぎる、この夜の顛末だ。
 一一だが、それでも。
 この、どーしよーもないコトの顛末より。
 彼等は一つだけ、学んだことがあった。
 

01/19/2003 成就の為の努力 『愛の合宿生活』 そのろく
 
 お空が明るい内から、醜態なんて言葉ではとてもじゃないが言い表わしきれない醜態を晒しまくり。
 騒ぎが沈静化した後、さすがに、己達の馬鹿さ加減が身に滲み過ぎて、自己嫌悪に陥り。
 深く深く落ち込んで、セッツァーとエドガーは翌朝を迎えた。
 ……が。
 傍迷惑なことに。
 やっぱり、何処までも、めげない、と云うか、懲りない、と云うか、学習能力がない、と云うか。
 否、反省、と云う言葉を知らないのかも知れない、と云った方が良いのかも知れない、な質を、この二人は持ち合わせていたので。
 お天道様が顔を出して、爽やかーに小鳥なんぞがチュンカチュンカ鳴き出し。
 お腹の中からほっこりほこほこになれる、朝餉を終える頃には。
 永遠落ち込んでてくれれば大人しくて良いのに、段々と、彼等、前向きになっていた。
 いい加減、『身』の部分でも結ばれたい、と云う欲求や野望は諦めて頂いて、心の繋がりだけを堪能し、生涯を終える覚悟をお二人さんが固めてくれれば、人生、気合いだけでは乗り切れないことがある、と云う教訓を以てして、この物語……もとい、彼等の愛の軌跡レポートにはEndマークが打てて、外野的には、やれやれ、やっと諦めてくれたのね、有り難う、と相成るのだが。
 そうは問屋が卸さないらしい。
 昨日の、非常に非常にお馬鹿な出来事より立ち直って、少しばかり前向きになれる程度の教訓って奴を、彼等は得てしまっていた。
 一一では。
 諦める、と云う言葉を知らない彼等が、見い出さなければ平和だったのに、でも見い出してしまった『光明』は何か、と云うと。
 当たり前っちゃあ当たり前だが。
 クタっている最中のエドガーが、痛みを感じなかった、と云う事実。
 これに、彼等は一縷の望みを、託してしまった。
 ……託さんとも良いのに。
 一一さすがに、最終目標である『真実の愛の営み』の最中に、ホントにエドガーにクタられては、エドガー的にもセッツァー的にも困るが。
 要するに、クタる一一もう少しスマートに書くならば、失神寸前一一と云う状況に近い状態、則ち、全身からこれでもか、と云わんばかりに力が抜けきっている状態にエドガーがなれば、自分達の理想に近いだろう形で、痛いだの何だのと云った騒ぎも起こさず、『営み』は可能なのではないか……と。
 彼等は、昨日学習した事実より、希望に満ちた予想を立て。
 それを『光明』の一つと思い、望みを託してみることにしたのだ。
 ………………まあ。
 間違った想像ではないから、外野は何も突っ込もうとは思わないが。
 彼等は一つ、忘れている。
 予測が立ったのはいいが。
 『方法』を考えていない、と云うことを。
 どうやって、思いっきり全身から力の抜けた状態一一やっぱり、少々『らしい』言葉で表現するならば、とってもリラックスした状態にまで、エドガーを『追い込む』か。
 それを、考えるのを、二人は忘れている。
 …………さて。
 どうするのやら。
 

