03/30/2003 『魅惑』のお薬
 CATUABA一一カトゥアバと云う植物は。
 熱帯雨林に見られる、繁殖力の強い中型の木だ。
 随分と古くから、媚薬効果がある薬草として知られており、現地の者達の間では、『こいつを旦那に使えば、六十過ぎても子供が出来るぜっっ!』……てな言い伝えもある程だったりする。
 で、カトゥアバ。
 これは、滋養強壮に、素晴らしい効力を発揮する、とも云われており。
 その素晴らしき効力が、最も発揮されるのは、男性の『性不能症』一一簡単に、ぶっちゃけた表現をしてしまえば、殿方のナニが勃(た)たない病気、これなんだとか。
 そして、更に、この薬草に関して云い募るならば、カトゥアバには、悪性の副作用が一切ない。
 …………ひじょーーーーーに、優れ物な自然のお薬なのだ、カトゥアバ。
 故に。
 エドガーから『御相談』とやらを受けた時、侍医は、カトゥアバの木から抽出したエキスで出来た液状お薬を、それはそれは気楽な気持ちで手渡した。
 何故ならば、例えばうっかりエドガーが、渡した薬の服用量を飲み間違えちゃいました、てへっ……ってな事態を引き起こしたとしても、精々が処、元気になり過ぎちゃった『ナニ』が、何時まで経っても大人しくなってくれません、程度の『弊害』で終わるし、それくらいのことなら、大事には発展しないから。
 この薬ならば、幾ら何でも平気だろう……と、侍医は、あっさり瓶ごと譲ったのだ。
 ……だって。
 毒が薬になるように、薬が毒になるように。
 『薬』と名の付くものは本来、物騒な代物である、と云うのが相場で。
 本当に効果がある『媚薬』なんて物は所詮、人間様の脳内回線を、ラリラリパッパ、ラリパッパ、にするものでしかない。
 早々、『都合の良いお薬』なんて物は、世間様には転がっていないのだ。
 そうしてそのことを、侍医は医師であるが故に、良く判っていたし。
 sexなんて、気分の問題なんだからー、その気になる程度の物で充分だろ、痛いのは緩和されないだろーけどー、と、本当、くどいようだが、きらーーーーくに、渡したのだ。
 一一一一一一一一でも。
 ……カトゥアバは、植物学上、Erythroxylacea科に分類される。
 そして。
 Erythroxylacea科の主要植物は、Erythroxylonと云う。
 一一これを、某世界の表記で、判り易く説明すると。
 Erythroxylacea科と云うのは、コカノキ科、と相成る。
 んで、Erythroxylonってのは、コカインの原材料って奴だ。
 ……ま、要するに。
 南国は熱帯雨林な地方の、伝説の媚薬は。
 媚薬がー、とか、惚れ薬がー、とか云う、ちょびっとくらいは、可愛らしいかもね、と思える次元ではなくって。
 本当の意味で、オツムの中が、ラリパッパでチーパッパ、になってしまうお薬が採れる木々と、間違え易かったりする訳で。


04/01/2003 『狂乱』の夜 その1
 
 『こうした』努力一一世間様的には、ちいっとばかし、的の外れた努力一一が、今夜こそ実るといいなあ……と考えながら。
 侍医から貰った薬を、懐の中に大事に大事に仕舞って、とてとて、執務室に向い始めたエドガーは、ふっと思い付いたように、足先を、図書室の方角へと変えた。
 懐の中の薬、この正体を、一応は知っておきたい、と彼はそう思ったのだ。
 別に、侍医のことを信頼していない訳ではないが一一と思うが一一、インフォームド・コンセプト、なんて言葉とは程遠いこの世界のこと、お薬の効能に、国王陛下が少々疑問を抱いたとしても、致し方ない。
 ……で。
 いそいそと向かった図書室で、物の本を調べ。
 カトゥアバ、と云う木から採れる薬が如何なる物なのかを知ったエドガーは。
 『滋養強壮』に、滅茶苦茶効くって云うんなら、自分だけじゃなくって、恋人にも飲ませた方がいいかもー、てな発想に至り。
 今夜こそ、何とかなるかなー、なんて『甘い』御想像を巡らせつつ、お仕事に向かった。

