12/01/2002 冷静になってみました
 
 キスされて。
 押し倒されて。
 お洋服脱がされて。
 珠のお肌を撫でられて。
 でも、ふにゃん、となった処で、今はここで止めておこうね、と、『お許し』を貰って。
 抱き合ったまま、イチャコラお話タイムと相成った後も、ぽわぽわと、雲の上に浮かんでいるみたいな心地でいて。
 まるで、マタタビ喰らった猫のように、ふわふわ、一晩を過ごして。
 翌朝、じゃあ、又な。近い内に逢おうな、と、耳元で囁いた恋人を見送って。
 ……よーーーーーーーーー……やく。
 漸く、エドガーは、冷静になった。
 ……貴方、そんなに良かったんですか? と、突っ込んでみたくはあるし。
 中々やるな、セッツァー・ギャビアーニ、と唸ってみたくもあるし。
 何の、かは兎も角、後学の為に、セッツァーの手練さ加減を、身を持って知ったエドガーに、突撃レポートを敢行してみたくもあるが。
 それは、ちとこっちに置いておくとして。
 兎に角。
 一夜が明け、恋人と別れ。
 冷静になった後。
 一人きりになった自室で、握り拳を固め、ぷるぷると震え、顔面蒼白になり。
「私に一体、どうしろとっ!!!!」
 ……とエドガーは絶叫した。
「セッツァーの、馬鹿ーーーーーーっ!!」
 ……と、ひっ掴んだ羽枕を壁にぶん投げ、八つ当たりもした。
 だがしかし。
 声を限りに叫び、枕に八つ当たりをしようとも。
 それで、事実が変わる訳ではないし、あんな顔、あんな姿、あんな声一一まあこれは、マタタビ喰らった猫状態だった時に、きっとこんなザマを曝しただろう、と云う、彼自身の想像に基づくものではあるが一一を、恋人に見せてしまった事実も覆らない。
 何がどうあろうとも、昨日の勝者はセッツァー・ギャビアーニなのだ。
 昨夜の時点で、優位に立ったのは銀髪のギャンブラー。
 そして、恐ろしいことにあの男は、一度掴んだ優勢を、そう簡単には手放さない質。
 だから。
「じょおっっだんじゃないっ! どうしてあんな、抜け駆けみたいな、不意打ちみたいなやり方で、彼に優位に立たれなきゃならないんだ、セッツァーの、馬鹿ーーーっ! 人でなしっ! 鬼畜っ! 色魔っ! 自己中っ! 私に一体、何を求める気なんだーーーーっっっっ!! 覚悟を決めろとでも云うのかっ! ……覚悟? 覚悟……? 覚悟ぉぉっ?!」
 冷静になった途端、己が立場の劣勢さ加減と、惚れた男の性質を、すぐさま悟ったエドガーは、再度の絶叫を放ったが。
 ああ、現実はシビア。
 彼の嘆きが届く先は、恐らく何処にもない。
 彼が今、嘆くべきは、呪うべきは、セッツァーの手練さ加減にほだされちゃった、夕べの己。
 …………なので。
「ああ、もう………………。どうしよう………………」
 散々叫んで、散々八つ当たって、寝乱れたままのベッドの上に突っ伏したエドガーは。
 バシバシガンガン、壁にぶつけてヨレヨレにしてしまった御愛用の枕を抱え、まぁるくなって。
 ちょっち、泣き濡れた。
 