01/21/2003 成就の為の努力 『リラクゼーションの知識』 そのいち
 
 自分以外の誰か、を。
 身も心もリラックスさせてやる方法は? と問われれば。
 ……酒を飲ます、くらいの回答しか、セッツァーは思い浮かべることが出来ない。
 尤も彼の場合、飲ませる、のではなく、浴びせる、とか、浸ける、とか表現してやった方が正しい気がするが。
 一一この回答に関し。
 何か、こう……もう一寸、まともだったり、『らしい』ものだったりを、どうして答えられないんだろう、と云う素朴な疑問が浮かぶのは、取り敢えず、無視したい。
 ……と云うか……。
 そりゃあ、人によってはアルコールを摂取すると、気分が良くなったりハイになったり、コロンと寝てしまったりはするが。
 やっぱり人によっては、泣き出してみたり、喚き出してみたり、説教始めてみたり、人生嘆いてみたり……と。
 必ずしも、リラックス、則ち寛げる、とは限らないのだからして。
 どうして、何も彼も、己を基準にして物事を計ってみたり、推察してみたりするのだろうか、と耳元で怒鳴ってやりたい衝動を覚えるのだが……あー……まあ、それはそれで、この場では思い至らなかったことにしておこう。
 きっと、アルコールに脳内細胞破壊されてるんだろう、彼は。
 ああ……話を戻して、と。
 一一さて、そう云う訳で。
 自分以外の誰か一一この場合はエドガーがそれに該当するが、自分ではなくエドガーを、『大いなる目的』の為に、これでもか、ってリラックスさせてやろうと考えたセッツァーが、まっ先に辿り着いた結論は、酒を飲ませる、と云うそれだった。
 ……だが。
 そこまで考えて、セッツァーははたと気付いた。
 己も、人様に眉を顰められる程の酒豪っぷりを発揮するが。
 恋人も又、それにタメを張る酒豪だ、と云うことに。
 尋常ではない酒飲みが、尋常ではない酒飲みを酔わせようとしたら、そりゃーあ、時間が掛かる。
 時間も掛かるし何より、返り討ちにされる危険性を伴う。
 若しくは、二人揃って撃沈の運命を辿るか。
 エドガーを抱こうとしている彼が、抱かれる側のエドガーと一緒になって、同量の酒を嚥下せずとも良かろうに、と云う意見もあるだろうが、どーしよーもない酒豪が、素面で茶なんぞ啜ってる相手を目の前に、一人大人しく酒を飲むとは思えない。
 それは、セッツァーにも良く判る感情だから。
 例の、醜態を晒した日の午後。
 腕を組みながら、『大いなる野望』成就の為の知恵を振り絞っていた彼、そこまで考えて、すっぱり、アルコールに頼る、と云う方法は捨てた。
 …………懸命である。
 だが、その手段を却下してしまうと。
 セッツァーには代案と云うものの持ち合わせがないので。
「……どうすっかな……」
 ……と、又、悩む羽目に、彼は陥って。
 そこで又、彼は、はた、と気付いた。
 振り返ってみれば、長いようで短かった、短いようで長かった、エドガーと、告白を交わし合ってより、今日までのン週間。
 心が結ばれたんだから、今度は『身』を結ばないとね、な考えに、延々延々、自分達は捕われて続けていたから。
 実は、思っていた以上に、考えていた以上に。
 自分は、エドガー・ロニ・フィガロ、と云う人間のことを、何も知らないのだ、と云う事実に。
 セッツァーは、ふっ……と気付いた。
 