 さて、その夜。
 いきなり、セッツァーの眼前に薬瓶を突き付けて、飲めっ! って脅迫……ではない、お願いをしてみても、きっとセッツァーは不審げな顔をするだろうと踏んだエドガー。
 さあっっ、今夜こそぉぉっ! いい加減に、今夜こそっ! きっと何とかっ!
 ……と、静かな情熱を燃やしているセッツァーに、『トプトプ』、薬瓶の中身を入れた葡萄酒を手渡して、恋人が、一息にそれを飲み干すのを、じーーー……っと確認してから一一決して、毒味をさせた訳ではない一一自らも、同じように、『トプトプ』、薬を入れた酒を飲み干した。
「何だ? 随分、甘い酒だな……」
 お薬入りのワインの味に、んー? とセッツァーが顔を顰めたけれど。
「ああ、云われてみれば、一寸甘いかもね」
 なんて、誤魔化して。
 国王陛下は、コトに勤しむ為の下準備を整える為、ささっと御不浄に消える。
 愚かしい失敗を繰り返している内に、悲しいかな、エドガーは、『お支度』に関することは、随分と手際よくなってしまっていたから、そこそこの好タイムで、自室に戻り。
 何処となーーーく、ぼやーっとした目をしている恋人の隣に、ちんまりと腰掛けた。
 そうして。
 一一潤んでるように見えるセッツァーの紫紺の瞳が綺麗、とか。
 あ、何か、今夜の彼って、何時もよりも男前度が高いかも、とか。
 あれ…………何か、セッツァー、揺れてる? 貧乏揺すり? ……落ち着かないのかな……? とか。
 様々に考えながら、エドガーは恋人の横顔を、じーーーーーーーっと見つめた。
「……お前、何泣いてんだ?」
 ポスン、と寝台を撓ませて腰掛けたエドガーを振り返り。
 じっとりと見つめてくる恋人に、セッツァーが首を傾げた。
「は? 泣いてる? 私は別に、泣いたりなんてしてないけど……?」
 が、セッツァーのその問いに、『熱い』視線に気付いてくれたのはいいけれど、どうして、泣いてるなんて台詞が出てくるんだ? と、エドガーも又、首を傾げた。
「物凄く潤んで、真っ赤だぞ、お前の瞳」
「それを云うなら、セッツァーだって」
「……そうか? それに何か……頬も赤いし……。だから泣いたのか、と……」
「まさか。何で私が泣かなけりゃならないんだい? 泣く処か、随分と気分がいいんだが。……こう……高揚感があると云うか、爽快と云うか」
「奇遇だな、俺もだ。一一何か、今夜は随分と、おかしな気分でな…………」
 一一それぞれが、それぞれを。
 熱い、と云えば熱い、『じっとり』、と云えばじっとり、な視線で見遣り。
 気分はとっても良いんだけれど、何か、変な感じー、と言い合いながら、何でか知らないけれど一一尤もエドガーの方は、薬の所為なんだろーなーと判ってはいたが一一勝手に上がってくる息を、頑張って頑張って押さえ込み。
「……励んでみようか」
「……励んでみるか」
 二人は。
 ま、訳も判らず気分も盛り上がって来たことだし、今夜も挑んでみましょうか、と声を揃えて言い合って、各々、着衣を脱ぎ出した。
 