12/02/2002 少しだけ、反省してみました
 
 第三者的には、全く以て、身勝手、としか言い様のない、『思い付いた良いこと』を、思うがままに実行し。
 又それが、思っていた以上に上々の首尾で。
 御機嫌御機嫌、とファルコンに戻ったセッツァーは。
 一人っきりの艇内のロビーで、ぼんやり長椅子に腰掛け、ぽへっと天井を見上げた後。
 昨夜の己が行動に関し、すこぉしばかり、反省って奴をしてみた。
 尤も、所詮はセッツァー、反省したと云ってみても?
 ちょーっと強引だったかなー、とか。
 討って出るのを急ぎ過ぎたかなー、とか。
 もう少しだけ、ソフトにしておいた方が良かったかなー、とか。
 その程度のことなのだが。
 何がどう強引で、何をどう急ぎ過ぎて、何がどうハードだったんですか、貴方、と、その辺り、誠に興味深いが、この男のことだ、恐らく、黙して語らぬだろうから、先を急ぐ。
 一一さて。
 内心での、物凄く簡単簡潔な『一人反省会』を終え。
 それでも、昨夜のことを考え続けていた彼は。
「……嫌だった…訳じゃあねえと思うんだが……」
 夕べのエドガーのさまを思い出して、ぽつり、独り言を呟いた。
 昨日の恋人は如何でしたか? 正直な感想をどうぞ、と問うたら、握り拳固めて、演説風な惚気を数時間は語ってくれそうな程、メロメロにノックアウトされた昨夜のエドガーの姿を思い出して、嫌じゃなかったよな? と不安に陥りながらも、にへら、と彼は表情を崩す。
 一人、ぐふぐふ笑いながら、それでも不安げな言葉を洩らす、四捨五入すれば、齢三十になる男の姿、と云うのは、それは不気味ではあるし、不安を覚えるなんて、随分と彼らしくない、とは思うのだが。
 セッツァーとて、一切の思い煩いを抱えずに生きられる程お馬鹿さんではないので。
 一人反省会の内容は、一寸ずれているし、延々惚気が語れる程度、幸福真只中、ではあるのだが。
 一応、彼にも、不安はあるのだ。
 不意打ちで押し倒しちゃって、あんなことまでしちゃって、エドガーに嫌われたりしないかなー、と云う不安が。
 そう思うならするなよ、と云うのが、彼に対して入れられる最大のツッコミの言葉ではあるが、恋する男に何を云っても無駄だろう。
 一一まあ、兎に角。
 外野からしてみれば、おい、今更それを云うか、な不安を、セッツァーは抱えている訳で。
 嫌われちゃったらどうしよう、と悩む辺りは、可愛げがある、と言えるのだろう。
 唯。
 好きな子を、思わず虐め倒してしまった後に、ズーンと落ち込むガキンチョのような不安を胸に過らせながらも。
「……まあ、な。ああ、嫌られた訳じゃないんだし……。次、拒まれたら、その時考えればいいし……。ああ、それよりも、あそこから先の『関門』を、どうやって越えるか考える方が先だな」
 不安げな呟きの後に吐かれた彼の独り言は、無意識のレベルで理解している、己が優位をしっっかりと鑑み、今後もその優位を手放さないぞ、と云う思考に基づく発言だったから。
 セッツァー・ギャビアーニと云う男は、腐っても、逆立ちしても、セッツァー・ギャビアーニ、と云うことで。
 

12/03/2002 腹を据える
 
 若干の語弊はあるが。
 嬉し恥ずかし、な出来事があった、逢瀬の日より数えて三日目。
 エドガーは不意打ちのパニックからも、暮れた悲嘆からも立ち直って。
 セッツァーはプチ一人反省会をするのも、にやけ顔を拵えるのも止めて。
 やっぱり、変な処、変な風に気が合うんですね、な二人は、それぞれがそれぞれの立場で、一応は、腹を据えてみようかと、胸に誓った。
 一一腹を据える、とは。
 要するに、覚悟を決める、と云うことだ。
 んで、覚悟、とは、決心すること。諦めて心を決めること、と云う意味なので。
 腹を据える、とは、諦めて心を決めようと決めた、と云う意味なんだろう、噛み砕けば。
 恋人と展開している色恋の行く道をどうするか否か、それだけの問題に、何もそこまで壮絶チックな覚悟を決めなくともよござんしょう? お二人さん、とすんごく云いたいのだが……至極真面目な当人達に、そのツッコミを入れてやる余地は余りない。
 一一兎に角。
 身勝手バリバリなセッツァーが思い切って行動を起こしたあの出来事をきっかけに。
 エドガーは、ずぅぅんと落ち込みながらも、何とか、恋人との関係発展と向き合ってみる気になり。
 セッツァーは、相変わらずの不安を覚えつつも、恋人とのステップアップを図ってみる気になり。
 それぞれ、なんとなーーーーく、腹が座ったもんだから。
 翌日より彼等は、早速。
 各々、各々の思う処に従い、『手を尽くしてみる』ことと相成った。
 ああ、云うまでもないが。
 彼等が各自、尽くしてみようと思った『手』、と云うか、事、は。
 第三者的には、至極至極、馬鹿馬鹿しいのであしからず。
 