01/27/2003 成就の為の努力 『リラクゼーションの知識』 そのに
 
 セッツァーと、精神的にはデキてから、こんな騒ぎを日夜繰り返しているなんて、生涯の恥だな、と、心底より感じ。
 うだうだゴロゴロぐるぐると、スパの客室の片隅で、見ていて可哀想になる程ストレス感じちゃってる売り物のワンコのよーに、毛布なんだかシーツなんだか良く判らない布を引きずりつつ、エドガーはウロウロしていた。
 ……もしもその、毛布なんだかシーツなんだか、が、彼にとっての『ライナスの毛布』に匹敵するならば、ちょっち、精神的にヤバいのではないですか、陛下、と御注進申し上げたい処だが、そう云った理由で、彼は布切れを引きずっている訳ではなく、唯単に、時折起こる『発作』の際の、八つ当たりの道具であるらしいので、まあ、良しとしよう。
 ……なので、ここで、外野からも許可を貰ってしまった彼。
 更にぐるぐるゴロゴロうだうだと、部屋の片隅を彷徨って。
 ああでもないの、こうでもないの、一人、考え出した。
 一一もう、出来ることならば、このままフィガロに帰りたい、とか。
 『躰』の方の折り合いは付かなかったのだ、と諦め、このまま生涯、清い体を貫き、お手々繋いでのプラトッニクな恋愛をして、満足することにしようか、とか。
 そう云った類いのことが、その時エドガーが考えていたことだ。
 そう、彼はもういい加減、馬鹿馬鹿しくて仕方なくなって来ていた。
 たかがsexのことで、どうしてここまで騒々しい馬鹿騒ぎを展開し、尚も、苦労しなければならないのだろう。
 遅々とした歩みを、ほんの少しだけ見せているのみで、それ以外、自分達の関係に進展はなく、問題は、山積みなのに、と。
 だーが。
 それでも、そう考えるようになっても、本気でこの場所から去って、その旨をセッツァーに告げるだけの踏ん切りを付けることが、彼には出来なかった。
 何故ならば。
 エドガーが、同性同士のナニに関しては素人同前であるにしても、事、異性とのナニに関しては、プロフェッショナルの域にまで達した、『大人』だったから、に他ならない。
 国家を挙げてのゴシップ騒動を巻き起こしそうな、女の尻を追い掛ける、と云うことに、国王自ら血道を上げてどうする、と、一度彼には云ってみたくあるが、基本的な彼の思考は、その娘(こ)もこの娘(こ)も僕のモノ、なので、致し方ないとは思う。
 ……が、問題はそこにはなく。
 そう云った、思考、言動の『お陰』で、エドガーは、恋愛と云うものの経験『だけ』は事欠かないので。
 恋愛と云うモノに向き合う際。
 たかがsexは、されどsexに変わるのを、骨身に滲みて判っているのだ。
 誠に身も蓋もない言い方だが、愛があっても金がなければ生きて行けぬように、いい年コイた大人が、心の繋がりだけで『堪能』出来る程、恋愛は甘くない。
 この場合、お相手がもしも女人だったとしたならば、往々にして、「まあ、貴方、どうして私に手を出さないの? 私って、そんなに魅力がないの? 口先で愛してるって云うだけで、本当は私の事なんてこれっぽっちも思ってないのねっ!」……ってな鬱陶しい……もとい、不安に満ち満ちた台詞付きの修羅場を迎えるのがオチだろう、と云うことも、エドガーさん、よーーーーーく存じているので。
 プラトニックなお付き合いを生涯通して続けましょう、なんてセッツァーに宣言しようものなら、セッツァーの中でも自分の中でも、やがて、破局は訪れるだろう、と云う予測もエドガーには付けられる。
 …………なので。
 ストレス溜めたワンコのよーに、室内徘徊しながらも、彼には、踏ん切りが付けられなかった。
 ……だって、仕方がない。
 彼は、恋人のことを、愛してしまっているのだから。
 躰がどうとか、プラトニックがどうとか、そう云った『部分』をどうするか、と云うより遥か以前に、セッツァーが好きなのさ、と云う想いが、エドガーにはあるから。
 愛してるんだもん、別れたくはないんだもん、でも、痛いの嫌なんだもん、sexが上手くいかないだけなんだもん。
 …………これが、布切れ引きずってる、彼の正直な気持ちだ。
 答え、まで、後もうちょっと、な、彼の気持ち。
 

01/29/2003 成就の為の努力 『さじ加減』 その一
 
 調理。
 ……この家事を良くする方なら御存じであろうが。
 お料理、と云うものは、さじ加減が大切だったりする。
 ちょーっと調味料を多めにぶち込んでしまっただけで、鍋の中身が、そりゃーー……あ悲惨な味への変貌を遂げてしまうのは、ままある話だ。
 そして、この、さじ加減、と云う奴は。
 人間関係を転がして行く際にも、結構必要とされる『具合』でもあり。
 