04/02/2003 『狂乱』の一夜 その2
 
 気分が良いって云うか、爽快って云うか。
 んー、総じて云うなら、幸福って奴?
 一一と。
 己の着衣を脱ぎ脱ぎして、寝室の床に放り出した直後辺りから。
 ほわん……とした感覚が、益々強くなって来たエドガーとセッツァーの二人は。
「……んー……。何か……一寸だけ気持ち悪いかも……」
「気持ち悪いと云う程じゃねえが……ムカムカはするな、多少。一一そんなこたぁないと思うが、あの酒、安物だったのか?」
 叫び出す程気持ち悪い訳ではないけれど、何処となく、胸がムカムカする、と、数分の間、吐き気を催していた。
 だが、そんな不快感を覚えていたのも、数分のこと。
 オールヌードになったと云うに、寝台の直中でチンマリと座って、ぽやぽやぽやぽやぽやしている内に、きもちわるーーーい、なんて感覚は何処かに消えて、酒を飲んだ直後から沸き上がって来た『幸福感』は、見る見る膨れ上がり。
「あー……。何か、幸せーーー」
「そうだなあ…………」
 トロン、とした目をして、軟体動物のように、ぐんにゃり寄り添いながら、幸せ、幸せ、と、それだけを二人は連呼し始めた。
「何でかなあ。ものすっっっっっっっっごく、幸せな気分。何かもー、どうでも良くなって来ちゃったー。このまま二人で、こうしてればそれでいいかなー」
 ぐったりべっちょり、セッツァーに張り付きながら、ほにゃほにゃと、エドガーはそんなことを言い出す。
「それも、手だなー……。本気で、どうでもいいなー、他のことは……。何だか、いろんなことが、馬鹿馬鹿しくなって来たぞ、俺はー」
 セッツァーもセッツァーで、ベトっと張り付いて来たエドガーに、やはり、べちょっと張り付き返して、うにょうにょと、同意を示した。
 ……が。
「あっっ。でもっ! でも、セッツァーっ!」
 へらへらへらへらへら、誠に締まりのない笑みを浮かべながら、今が幸せだから、もうどうでもいいの、とか何とか、言い合っていたのに。
 唐突にエドガーが、セッツァーの胸元からガバリと顔を上げ。
 当人的には真摯な眼差し、第三者的には眠ってしまいそうに見えるそれ、で、恋人を瞳で『射抜いて』。
「それじゃ駄目だと、君はそう思わないかいっ! だってね、私達は今日の日の為に、もう随分と長い間、これでもかっ! って云わんばかりの、涙無しには語れない、いじましい努力を重ねて来たのにっ! 幸せだからって理由で、それをなし崩しにしてしまうなんてーーーっ! 私には耐えられないっっ。何の為の努力なんだっ! 君と、ホントに、も、シッカリキッパリ、これでもかっ! ってくらい、身も心も結ばれて、何処までも幸せ、何が何でも幸せっ! きゃーーーーっ! ……って云うくらいになれなけりゃ、嫌なんだっ!! 嫌ったら嫌っっ。そうじゃなきゃ、私はイヤーーーーーーっ!」
 一一貴方、本当に大丈夫ですか? ……と。
 聞く者が聞いたら、そう問い掛けたくなる程、訳の判らないことを、国王陛下は喚き散らし始めた。
「まーなー……確かになー。一一そりゃあな。そりゃあ俺だって、お前の云う通り、身も心も、シッカリキッパリ結ばれて、んーー、堪能っ! って云いたくなるくらいにならなけりゃ、本当の意味で幸福とは云わないんだろうがー……。でも、幸福は幸福であって、今は幸福で、だから幸福は幸福だから……? ん? 何か違うな……。一一ああ、もう兎に角っ! 兎に角だ、エドガーっ! 俺だって、今まで苦労して頑張って来た、血の滲むよーな努力が全て泡と化す、なんてのは冗談じゃねえと思ってるっ! ああ、嫌だ。俺だって、幸福だからって理由で、このまんま終わるのなんか、耐えられねえぞっっ!」
 一一多大に、クラッ……と来そうなエドガーの喚きを聞き届けたセッツァーも又。
 これでもかっ! と云わんばかりに意味不明なことを、延々と喋り続けた。
「そうだろうっ! 君だって、そう思うだろうっ! 幸せが、幸せだからって、それで止まってはいけないと、私は思うんだっ! 我々の、これまでの日々は、一体何の為にあったのかっ! 私はね、セッツァーっ! ほんっとーーに、君と幸せになりたくってっ! あっっ、でもっ!! セッツァー、君、判ってるかいっ? ホントの意味で、判ってる? 私が君と一緒にいると、どれだけ幸福か、とか、どれ程に、君と結ばれてみたいと思っているか、とかっ! 判って無いだろうっっ。この、薄情者ーーーっ! 君、私のへの愛、足りているかいっ?」
 一一セッツァーが、エドガーの喚きを受けて、ぎゃんぎゃんと喋れば。
 エドガーも又、子供の癇癪以下としか思えぬことを、盛大にまき散らして。
「はあっ? 何云ってやがんだ、お前はっ! お前はそう云うがな、じゃあ、お前はどれだけ判ってるんだ? 俺のコトっ! 俺がお前に、どれっっっっっっっっっっっ……だけ、幸福を求めてるのか、考えたことがあるかっ?! 一一別にっ! 別に、自分を正当化する訳じゃねえがっっ。唯単に、お前とヤリたいからって、それだけで、俺はこうしてるんじゃねえぞっ! 一一…………判るかー? エドガー? 俺が、お前に求めてることが、判るかー? ……なのにっ! お前はそうやって、つれないことを云うのかっ!」
 一一エドガーが、どーしよーもない喚きを、更に云い募れば。
 セッツァーの、どーしよーもない叫びも、更に語られて。
 真夜中の、寝台の直中にて。
 軟体動物のようになった二人は、びみょーな距離で張り付き合いながら、余りにもテンションの高過ぎる『会話』を続けた。
 