12/04/2002 基本的な考え方  セッツァーさんのモノローグ
 
 ※ 今回は特別に、括弧書きにて、御本人の「様子」もお届け致します ※

 
 少し、整理してみるとするか。
 あいつとのこと。
 愛し合ってるって確認したよな、キスもしたよな、もっと、いい事、もしたよな……(過去の足跡(そくせき)を指折り数える)。
 それで、だ。
 一応、現状では、俺が『有利』だよな……(腕組みしつつ、先日のおでぇとを回想して確認)。
 ってことは。
 俺の思惑通り、俺があいつを抱く、って云う方向で、話を進めても構わないってことだよな(腕組みしたまま、力強く頷き)。
 …………とすると……。
 もしかすると俺は、もっと色々なことを、知っておかないとマズいんじゃねえのか?
 ……そうだよな……。女とするアレとは、何処までも勝手が違いやがるからな……(更に深く頷き)。
 遊び仲間が教えてくれた通りにコトを運ぶんだったら……本来、『そう云うこと』には使わない部分、無理矢理使うんだろ?
 どうしたらいいのか、『きちん』と知らなけりゃ、さすがにあいつが、不憫な気がする(右手でこめかみ押さえつつ、深い思考モード)。
 だがなあ、きちんと、ったって…………(首捻りつつ、更に深く思考モード)。
 ……。
 …………。
 ………………。
 ……ん?(ハタ、と目を見開く)
 それってのは…………痛い、のか?
 痛い……んだろうな、多分……(気付いてしまったことに驚愕を覚え、項垂れ)。
 そーだよなー。どう考えてみたって……痛い、よなぁ……(今は遠いエドガーに向けて、心の中で合掌)。
 アソコ、だもんなー。
 そうなった時に、真実俺から抵抗感が消えてるか、ってのも問題だしなー……(ゾクっと背中に悪寒を覚え、己の両肩を抱いてみる)。
 一一一一正しいやり方、とか、あるんだろうか?(再び、思考モードに走り、首捻り)
 こう……な。
 処女を頂く時に、気を付けた方がいいこと、と同じような注意事項、って奴が、男同士の時にも、ありやがるんだろうか(ブンブンと、左右に首捻り)。
 だが、あったとしても、俺は知らねえし……そこまで、遊び仲間に恥を忍んで聞くってのもなあ……(眉間に深い皺刻み)。
 ……でも……判らないことは、聞くか、調べるか、それしか方法がない訳で……。
 仕方ねえ、聞きに……って……一一あ(ポン、と膝叩き)。
 何も、あいつに聞かなくってもいいじゃねえか。
 別口に、尋ねてみよう(思い付いたことに、ぱぁぁぁ、と顔を明るくし、御機嫌で立ち上がり、ファルコンの操舵席へと消える)。
 

12/05/2002 基本的な考え方  エドガーさんのモノローグ
 
 ※ 今回も特別に、括弧書きにて、御本人の「様子」もお届け致します ※
 
 
 覚悟なんて。
 ものすごーーーーく、決めたくなんか、ないのだけれど(溜息)。
 激しく、決めたくなんかないのだけれど……(唯々、溜息)。
 結局、この間のアレの所為で、セッツァーが絶対的に優位、と云う事実は、覆らないのだろうから……(深くふかーーーーく、溜息)。
 ま、そりゃね、覆せるものなら、私だって男なのだから、覆してみたいとは思うけど(とても小さく、握り拳)。
 結局は、セッツァーの思う通り、コトは運んでしまいそうだから(若干、ウルウルお目々)。
 ……かなり気は進まないけれど、もう少し私は、色々と、学んでおいた方がいいんだろうねえ……(哀しげな、遠い目)。
 …………でも、どうしよう。
 学ぶと云ったって。
 一体、誰から、何から、どうやって学べ、と?(首傾げ)
 この間侍医が出してくれた本は、病に関するレポートばかりで、私が知りたいこととは、若干のずれがあるし。
 一一一一私の知りたいこと……(落ち込み)。
 確か、侍医……痛いのは嫌いか…って、云ってたっけ……。
 破瓜に良く似てて云々、とも云ってたっけ……(顔色青ざめ)。
 痛い……痛い、ねえ……。痛いのは、正直遠慮したいな……(肩落とし)。
 でも、ね……結局は、そうなるんだろうね……。
 結局は、そう云う思いをするんだろうね……(涙、ほろり)。
 あーーーーーーーっ、やだーーーーーーーっ!(絶叫)
 ………でもなあ……嫌だ、と言ってみた処で……(喚きより一転、項垂れ)。
 ……まあ、いい。
 悪いことは極力、考えないようにしよう。
 今だけ、でも。
 折角、本当に好きになった相手と、結ばれようとしてるのだしね……(自分を励ます為に、小さくガッツポーズ)。
 あああ、でも、そうなると、益々私は学ばなければならない事態に追い込まれることになって、でも、何をどう学んだらいいかなんて判らないし……(腕組みしつつ、瞑目)。
 ……破瓜……破瓜ねえ……。
 破瓜…………(涙目)。
 一一ああ、考えないようにしようと思ったのに。
 …………あ(ふと、顔を上げて。
 破瓜?(ポン、と手を叩く)
 

