獣のような動きを見せて、覆い被さられ。
着ていた服を、見事、としか言えぬ手際で、しかも半端に脱がされて。
接吻(くちづけ)を交わさせられている間に段々と、躰の奥の方に、ポツリ、欲が灯り始めて来たのを悟っても。
往生際悪くエドガーは、どうにしかして、セッツァーから逃れられないだろうかと、無駄な足掻きを続けていた。
傍目から見た場合、恐らくはエドガー自身もそうであるように、セッツァーはやたらと、『寝台の上で情事の相手を押さえ込む』為の技に長けているから、組み敷かれたら最後、形勢を逆転させることなど、エドガーには出来ない。
付け加えて今の彼には、半端に暴かれた衣装が、まるで、セッツァーの言葉のみを聞き届ける生き物のように絡み付いているから、余計。
交わしているキスの心地良さに酔い始めて来た彼には、抗いようなどないのだが。
唇を重ね、舌を絡ませ、吐息を交わして、でも。
「嫌だって言ってるのにっっ!」
彼はひたすらに、拒否を告げ続けた。
「くどいな、お前も」
が、事の始まり、高らかと宣言した通り、己の企みに従って、是非もなく恋人を押し倒したセッツァーが、その程度で引き下がる筈もなく。
「ま、お前は何時でも、言うことよりも躰の方が正直だから? 嫌だと言いたきゃ幾らでも言ってろ」
一度は離した唇を再び重ね合わせて彼は、絡み付くシャツが覆い隠しているエドガー自身へ、布の上から触れた。
「……よくもまあ、恥ずかし気もなく、そういうことを口にするね、君、はっ」
言われたこと、触れられた場所、その双方に、カチン、と来たのか。
そうされた途端、上手く身動きが取れない躰を何とか捻ってエドガーは、セッツァーの手を強引に払って、いけ好かない恋人を張り飛ばすべく、右手を振り上げた。
……が、それは何処までも無駄な抵抗で。
無理矢理な体勢で振り上げられた右腕は、難なくセッツァーに捕まえら、引かれ。
抱き竦められるような姿勢に、エドガーはなり。
又、接吻で誤摩化されるのは堪らない、と顔を背けたエドガーの首筋に、セッツァーは唇を寄せた。
「…………んっ……」
落ちて来た唇は、一度、軽く首筋を遡って、耳朶を食み、濡れる音を立てながら、今度は肌を辿りながら下り。
肩口に、僅かばかりの痛みを残した。
だからエドガーは、喉の奥から、鼻に掛かった、甘い声を洩らし。
憎まれ口でない『声』が返って来たことに、気を良くしたのかセッツァーは、幾度も幾度も、繰り返し、恋人の肌に、小さな痛みを残し続けた。
「……お前、何を隠してる? どうして、俺は知らないのにリルムは知ってる、お前の秘密があるんだ? どうして俺は、それを知り得てないんだ? …………白状するなら、今の内だぞ? 今の内に白状したら、手加減はしてやる」
「…………手……加減……? 止めるのではなくて……手加減……?」
「そう、手加減」
「……ぜっったい、言わないっ」
「…………いい度胸だな。俺に隠し事があるのは認めるが、言うつもりはない、と。────エドガー。お前、SMって興味あるか?」
「有る訳がないっっ!」
「……怒鳴るな。外に聞こえる」
当分の間、消えることはないだろう痕を、幾つも散らしてやれば、洩れるエドガーの声が、益々甘くなったのに、気を良くして。
問いたかったことを、セッツァーが問えば。
パッと、正気に戻ったように、再び彼が、声を張り上げ始めたので。
上衣を脱ぎ捨てた時、一緒に取り去ったスカーフを、寝室の床から取り上げて、エドガーが何かを訴えるよりも早く、取り上げた、白く長く薄いそれで、恋人の手首を、一纏めに縛めてしまった。
「……セッツァーっっ」
「お前がとっとと白状すりゃあ済む話だろうが。俺だけに、非がある訳じゃねえぞ? ……気に入らねえんだよ。世界中何処を探しても、お前以外誰も知らない秘密ってんなら兎も角。俺が知らないで、他人が知ってるお前の秘密があるってのが」
両手の自由を奪われて、唇を噛み締めながらエドガーは、強くセッツァーを睨み付けたが。
自分ではなく、お前が悪い、とセッツァーは居直り。
何かをぶつけるように、己のシャツの釦を乱暴に外してから。
大きく割り広げたエドガーの両脚の中心に、顔を埋めた。
「え、ちょ…………っ。セッツァーっっ」
寝台の上に、転がされるしかない己の視界から、恋人が消えた途端。
『己自身』に何が起こったのかを否応なく知って、エドガーは、その身と声を振るわせる。
「白状しないなら、手加減はしてやらない。手加減する必要がないなら、とっとと追い詰めた方が、話は早い」
……けれど、彼の声がどれ程震えようとも、セッツァーの手際は変わらなくて、唇と舌を這わせた熱いそこを弄びながら、意地悪く、冷たく、語った。
「……拗ねた子供……じゃ、あるまい……しっ……」
「悪かったな、ガキで。──お前が何を見定めて、道を踏み外したのかは知らないが。俺が道を踏み外した相手は、男の、しかも当代フィガロ王だ。…………言ってる意味、判るか?」
「そ……れは…………」
「相応の覚悟と。相応の想いと。肩に担いで道を踏み外すことになっても構わないから、俺はそうしたんだ。そうしてもいいと思えるくらい、お前が欲しかったから。……だから、お前は俺のものだ。……そうだろう? ……なのに。リルムが知ってて俺が知らないお前の秘密がある、だなんて。許せる訳あるか」
追い詰める手を、緩めることなく語り続けるセッツァーの声は、何処までも、冷たく響くそれで。
「……だ……って……っ。言いたくないものは、言いたくないっ……。──んんっっ……」
真実、手加減も遠慮もなく追い立てて来る恋人の手、そのくせ、甘く伝わることなど有り得ない、恋人が恋人に語り掛けているとは到底思えぬ冷ややかな声音に、悔しそうに、エドガーは唇を噛み締め。
泣き出してしまう時の前兆のように瞼を振るわせ、彼は。
それでも、決して屈しないとでも言う風に、セッツァーから精一杯顔を背け、その息遣いを詰めた。