04/03/2003 『狂乱』の一夜 その3
 
 幸せが欲しくって、幸せ探して歩き続けて、そうしたら、コロンと幸せが転がっていて、でも、それは幸せなんだけど幸せじゃなくって、でも幸せだから、ここで止まっちゃっても良くって、だけどそれじゃあ、意味がなくって。
 幸せがー、幸せって何処ー、幸せって、何ー。
 ……と、ぎゃあすかぎゃあすか、幸せがどーたら、幸福がどーたら、120%くらい意味の通らぬことを、数十分間に渡って、二人は声高に喋り続けていた。
 一一一一これは、もうどう考えても、間違いだったんだろう。
 侍医殿が国王陛下に差し出した、カトゥアバのお薬は、カトゥアバじゃなくって、カトゥアバ・コカのお薬だったんだろう。
 だって、彼等のこの状態、某世界の名称で云うんなら、コカインって薬の、典型的な症状だから。
 1. 摂取し慣れていないと、吐き気を催すことがある。
 2. 『ダイナミック』な幸福感に襲われる。
 3. どんなに内向的な人間でも、ガラっと人が変わったかのように喋り続ける。
 4. 何か、鬱積した物を抱えている人間程、その傾向が顕著。
 …………ほら。
 コカインと云う薬を体内に摂取した場合に出る、これらの特徴と、彼等の現状に、全くと云っていい程、差異はない。
 一一恐らく、間違いは無い。
 お二人さんは今、お薬の所為で、強烈にラリっている。
 だが、このお薬。
 一つだけ、『救い』がある。
 正直、それの何処が救いなんだ? って気がしなくもないのだが、それでも一応、救いなんじゃないかなー、と思える一点、それは、三十分もすれば、効果が消える、と云う点。
 だから、このままの状態で、彼等がもう一寸だけ踏ん張れば、すうっ……と潮が引いたように幸福感も高揚感も消えて、けだるいなんて言葉じゃとてもではないが追い付かない倦怠感を覚えて、あれー、どうしちゃったんだろーねー、我々ってばー、てなノリで、お布団の中に沈み、ああ、今夜も駄目だった、と相成り、この事態にはEndマークが付くのだが。
 彼等は、このお薬を、飲んでいる。お酒と『一緒』に。
 要するに、服用しているのだ。胃腸から、摂取しているのだ。
 しかも、トプトプ一一則ち、並々と。
 故に、液体状になっていたから、粉末に比べれば純度は低い筈だが、物には限度ってのがあるから、ねえ、それって、致死量寸前って云わないかなー、と云う推測も付く訳で。
 三十分、と云うタイムリミットが来ても、ラリパッパ状態からお二人さんが抜け出せる、と云うのは甘い期待で。
 更に更に。
 コカインには、性欲を『盛り上げる』効果も、あったり前のようにあるから。
「………………あ」
 幸せがー、幸せでー、幸せってー? と。
 あー、絶対、国王陛下の自室の外、回廊にまで届いてるんだろうなー、と思えるでっかい声で喋り捲っていた、未だにラリパッパ状態のセッツァーは。
 ふっと、口を噤んで。
「エドガー」
「………何?」
「ヤらせろ」
 恋人が黙ったことによって、やはり、喚き声を収めたエドガーに。
 飲み過ぎてしまったお薬の所為で。
 一言、簡潔に、真実素っ気無く。
 ヤらせろ、と云う、どストレートな言葉を吐いて、ぐぁばっっ! ……と『襲い掛かった』。
 

