授かり物


08/17/2002 …………パパ、だと?(記載・セッツァー)
XXXX年 XX月 XX日

泉の神様、だあ?
……ふざけてんのか? こいつ。
それとも、喧嘩売ってんのか?
いや、ああ……もう、あんな馬鹿げた手紙のことなんざ、どうでもいい。
問題は、コレだ、コレ。
この、二匹の生き物だ……。
俺と、エドガーの、子供だと……?
じょーだんだろ。きっっつい洒落だぞ、それは。
俺が、パパ? こいつらの?
パパ………………。
怖気立つ響きだな……。
一一いや、大体っ!
どうして覚えもねえのに、俺が人の親になんぞ、ならなきゃならねえんだ?
そもそも、本当にこいつらは、俺とエドガーの子なのか?
そっから、疑わしいじゃねえか。
…………………………。
でも、な……。
こい、つらの……容姿………………。
…ああ…眩暈がする……一一一一。

08/18/2002 ………ママ…って……誰、が?(記載・エドガー)
XXXX年 XX月 XX日

ママ………? え、ママ……って?
ママって、誰のことだ?
もしかして……いいや、もしかしなくても、私のことか?
この二ヶ月間に患った、吐き気や腹痛が、泉の神様とやらの云う所の、妊婦の感覚、と云うものなら、体験したのは私なのだから、ママとは、私のことなんだろうけど……。
でも……ママって、女性特有の呼び方であって……。私は、男である訳だし……。
まあ、こういう風な事態で、子供を授かったのなら、男だろうと女だろうと、ママと云われればママなんだろうが……。
一一一一……何を冷静に考えてるんだ、私は……。
…………………………。
冗談じゃないっっ!!
私は男だ、れっきとしたっっ!
孕むことも有り得なければ、セッツァーとの間に子供が出来る筈もないんだっ!
で、でも……………。
赤ん坊が目の前にいるこの現実を、どうしたらいいんだろう…。
……いる。
確かに、いる。ちんまいのが、二人。夢でも幻でも、なく……。
私の目の前にいる……。
しかも……ああ、しかも……。
確かに片方の面差しは、セッツァーに良く似てて。
もう片方の面差しは、私に良く似てる……。

………………。
セッツァー。
私は一寸、失神してみても、いいかな………。

08/19/2002 神は私(わたくし)をお見捨てにはならなかったっ(記載・じいや)
XXXX年 XX月 XX日

今日。陛下のお部屋に御挨拶に上がったら。
少しばかり大振りな籠があって。
その中には、生まれたばかりと思しき、赤ん坊が二人、入っていた。
茫然自失のお顔をされたまま、陛下はぱったりと倒れておれらたので、渋々、セッツァー殿に事情を尋ねてみれば、何やら、泉の神様とやらから、勝手に授けられ、押し付けられた、俺達の子供だそうだ、と、ひっじょーーーー……に嫌そうに、彼は事情を語ってくれた。

長年。
……そう、長年。
陛下には陛下の御意志があらせられるし、私のような者が口を開いて、陛下のお心を乱してしまうのは、申し訳ないと思って来たから。
エドガー様と、セッツァー殿が、同性だと云うに、身分の差の隔りも果てしなく広く深いと云うに、お互いの立場もあると云うに、何故か知らねど、恋人同士……一一ああ、見るのも嫌だ、こんな文字一一と云う関係を築いてしまい、それを存続させていることに、ぶつぶつ、くどくど、ねちねち、文句を云い募るのも、説教をさせて戴くのも、えんっっっっっえん、耐えて来たが。
正直に云って、未だにお二人の関係に、納得した訳ではないし、賛成した覚えも無いが、まあ、説得してみた処で無駄だろう、と云う境地にありつつ……。
これで、陛下のお世継ぎは望めない、と私は嘆いて来たが。
一一だがっっ!
何がどうしてどうなったのか、こ難しい話は無視しっっ!
私はこの事態を喜びたいっっっ。
子供っっっ。陛下の、陛下の子供っっっっ。
陛下が母上であり、あの、憎き放蕩ヤクザギャンブ………一一セッツァー殿が父上である、と云う部分だけが少々、知らされたくなかった真実ではあるけれども、それでも、陛下の血を引かれたお子様達に違いが無いと云うならっっ!
これは、フィガロ国に対する、神よりの授かり物っっっ。
例え、半分、あの男……ではない、セッツァー殿の血を引いていようともっっ。陛下のお子様であることには、変わり無いのだからっっ。
世継ぎっっ、姫君っっっ。
これを、喜ばずして、何とするっっ。
この際、セッツァー殿に婿養子になって戴いたとて、私は本望っ!
否、婿養子だと云うなら、イビリの対象に出来るだ……一一。
………………。
取り敢えず、陛下に、目覚めて頂いて………。