12/06/2002 彼の中での『専門家』 セッツァーさんの場合
 
 餅は餅屋に限る訳で。
 専門的な知識を得たいのならば、専門家に尋ねるか、専門書を開くのが宜しい訳で。
 ……と云う、まあ、極一般的な思考パターンに則り、ファルコンを駆ったセッツァーさんの向かった場所は。
 ええ、お馴染み、大抵の皆さんに御想像が付いたでしょう、な、色町花街、だった。
 唯。
 その日、彼が向かった場所は、彼にとっては馴染み深い、お兄さん、一寸遊んでかなーい? 安くしとくわよー、これくらいでどーお? てな台詞でお誘いを掛けて来るお姉様方の溢れている歓楽街ではなく。
 お兄さん、いい男だね、ああ、僕と遊ぶの? 高いよ? な、お若い息子さん達溢れる歓楽街の方だった。
 彼のこの行動。
 一見、判らないことがあるってーなら、実践実践、のタイプか? 己は、と罵ってみたくなる物ではあるが。
 あれでいて結構、本気になった相手に対する、セッツァーさんの貞操は固いので、決して実践の為に彼は、そこを訪れた訳ではない。
 そもそも彼は、同性にしか興味が持てない、と云う質ではないので、惚れちゃったエドガーさんを抱くと云うなら兎も角、一見さんの少年なぞ、抱くつもりは更々ない。
 考えるだけで、腰が萎える。
 じゃあ、そんな場所に足を運んで、彼は一体何をするのかってーと。
 それはやっぱり、正しい同性間性行動に関する質問タイム、と云う奴で。
 セッツァーさんが訪れたのは、色町の中にある男娼館、ではなくって、女衒(ぜげん)さん、のお宅だった。
 さすがはセッツァーさん……と云っていいのかどうかは知らないが、ちと、常人とは目の付け所が違う。
 女衒一一要するに、春をひさぐお姉さんや息子さん達を、売ったり買ったり、と云う、ものすごーーーく物騒な言い方をしてもいいのなら、一歩間違えば、否、間違わなくとも、人身売買の元締め? な親分さんならば、男の子の『仕込み方』、も良く知っていると、セッツァーさん、考えたのだろう。
 ある意味、ブラボーな発想だ。
 ……君はどうして、そんな職業の人に知り合いがいるのか、と問い詰めたくはあるが、世の中には、知らない方が幸せ、なことは沢山沢山溢れているので、敢えて聞かない。
 後々に響く、余計な苦労は、人間背負い込まぬ方が宜しい。
 一一ああ、だからもう、どうで良い人生上のおばあちゃんの知恵袋、的な語りはこっち置いておいて。
 己の欲望の為だけに、色町に住む、知り合いの、女衒の親分さん宅を、セッツァーさんは訪れ。
 久し振りじゃねえか、元気してたか? とニコニコ出迎えて下さった親分さんに向かって、至極真面目な顔を作り、至極真面目に話を始め。
 私だったら出来る限り乗りたくはありません、そんな相談、と零したくなるだろうセッツァーさんの話を、だまーーーーって、表情一つ変えずに聞き終えた親分さんは。
 無言のまま、すっ……と。
 とある物を、セッツァーさんに差し出した。
 


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