final fantasy VI 『背徳の塔』
前書きに代えて
……やっぱり。最初に、謝罪を。
御免、御免、御免っ!(いや、誰に謝るって、キャラになんですが……)
──と云う訳で。
この話は、『人でなし小説』である、『優しい悪魔』な設定のお話の、一応の完結編です、が(多分)。
今回、この『背徳の塔』、と名付けられた小説は、人でなしを通り越えた、『病んでる小説』です(滝涙)。
そして多分私は、マッシュにも謝らなければならないでしょう……。
で、今回も更に云い募ります、これを書き上げた時点で私は、真面目に、封印を考えました(……物騒だな、自分(遠い目))。
尚、叶いますならば、このお話は、優しい悪魔→魔物の戀謳→と、この順番に添って、それぞれの作品をお読み戴いた後に、お目を通して頂けたら幸いです。
それでは、どうぞ。注意
誠に勝手ながら。
この物語には一部、残酷と感じられるかも知れぬシーンが登場致します。
皆様、御注意下さい。
その様なシーンに接せられた際の御自身の律し方が不安定な方は、
ここから先へ進む事を、御遠慮下さいませ。
当方は、一切の責任を、関知致し兼ねます。
御了承を。
黄土に慈愛注ぐ、我等が神の名の元。
性同じくして生まれた者との交わりを禁ず。
最大にして、最悪の罪なれば。
──判っていた。
世界崩壊に絡んだ、長い混乱の時代が終わって、世界に、見せ掛けだけでも平和が訪れて暫く。
世を救う為の旅から戻り、漸く腰落ち着けた祖国が、傍目にはそれと判らぬ混乱の中に、あろうとしている事も。
大国の驚異が消え。
世界が崩れ去る恐れが消えて。
昔の様な、安穏と緩慢を取り戻した祖国……否、祖国の大貴族達が、軍事と崩壊の恐怖に晒される以前の様な国を求め。
祖国の為に、祖国に住まう民の為に……と、秩序ある国家の礎を築き直そうとしている、己達が崇めるべき側を、何とかして『黙らせる』方法はないものかと、思案する事に熱中しているのも。
だから。
俗に云う、宮中での権力闘争、と表現出来るそれが、戦いの日々が終わったフィガロを、被い尽くそうとしている事など。
国王──エドガー・ロニ・フィガロにとっては、理解して余り有る現状だった。
貴族、と云う名の身分に生まれついただけで、半端な権力を振り翳し、大切な祖国を私欲の為だけに利用しようとしている年寄り達を、何とかしなければならない現実も。
そんな彼等に、隙を見せてはならぬ事も。
……けれど。
あの旅路の果てに築き上げた愛は深く。
この身を切り刻んでも、決して逃さぬと云わんばかりの態度を示す、己にだけは優しい、魔物の様な性の恋人が、捧げてくれる愛も深く。
彼がもし、この躰を裂く事を望み、命途絶える事で不安を捨て去れるならば、何も彼も、彼の意に添っても構わないとさえ思う程、エドガーは恋人を思い慕っていたから。
欲深い年寄り達に知れたら、如何なる風にでも利用されてしまうだろう、たった一つの『罪』を、彼は犯し続けていた。
全ての事を、過ぎる程に承知しつつ。
抱えた、愛と云う名の背徳の罪故に、何とかして納めなけれぱならない貴族達の思惑に、今一つ、決定打が打てぬままの事態を憂いながらも。
戦いの旅の中で得た恋人──同性の、けれど、心休まらぬフィガロの王として立つ彼にとって、唯一無二の、至上の、何ものにも変え難い、最愛の人との関係を断ち切る事など、出来はしなかった。
長い、長い、冒険の旅の果てに得た、唯一の人との交わりが。
砂漠に生まれた全ての者崇める、祖国の国教に於ける、最大且つ最悪の禁忌である事など、充分過ぎる程に、承知していたけれど。