 
 何時も通りの、出口があるんだかないんだか良く判らない黙考の果てに。
 自分は、エドガー・ロニ・フィガロ、と云う人間のことを、何も知らないのだ、と云う事実に、ふっと気付いたセッツァーは、もしかしたらこれが、諸悪の根源って奴なのかも知れない、と思い至った。
 一一彼は、ある意味生涯最大の不覚なんだろうが、骨の随まで、エドガーのことを、愛しちゃってる。
 誰に何て云われても、ぜーーったい手放してなんてやるものかっ! ってな決意を、ひしひしと固めてしまう程に。
 死ぬ時は、手に手を取って天国へ一一地獄かも知れないが一一昇り、もしも生まれ変わりと云うものがあるのなら、次の世でも又ね、としたくなる程に。
 だから。
 絶対に、何があっても、手放す気なんてないし、本音を吐き出せば片時も離さず、エドガーを傍に置いておきたいのだから。
 冷静になってよくよく考えてみれば、何も、こんなになってまで、急ぐ必要はないのだ。
 彼と、体の部分まで結ばれる、と云うことを、焦る必要は何処にもない。
 そりゃあ、頂けるものなら今直ぐにでも、「いただきます」はしちゃいたいのが男の性だが?
 誰に盗らせる気もないし、誰に盗られる心配もないのに、本腰据えて、『時』を待つ気になれなかったのは、エドガーの、自分を愛してくれている、と云う想い以外、何も知らなかった所為ではなかろうか、と。
 そこに、諸悪の根源があるんじゃなかろうか、と。
 セッツァーは、思い至った。
 …………そうして。
 ならば、今、己に出来ることは唯一つだ、とも、彼は思い……と云うより、思い込み。


 そっと客室の扉が開いたのにも気付かず。
 相変わらずエドガーは、毛布だかシーツだか判別付かない布切れを引きずって、部屋の片隅にて、悶々としていた。
 が、背後から近付いて来た何かに、静かに手を取られて、握り締めていた布切れを奪われ、彼は振り返る。
 ……と。
 そこには、当人的には最大に優しさを含ませたと思える笑み、がエドガー的には、『恋人にベタ惚れエドガービジョン』で見遣ってさえも、何か悪いものでも食べたとしか思えない、整い過ぎていて空恐ろしささえ感じる『不気味』な笑み、を湛えたセッツァーが、ヌッと立っていて。
「……せ、セッツァー……?」
 ひくっと喉を引き攣らせつつ、次いでに思わず頬さえも引き攣らせつつ、エドガーは恋人の名を呼んだ。
 ………………が。
「どうした? エドガー。こんな物引きずって、考え込んでやがって。一一ああ、疲れたのか? なら、少し、休むか?」
 想い人の、誠にビミョー、な表情に気付いただろうにも関わらず、世間一般的には猫撫で声、と云う奴をセッツァーは放ち。
「いや、疲れたって云うか……その……」
「いいから。無理したって、碌なこたぁねえんだから」
 しんどい訳じゃないんだと言い淀んだエドガーを遮って、ベッドへと誘い、と云うよりは引きずり、半ば強引に横たわらせると、ぽふぽふ、そりゃあしっっっっかりと毛布を掛けて。
「……なあ、エドガー。折角、二人っきりでこうしてるんだから。体のことだけじゃなくって、少しは、俺達自身、『見つめ合う』ってこともしてみないか?」
 鼻先まで引き上げた毛布の中より、恐る恐る見遣って来るエドガーの枕辺に腰掛けて、今更それを云うのは余りにも『間抜け』ではないのか? な一言を、セッツァーは呟いた。
「………………はあ?」
 それを聞かされた直後。
 エドガーが堪え切れずに、素頓狂な声を放っても、何を考えているのかは知らないが、ギャンブラー殿は。
 にこにことした笑みを崩さず。
 


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