翌日。
エドガーと共に寝てしまったが為、こなせなかった分の作業を挽回してしまおうと。
本来の素質故か、機関に興味を示したらしいエドガーの質問攻めに遇いながら、セッツァーは再び、機関室に籠っていた。
機械の唸りでうるさく、機械の熱で暑いその部屋に、ちんまりと座り込んで、ああでもないの、こうでもないの、一々、恋人には尋ねられたが。
嫌な顔一つせず、セッツァーは、手も休めぬまま、問いに答えた。
そうして。
そんな風に、ゆるゆると、時間だけが過ぎて行き。
ふっ……と、エドガーの質問が途切れ。
又、喋り疲れて眠ってしまったのかと、セッツァーが振り返れば。
座り込んだその床の、木目をじっと見つめて、エドガーは俯いていた。
「……どうした?」
眠っている訳ではないが…何と云うか、何処か憂鬱そうな色を、俯いた頬に見つけ、セッツァーは首を傾げる。
「………………あの、ね」
声を掛け、暫し後。
意を決した風に、エドガーは顔を上げた。
「何だ?」
「……んと……。あ…い…あいして…る……て……なに?」
「愛してる? ……何、と云われても、なあ……」
真直ぐに、曇りのない紺碧の瞳で、恋人であり、今は『我が子』でもある人が、見つめてくるから。
「そうだな……。──好き、って判るか?」
「…うん」
「愛してるってのは、好きってことの、延長…っても判らねえか。──好きってことの、あー……大きいこと、だな多分」
回答に苦しみながらもセッツァーは、答えてやる。
すれば。
「うーんとすき、てこと?」
「そうだ」
「うーんとすき、て。……ちゅ、てすること?」
「……は?」
「んとね。ここにね、ちゅ、てすること?」
己の唇を指差し、触れ、エドガーは、上目遣いをした。
「………まあ、な」
──夕べ、こいつは起きてやがったのか、と。
恋人の仕種を見遣って、セッツァーは悟り。
バツが悪そうに、前髪を掻き上げた。
「パパ、だから?」
「違う」
「パパ、だとだめなの?」
「そうじゃない。パパやママの……ってのも、あるからな」
「てったーの、ちゅ、は?」
「パパだから、じゃねえな」
「……てったーの、ちゅ、なに?」
「だから、それは…………」
「パパ、だめなの? なら、てったー、ぼくのパパじゃなきゃいいの? んと……んと……ぼく、ね…。んと……。うーんと、すきなの、てったー。てったーのトコがいいの。でも、てったー、パパ、だめでしょ? ぼく……んと……んと……あの、ね…………」
──幾許か、視線を逸らしてしまったセッツァーに。
エドガーは、懸命に、云い募って。
床の上を這うようにし、セッツァーへと近付いた。
「…てったー、ぼく、すき?」
それでも視線を逸らしたままでいる『パパ』を、彼は見上げ。
必死に、問う。
「……ああ」
「どすれば、てったーのトコ、いてもい?」
「別に、何もしなくてもいい……」
「パパ、だめなんでしょ? てったー、ぼくすきでも、だめなんでしょ? パパ、だめなら。どすれば、あ……あいしてくれる、の? パパでないと、めんどう? みてくれないんでしょ? どすれば、あいしてくれるの? ちゅ、するくらい」
「エドガー。……お前は、何もしなくてもいい。俺が、お前のパパだろうとパパじゃなかろうと。何もしなくても、俺は……」
そこで漸く、セッツァーは。
エドガーの瞳を捕え。
苦悶の色を浮かべた。
「だ……って………。パパ……じゃない、と……。パパ………? 愛し……? パパ、じゃないのに……ちゅ、て………────。てっ…頭…いた…い……」
──幼子に戻ってしまったエドガーの中で。
『好きでいられること』、『愛されること』、それらが、如何なる意味を持っていたのか。
それは、彼以外の、誰にも判らない。
けれど。
セッツァーに『そうされること』、それに、明らかな『執着』を、エドガーは見せ。
苦悶の色を浮かべられても、御免なさい、とは引き下がらず。
『判らないこと』を、判らないなりに、考え続け、言葉を紡ぎ続け。
「おい……エドガー?」
「いた……。痛い……。頭……痛…………」
セッツァーの目の前で、頭を抱えたまま、ふらりと体を傾げ、差し出された腕へと、エドガーは倒れ込んだ。