04/04/2003 『狂乱』の一夜 その4
 
「はあ? ヤらせろ?」
 ヒトデを食らおうとするクラゲのように、べっちょりと、嫌な擬音を立てて、セッツァーがエドガーに襲い掛かったら。
 抗い切れず一一と云うか、抗う気も無く、シーツの海には沈んだものの。
 そのお綺麗な柳眉を強く寄せて、僕は御不満って顔を、エドガーはした。
「しょーがねーだろー。めちゃくちゃ、その気なんだからー。だいたいー、そのためにー、おれたちはー、こうしてるんじゃないのかー?」
 むっすりとした、恋人の膨れっ面にもめげず、セッツァーは、そこかしこが間延びして、呂律の疑わしい自己主張をする。
「そーゆーことじゃなくってー」
 だがエドガーは、ヤりたくない訳じゃない、と、やっぱり、ぼにょーんと間延びした声で、違うのー、と訴え。
「ヤらせろってゆー、きみのいいかたがー、きにいらないーーっ。そんないいかたしなくったってー、いいだろー、べつにーー。ヤりたいんならー、ヤりたいでー、とっととヤればー?」
 素面の彼だったら、死んでも吐くことはあり得ぬだろう台詞を、さらっと吐き。
「ヤらせろー、なんてー、げひんなことばー、わたしはききたくないーー」
 ……と、両手を伸ばしてエドガーは、重力に逆らわず垂れてくる、セッツァーの銀髪をムンズっと掴み引き寄せると、むちゅうっっ……って、熱烈と云うか、強烈と云うか、吸引機? と云いたくなる程威勢よく、唇に吸い付いた。
「……そーか、そーかー」
 きゅっぽんっ! と、エドガーの唇が離れた後。
 酸欠に陥り、数秒間クラクラとしつつも、満更でも無い様子で、なら遠慮なく、とセッツァーは、エドガーの首筋辺りに、かぷりと噛み付いた。
 一一すれば途端、エドガーからけたたましい笑い声が上がって。
「…………くすぐったいーー」
「そーいわれてもー」
「きゃははははははは」
「わらうなー」
「だって、くすぐったいんだもんー」
「おれもだって、そーだぞー?」
「……どのへんがー?」
「おまえのうでがまわってるー、こしあたりー」
「セッツァーの、スケベーー」
 ………………一応、その。
 お二人さんがしようとしているのは、紛うことなく、sex、の筈なのだが……この世に、ここまで騒がしく明るい笑い声を伴う情事、と云うのが、果たして存在してもいいのだろうか、と、お空の神様に問い掛けたいくらい、派手に騒ぎ捲り。
 貴方達、やっぱり馬鹿でしょう? と、そう云いたくなる会話を、きゃらきゃらと交わしつつ。
 それぞれ、相手の躰へと腕を伸ばして、ぺたぺたぺたぺた、触り。
 その都度、笑い声を上げ。
 噛み付かれれば噛み付き返し、痛くないの、こそばゆいの、ぎゃあぎゃあと感想を訴え合い。
 くんずほぐれつ抱き合ったまま、大きな寝台の上を、あっちへころころ、こっちへころころ、転がって。
 国王の自室前の回廊にて、不寝番をしている城の者にとっては、さぞ迷惑で、やる瀬ない思いを生んだだろう愛撫の時とやらを、賑やかーに、彼等は過ごして。
 