しかし、この金の髪のお子様と、銀の髪のお子様と。
果してどちらが、お世継ぎなのやら…。

08/20/2002 ………………可愛いかも知れない…。美味しいし(記載・エドガー)
XXXX年 XX月 XX日

現実の痛さの所為で、ふら、ぱたん、と倒れた後。
陛下、陛下、とじいやに叩き起こされ。
お子様が、お世継ぎ様が、姫君が、と、延々延々、まくしたてられた。
何も、歓喜の涙を流しながら、このお子様達は手放しませんっ! …とか、力説しなくてもいいと思うのだけれど……。
陛下のお子様、陛下のお子様……って騒がれても、ねえ……。
私自身には、100%自覚の持てない出来事なのだから……困る。
……ああ、それにしても……。
どうしたらいいんだろう、この赤ん坊達。
じいやは、陛下が御育てしないと云うなら私共がっ! なんて言い張ってるけど。
この子達が、何処をどう間違っても我々の子だと云うならば、私達が育てるのが筋だろうし。
だけどっっ! 私は子供を産んだ覚えもないし、そもそも、産めないしっ!
………………でも…まじまじ見ると、この子達……可愛いかも知れない……。
ああ、泉の神様とやらの云うことは、本当なのかも知れない。
本当に、私と彼が混ざってる。
私達が、瞳の色だけ、交換したみたい。
金髪に紫紺の瞳って、結構綺麗かも。
銀髪に紺碧の瞳も、悪くないし……。
一一一一一一どうしよう。愛情が湧いた……。
私の子、と云う部分は兎も角、セッツァーの子、と云うなら……そ、育ててもいいかな……なんて…そのぅ…………。
御両親は揃っておられた方が、お子様の為になるから、セッツァー殿に何とか入り婿になって戴いて…なんて、じいや、云ってたし……。
それはそれで、私的に、美味しいし……。
み、認めちゃおうかな。我々の子だ、って。

08/21/2002 猿?(記載・セッツァー)
XXXX年 XX月 XX日

ジイ様に叩き起こされ、失神から立ち直った後。マジマジとガキの顔を覗き込んだと思ったら、不意に。
エドガーの奴、自分と俺の子かも、なんて言い出しやがった。
いいや、きっと、自分達の子だ、とも、云いやがった。
私達に良く似てる……って、なあ、エドガー?
単に、髪の色と瞳の色が、一緒ってだけだろ? そりゃ、髪と瞳の色の組み合わせが混ざってるから、そう云われても、その部分、反論する根拠、ってのの持ち合わせがあんまり、ねえのは確かたが。
可愛い? コレが?
俺には、猿にしか見えねえぞ?
………………そりゃ、まあ……な、可愛げの欠片もねえ、たあ云わないが……。
愛くるしい? 守ってやりたい? 育てたいぃぃ??
…エドガー、それは世間で、母性本能っつーんだぞ。
男のお前に、んなものの持ち合わせはねえだろうがっ。
お前、このガキ共に愛着湧いたのか、それとも、俺を入り婿にさせたいのか、どっちなんだ? マジな処は。
ま、お前がどーーーーーーーー……っしても育てたいっつーんなら? 俺は反対しないし、勝手にしろ、とも思うが。
俺にゃ、俺とお前の子供だ、とは思えねえし、入り婿なんぞになるのも、御免だが……。
でも、な。俺も手を焼く程、頑固だからな、この王様は。
育てるったら育てるんだろうし、婿にするったら婿にするんだろうが……。そもそも、どうやったら、一国の王が男を婿に迎えられるってんだか…。
ああ、溜息が出そうだ。
さて、どうするべきか……。
一一あ、確かめてなかったな。どっちが野郎で、どっちが女なんだ? こいつら。
……いいだろうが、ガキの服の一つや二つ、剥いでみたって。減るもんじゃねえし。
んー……と?
ああ、金髪で紫紺、の方が女で、銀髪で紺碧、の方が男か。
……フン…。双児って割にゃあ、あんまり似てねえが……。
女の方は、エドガー似……だな。で、男の方は…………一一。
俺似、か……。本気で、溜息が出るぞ…。
だが……まあ……こいつらが、大きくなった処を想像してみると……案外、悪くないかも知れねえな……。

一一一一エドガー。父性本能って言葉、あったっけか?


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