エドガーは、セッツァー・ギャビアーニと云う名の恋人を、手放す事が叶わなかった。
恋人は……エドガーにとって、己が命にも、等しかった。
情事の最中、慈しみも、痛みも、何も彼も、全てをぶつけてくる様な……想い人の全ては己のものなのだと、そんな愛し方しか、そんなsexしか出来ない、哀れで優しい彼を、禁忌だからと手放す事など、考えられなかった。
…………この身とこの命を、腕の中で費えさせる事が、恐らくは、セッツァーの秘めたる願いだろう様に。
彼と一つになる為ならば、最愛の人の心の臓を、自らの手で、自らの剣で、貫いたとしても構わぬと、エドガーも又、思っていたから。
この身を喰らいたいならば、喰らえ。
それが『愛』ならば、それでいい。
私も、『貴方』を、喰らってしまいたいのだから────。
それは。
何も彼もが、背徳だけに満たされていると判っていながらも応じた、真昼の、中庭での情事を経て、一月程が過ぎた頃だった。
あれから若干、弟の様子がおかしい事に、エドガーは気付いていたが。
まさかそれが、あの情事を目撃した事に端を発しているとは夢にも思わず。
相も変わらず、国政に口を挟んで来る年寄り達を、どうやって黙らせようかと、その弟と共に、執務室で思案している最中、彼は又、恋人の訪問を受けた。
一応は、王の客人、友人、と云う偽りの態度を纏って、セッツァーはフィガロに顔を見せる。
尤も彼は、あの様な場所で情事に及び、マッシュに見られてしまっても、理不尽な行動でそれをねじ伏せ、彼が、祖国の国教やその理に捕われる様な柄ではないのを良い事に、エドガーの知らぬ所で、マッシュにだけは、なし崩しの形で己とエドガーの本当の関係を認めさせてしまう様な男だから、フィガロ国教の定める禁忌や、国王自ら禁忌を犯している事が知れたら如何なる事態に発展するかを、深い考慮の対象とはしていないが。
それでも、多少だけでも外聞を取り繕う事は、知っている様で。
初手だけは、親しい友を訪ねる振りを、してみせていた。
比喩ではなく、本当の意味で、己の体内の何処か、魂の中の何処かで、最愛の人を包み込んでいたいと願いつつ、それが叶わぬならばと、時に、恋人に苦痛さえ伴う事を強いてしまう彼は、エドガーだけが全てで、彼と育む愛だけが全てで、誰に関係がばれようがどうなろうが、知った事ではないと云うのが本音ではあるのだが。
…………それでも。
他人には、矛盾にしか聞こえないだろうが、表立ってエドガーの外聞を悪くはしない様にとは、セッツァーも若干、思ってはいる様だった。
「じゃあ……兄貴、又後で……」
決して、諸手を上げて賛成している訳ではないが、兄と友が、本気で愛し合っているならば、他人がどうこう云うべき事ではないし、国教がどうのこうのと云った理屈をこねるべきでもないと云う境地に、彼は達していたから。
『友』の訪れを受けて、マッシュが席を立った。
「あ、ああ……。そうかい? じゃあ、又後で……そうだな、三人で、夕食でも」
そそくさと、出口へと向かった弟に、エドガーはそう声を掛け。
気まずそうな風情の弟と、何も知らない兄とを見比べて、セッツァーはくすりと、シニカルとも言える笑みを浮かべた。
──危うい、彼等が踏み止まるその一点でのみ均衡が保たれている……が、その一点も、鋭い針の頂点でしかない、そんな真昼の一時が、訪れたその日、夜半。
エドガーが口にした通り、彼等が三人で夕餉を摂り、秘めやかな、恋人同士の時間が過ぎて。
朝までを閨で共にする事だけは、首を縦に振らないエドガーに、客間へとセッツァーが追い立てられた数刻後。
針の一点に立つ彼等自身にさえも、危ういと判っていた均衡は、文字通り、音を立てて、崩れた。