04/08/2003 『狂乱』の一夜 その5
 
 お薬の所為で、極度のラリパッパ状態に陥ろうとも。
 やっぱり、お薬の所為で、僕の性欲は真っ盛りだぞー、な事態が、何処かに消えてしまった訳ではないから。
 不寝番の者には、さぞ迷惑であろう騒ぎを展開しながらも。
 その騒ぎの所為で、身体的に、この上もなく盛り上がったセッツァーとエドガーの二人は。
 脳内はラリパッパ、目許は空ろ、笑いを止められない口許は半開き、と云う、誠に目も当てられない状況の中、それでも、『最後の時』を迎えようとしていた。
 薬の効力が切れない内に、そこまでなだれ込めて良かったね、と云う意見もあったりなかったりするが、頭の中に花が咲き、今だけは、幸せ街道まっしぐらな彼等、兎に角、この幸せがもっと増大されればいいの、と云う思いと。
 取り敢えず、この、強烈な性的欲求を何とかしたいから、それが叶えば後はどうでもいい、と云う思いの二つに押され。
 んふーーー、と傍目には不気味チックに、当人達的には微笑ましく、笑みを交わし合い。
 ちゅぱちゅぱ、くどいくらい、バカップル的擬音を伴うキスもしつつ、今までは、そこから先に進もうとする度、エドガーより上がる悲鳴の所為で越えること出来なかった一線を、越えた。

「……あ、いたくなーい」
「ほんとうかー?」
「うんー。ぜんぜんいたくなーい」
「……じゃあー、これはー?」
「それも、いたくないー」
「こうしてもー?」
「へいき、へいきーー。もんだいないー、きもちいいだけー」
「ほー……。じゃあ、これもー?」
「あー……だいじょうぶーーー。へいきそうーーーー」
 
 …………それが、本当に、今宵初めて一線を越えた者同士の会話なのか? と云いたくて仕方ないやり取りを、彼等は交わしながら。
 痛いの、痛くないの、気持ち良いの、気持ち良くないの、と、あーでもないこーでもない、言い合い。
 恋人同士、これでやっと結ばれたのだ、と云う感慨もへったくれもなく。
 おお! 出来たっ! って、無邪気に喜び合いながら。
 ……でも。
 何処までもお薬の所為で、汲めども尽きぬ性欲に突き動かされて、幾度となーーーく、えっほえっほと『励み』。
 んーーーーーー、満足ーーー。幸せーーーーーーっ、きゃーーーーーーーっ! ……と。
 夜が白々と明け始める頃、漸く、満たされに満たされまくった彼等、いい加減、致死量寸前まで飲んじゃった薬の効力も切れ。
 尋常でない性欲も萎み。
 ぐっちゃぐっちゃのデロッデロと成り果てた寝室の惨状に、目もくれず。
 ぽて、っと抱き合いながら、ぬくぬく、まーーーるくなって、セッツァーとエドガーの二人は、惰眠を貪った。
 
 そうして、それから、数時間後。
 綺麗さっぱり、夜が明けて。
 ……………………朝。
 


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